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【障害者水泳 指導者養成研修】それぞれの障害者について③


■気管切開児、全身寝たきり児、四肢欠損児など

冒頭にも書きましたが、陸上では気管切開している子ども、全身寝たきりの子ども、手も足もない子どもは重度障害になるのでしょうが、水の中ではそれほど難しいテクニックがいるわけではありません。
気管切開しているところを水没させなければいいだけのことです。
そこだけに気を遣って入水してもらっています。
それさえ守れば自由に遊べます。
全身寝たきりの子どもも、手も足もない子どもも同じです。
入水するときと退水するときは少し気を使いますが、水の中に入ってしまえば案外、楽に指導ができます。
それと、子どもたちは意外と乱暴に扱われると喜びます。活発に遊びたいんだろうな、って思います。
いつもは腫れ物に触るような接し方ばかりされているのだろうなぁ。
 

■スイングとウェーブ

脳性マヒの人とは何人も一緒に入水しましたが、一人で泳げるようになったという人は、何人もいます。
でも、全身マヒで寝たきり状態の人や両手両足のない人では一人もいません。
必ず、介護者が水中で体を支えることになります。
泳ぐというよりは、水の浮力、水の中を浮かぶ浮揚感、水が肌を流れる快感を体感してもらうことくらいしかできません。
こういう人たちには「スイング」や「ウェーブ」が有効です。
水面で介護者が後ろから両手を障害者の脇に通し、腰のあたりから下をゆっくり水の抵抗を感じながら横に揺らすのです。
介護者は、水底にしっかりと両足をつけて、転ばないように踏ん張ります。
このとき、アクアシューズを履いていると滑らないのでいいですよ。
されている障害者は、とても気持ちがいいので途中で眠ってしまう人も少なくありません。
横に揺らすのがスイングで、縦に揺らすのがウェーブです。
スイングは人気があります。
 

■「定期的な練習が必要」

一回だけで水泳指導終了なんてことは、100%ありません。
一回だけの場合は、水泳指導ではなく、「楽しい水遊び」ととらえることです。
彼らには、定期的で継続的な指導が必要なのです。
「泳ぐのが楽しい。」「25mを泳げるようになる。」など、水の楽しさや泳ぐ技術を習得するには
かなりの、かなりの、かなりの時間がかかります。
プール・ボランティアでお預かりしている子どもは、10年、20年在籍している子どもがたくさんいます。
継続することで成果が見えてくるのです。
 

■子どもの潜らせ方

「泳げるようになる」ということは「潜ることができる」ということです。
あるお母様が、「うちの子どもは泳げます。」と言うので見せていただいたのですが、その子はビート板を持って軽快に25mを何往復もするのですが、水に顔を浸けることができません。
これでは泳げることにはなりません。その子にとっての水泳はビート板を持ってプールを行ったり来たりするだけの単純作業になっているのです。
水泳を楽しんでいるわけではありません。

① 一番最初にすることは、誉めたり、脅かしたり、いろいろなアプローチを試みながら本人に自発的に潜るよう促すことです。この方法が最も安全な方法です。
②しばらく試みても改善が見られない場合は、強制的に潜らせることになりますが、この方法はある程度の危険も伴いますので慎重に行いましょう。(そこまではしなくていいです、という保護者がいましたら、もちろん潜らせてはいけません。保護者の同意は必ず必要です。)
・必ず、正面から、そして相手の顔を見ながら行います。
・必要であれば、両手首をぐっと強く握りましょう。逃げられたり、暴れたりされるとかえって危険です。相手にあきらめさせることが大事なのです。
・絶対にしてはいけないことは、前触れなく突然に沈めることです。息を吐いたときに沈められると水を肺に吸い込んでしまいます。ですから、相手の呼吸を読みましょう。息を吸ったときに潜らせるのです。
・今から、潜る練習をすることを相手に伝えます。「いっち、に、の、さ~ん、で潜るからね。」
・1回目は、潜らせると見せかけて、口くらいのところでやめておきます。(このときに様子をみます。あまりに相手が暴れたりパニックになるようだと、それ以上は強引にしないで、今回はあきらめて、あっさり引き下がりましょう。)
・1回目の様子を見て、「いけそうだな。」と判断したときは、2回目はしっかり潜らせます。脚を水底に踏ん張るようであれば、ボランティアさんの脚で、子どもの太ももなどを軽く後ろに押してスルッと潜れるようにします。
・潜らせるときは、ボランティアも必ず一緒に潜り、水中で相手の様子を観察してください。目を開けているか、鼻から息を吐いているか、あまりに怖がってはいないか・・・などです。
・最初のうちは、3回ほどで終わらせ、あまりしつこくしてはいけません。潜らせる回数を事前に伝えておきます。そして、毎回、少しずつ、潜る練習を継続します。
・潜ることができたときは、とにかく誉めまくりましょう。
・潜ることを覚えた子どもは、その後も、ずう~っと自分から潜るようになります。これで成功。
水泳の楽しさは、水中にあるのです。
 

■指導者の表情

いつも、明るく楽しそうに指導しましょう。
しかめっ面の厳しい表情で指導していたのでは、見ていても楽しくありません。
そのためにも、仲間と一緒に指導するのがいいのです。
一人だけだと、ホント孤独感満載で無表情になります。
 

■「先生」と呼ばれることについて

ぼくも、ボランティアさんたちも、保護者から「先生」と呼ばれることについては、ちょっと恥ずかしいし、偉くもないのにと思うのでホントは嫌なのです。
ですから、20年ほど前に「先生」と呼ばないでください、とお願いしたことがありました。
でも、保護者の皆さんから、「子どもたちにとっては、先生と呼ぶ方がわかりやすいので・・・」と申し出がありました。
なるほどなぁ・・・・・で、今では、「先生」と呼んでもらっています。


■心が折れることもあります。

障害者を指導していて、いろいろな事情で「心が折れる」ということはよくあることです。
そういうことを避けるために、プール・ボランティアでは、できる限り「1対1」だけの指導は避けています。
仲間と一緒に指導する体制を作りましょう。
事故防止にもなります。何かあったときに助け合うこともできます。
プール・ボランティアは完全マンツーマン指導体制ですが、ひと組だけで指導することは、ほとんどありません。
20人の障害者に、20人のボランティアが、それぞれマンツーマンで指導する、というように仲間たちといっしょに助け合って指導しています。
これだとボランティアさんの「心が折れる。」ということを防げるのです。
 

■いつ上手になりますか?

「私の中学生の息子は、1mmも水に顔を浸けることができません。」と言って連れてこられたダウン症の男の子は、一年も経たないうちに、バタフライまで泳げるようになりました。
でも、10年近くお預かりしている男の子は、10年前とほとんど進歩がありません。
練習を積み重ねていって少しずつ上手に泳げるようになる、って子もいます。
でも、ある日突然、理由もわからないけれど、何がきっかけなのかもわからないけれど、「いままでできなかったことが、突然、劇的にできるようになる。」という子もいます。
長い経験の中で、そういう子どもが少なくないことはわかっているのですが、何が原因なのかはいまだによくわかりません。
保護者とは、「今に化けるから、それまで気長に待とうね。」って話しています。
 

■立ち方

赤十字の水上安全法の教本の中にも書かれてありますが、
ダルマ浮きからの立ち方、伏し浮きからの立ち方、背浮きからの立ち方の練習は、とても大事です。身体障害者が水中で転倒した時に、自分一人のチカラで水面に顔を浮上させることができないと溺れてしまうからです。
 

■水中座禅・息止め練習

脳卒中などで片麻痺になった人、転落事故や交通事故で車いす者になった人、SCD(小脳変成症)や難病の人、視覚障害者などの身体障害者には、最初に1分間の息止め練習をしてもらっています。
後ろから両肩を押し下げて、水底にお尻をつけて1分間です。
潜らせながら、プールサイドにある一分計で5秒ごとに声をかけて教えてあげます。
苦しくなったら、合図をもらい浮上させます。
1分間という長さは、陸上でストップウォッチで体感すると、とても長く感じます。
でも、意外とみなさん、あっさりクリアされています。
「ああ、一分間は、潜っていられるんだ。」 ということがわかると、水中で何かトラブルが発生したとしても、それなりに自信があるのでパニックにならなくて済むのです。
こういう水中座禅は、そのための練習と位置付けています。
3分間の水中座禅をした青年の障害者もいましたよ。
 

■背浮き

指導者は、背浮きも教えてあげてください。
一人で誰のチカラも借りずに浮いていられる、というのはすごく楽しいことだし、自信になります。
そして、その背浮きの状態から、ほんの少し手を動かすだけで進むんだ、ということがわかればもっと泳ぐのが楽しくなっていくのです。