【障害者水泳 指導者養成研修】それぞれの障害者について②
■ダウン症児について
こだわりの強い子もいるし、弱い子もいるし、明るく陽気な子もいるし、無口で接触が苦手な子もいるし、まぁ、いろいろなタイプの子どもがいます。
ひとくくりに「ダウン症の子どもは、、、」って本に書いてある内容と現場で見る子どもたちとは、全然違います。
これは、どの障害についても言えることです。
本に書いてあることと実際の現場の障害者とはかなり違います。
ここでも、一人ひとりに適した指導が必要になります。
ダウン症児は、老化が早い、って言われます。
現場で見る限り、よくわかりません。
■視覚障害者の指導方法
一般的な視覚障害者の誘導や案内については、いろいろなところで公開されていますので、ここでは省略します。
プールで指導する上で、重要なことは衝突と接触を避けることです。
視覚障害者は自ら危険を回避することができません。ですから、指導者が十分に衝突と接触について注意してあげてください。
特に、プールの壁に激突しないようにすること。そして、コースロープに指をひっかけて指を骨折しないように注意しましょう。
視覚障害者の泳ぎを止めるときは、指導者が全身を使って壁から2mくらい手前で止めたほうが安全です。
ですから、そこそこ泳ぐ視覚障害者には2名の介助者が必要です。スタート係りとゴール直前で体を張って止める係です。
パラリンピックに出るようなタッピングで壁の存在を教えるほどの選手が市民プールで泳いでいする姿は見たことがありません。
そこまで、たどり着くような環境がまずないからです。
そういう姿が当たり前になってくるような社会がいいですね。
視覚障害者がコースで泳いでいるときは、監視員がその旨を掲示するか、お客さんに声かけをする必要があります。
そうしてくれるとありがたいんだけどなぁ。
■視覚障害者には全体像を教える。
以前、大阪のUSJ(ユニバーサルジャパン)に招待されて、そこでの障害者対応についての説明を聞きました。
たとえば、USJではジェットコースターに乗るときには、そのジェットコースターの小さくて精巧な模型を視覚障害者に触ってもらって、
「あなたの乗る乗り物はこんな形です。そして、あなたの座る席はここです。」って事前に説明をしてくれるのです。
なるほど、なるほど。
視覚障害者は、すぐ身の回りのことはわかりますが全体像がわかりません。
プール・ボランティアでも、初めて指導する視覚障害者には、まずプールを一周、歩いて回ってもらいプールの広さを体感してもらい、いろいろな設置しているもの、採暖室やシャワールームなどの全体像をつかんでもらってから泳いでもらっています。
■指導者が標的にされる場合
知的障害者に何か気に入らないことがあったりすると、特定の指導者が攻撃の標的になることがあります。とても、しつこく、彼らに手加減はありません。
もちろん、指導者は反撃することはできません。
こういう時、どうすればいいのでしょうか?
指導者のプライド、恥、などを捨て、その場から、「逃げること」「姿を隠す」ことです。
姿を見られると、それはもうしつこく追いかけられることになります。
一週間もすれば、ケロッとしている場合もありますが、執拗に覚えていて再び標的にされることもあります。
何か工夫が必要ですね。
■虐待ですか?
A君は強度の自閉症です。そして、すごく怖がりです。身長は、160㎝以上あります。
でも、水深30㎝のところにも足を踏み入れることができません。
周囲の大人たちの様子、つまり「あの人の身長からすると膝までしか水に浸かっていないのだから、ぼくの身長だと溺れることはないし、浅いプールに入ってもぼくの膝くらいのところしか水は来ないな。」っというような推測ができないのです。
押しても引いても怖がって動きません。
ぼくは、思い切って彼の体を抱きかかえて浅いプールに連れて行くことにしました。
「助けてぇぇぇぇ。殺されるぅぅぅ。」
大きな声で叫び、暴れ、大変でしたが水底に足をつけさせました。
もちろん、膝くらいにしか水には浸かっていません。
それを自分の体で実感すると、A君は楽しそうに水遊びをし始めました。
周囲のお客さんからは、「あれ、虐待とちゃうの?」って最初は不審がられましたが、そのあとのA君の楽しそうな姿を見ると、
「良かったねぇ。うまくいったねぇ」って喜んでくれました。
すべての場合に当てはまることではないかもしれませんが、指導者は、ときにはこういう思い切ったことをすることも必要なんじゃないかな?
■知的障害者の他傷行為などについて
暴力や暴言は、担当するボランティアに対して、あるいは保護者に対して向けられた時は「身内の中だけのトラブル」ということで穏便に済ますことができます。
問題なのは、その矛先が他の一般客や施設に向けられた時です。
・いつも自分が更衣する椅子に他人の衣服が置いてあったので、4階の窓からその服一式を投げ捨てた。
・隣のコースで泳いでいた女性に覆いかぶさって羽交い絞めにした。あやうく溺死させるところでした。被害を受けたその女性の死の恐怖を考えたとき、謝罪する言葉さえ失いました。
・プールサイドに置いてある大きな観葉植物の植木鉢を放り投げた。
・トイレの便器を割る。
・トイレの壁や更衣室のベンチにウンコをこすりつけていく。
・プールサイドでオナニーを始める。
・プールサイドに頭をガンガン打ちつける。
・靴や床をペロペロ舐める。
・プールサイドを歩いていた小さい女の子の髪の毛を引っ張る。
・ジャグジーで隣に座った人に噛みついた。殴った。
・プールに向かって立小便をする。
・プールサイドやプールの中で大便をする。
・卑猥な言葉を大声で叫ぶ。
・プールサイドを猛スピードで走りまわる。
・トイレットペーパーをすべて使いきる。
・非常ベルを鳴らす。
こんなのほんの一部です。
いずれも、突発的な出来事で事前に防ぎようがありませんでした。
みんながみんなこういうことをするというわけではありません。
特に、知的に重度な人だけです。
「ええっ、こんなことがあるの?うわぁ、そんなんやったら、障害者に水泳指導なんてやめとくわ。」って思う指導者志望の人たちの気持ちは、もう痛いくらいにわかります。
これらも、障害者水泳指導に関わる指導者が少ない原因の一つでしょうね。
「こんなキチガイみたいなやつ、連れてくんなや!」って、お客さんから言われたときのつらさは、言葉では言いようがありませんし、反論することさえできません。
ひたすら謝罪するだけです。
■パニックを起こしたら・・・
子どもがパニックを起こしたら、もうどうすることもできません。
パニックが治まるまで、ゆっくり待ってあげてください。
しばらくすると、パニックは必ず治まります。
してはしけないことは、周囲の大人があわてて騒いだり、大きな声をかけたりすることです。
こうなると、余計にこどものパニックが長引き、さらに大きくなります。
ですから、「見守りながら、治まるのをゆっくり待つ。」が正解です。
■てんかん発作の応急手当
指導者は、てんかん発作の応急手当はしっかりと身につけたうえで現場に臨みましょう。
プール・ボランティアでお預かりしている子どものほとんどは「てんかん」を持っていますし、現場でのてんかん発作は、しょっちゅうです。
てんかん発作は対処法を知っていれば、それほど怖くありません。
【別資料参照】てんかん発作の応急手当(水中)
てんかん発作の応急手当(水中)
◆この発作は、5分間以上続くことはない!という強い確信を全員が共有すること。
・見た目にまどわされないように。
・発作中に意識があるかどうかの判断は困難。
・てんかん発作そのものが命にかかわるということは、ほとんどありません。
・5分間以上続く可能性もあることをチラッと考える。
◆原因
・原因は様々。プールの高湿度も原因のひとつです。
◆すべきこと
・静かに安静にして観察をする。
・気道を確保する。
・できれば体全体を少し横向きにする。唾液や嘔吐物を誤嚥しないように。
・保護者がいれば、保護者の指示に従う。救急車の要請など。
・余裕があれば、時間を計測する。医師に伝える。重要な情報。
・呼吸停止であれば迷わず水面上で人工呼吸です。(ほとんどないと思いますが。)
・心停止であれば、迷わず、プールサイドに引き上げて、胸骨圧迫、そして、AEDです。
・ゴーグルを外す。
◆してはいけないこと
・「○○君、○○君、大丈夫?しっかりしてぇ!」などと大声で騒がない。
・体をゆすらない。撫ぜない。押さえつけない。
・つまりは刺激を与えないということ。発作を長引かせる原因。
・口に何かを詰め込まない。
・プールから引き上げるよりは、水面で浮かせた状態で観察するほうがよい。
・無理に移動してはいけません。
・回復しても、再度の入水は絶対にしてはいけません。疲労しているから。
◆迷信
・何かに夢中になっているときには、発作は起きない、なんてことはないですよ。