【後編】未来へとつなぐ放課後バトン
経営体制変更を発表した放課後NPOアフタースクール。コミュニケーションデザインチーム(広報)の鈴木が理事メンバーに、どんな想いで放課後NPOに向き合い、これからの未来に何を願うのか、お一人おひとりにお話を聴いてきた内容をnote記事にしてお伝えします。後編は新たに副代表理事に就任したお二人と代表理事の平岩さん。そして外部理事のお二人からスペシャルメッセージをいただきましたのでご紹介します!
<記事前編はこちら>
※副代表理事に就任した島村さん、正村さんは対談形式でインタビューを行いました。お互いの想いに共感し合いながらお話いただいた様子をそのままお伝えいたします。
正村絵理さん |答えがないことに向き合い、喜びを共有できる放課後NPOは、私の「一部」
鈴木:正村さんは現場を志望して入職されたのですよね。当時のことをお聴かせいただけますか?
正村:自分の子がモンテッソーリの保育園に通っていた頃で、子どもの持っている力を環境や大人の伴走、あり方次第で最大限引き出せると知った時に、小学生にはそうした環境がなかなかないと感じていました。だから「自分で現場をつくりたいです!」と飛び込んだのです。でも採用面接で「いきなり現場責任者はちょっと…」と難色でしたね。やはり未経験では難しい、そもそも当時マネージャーポジションが求められていた中で無理もないかとあきらめかけた矢先、運良く東京農業大学稲花小学校アフタースクールの立ち上げが決まり、任せていただけることになりました。
開校日からの春休み期間中、最初の1週間は私にとって一生忘れられない思い出です。このアフタースクールを子ども主体の場にするんだという志を共にするチームメンバーと、子ども達と、学校の先生方と、保護者の方々と、思い描いていた場が産まれた瞬間、涙が溢れて止まりませんでした。内心不安も大きかった中、まずは1週間を乗り切り心からホッとしたんです。
入職して2年間、立ち上げから現場責任者までは、最初に私がここでやりたかったことをみんなと一緒に試行錯誤し、形にしていく日々でした。
鈴木:団体にとっても、一番いい時に正村さんに出会えたのですね。続いて島村さんにもお話をうかがえたらと思います。
島村友紀さん |社会課題解決は重要。でも、なんだか楽しそうだから私はここにきたのです。
鈴木:入職のきっかけを教えていただけますか?
島村:新卒で入社した企業で保育園の立ち上げや子どもの場づくりに関わり、とても魅力的で面白い仕事だと思っていました。転職を経て、自分自身も子育てをしながら仕事をしている時期に会社と保育園と自宅の三角地点だけで生きている閉塞感を感じました。私もこの子も社会の中で生きているはずなのに、これでいいのかな、もっと地域や社会につながる仕組みがないのかなと思い、インターネットで検索していたら放課後NPOのホームページに出会いました。「社会で子どもを育てる」、まさにこれだと思ったのです。
鈴木:はじめから事務局を希望していたのですか?
島村:当時、現場のマネージャー募集が出ていたので、経験的にもそのポジションかなと思っていたのですが、「攻めの事務局をつくりたい」という平岩さんの思いをお受けすることになりました。
鈴木:事務局がまだ体をなしていなかった頃ですもんね。2016年といえば4拠点同時開校の年ですね。
島村:そうですね。新しい人たちがたくさん入ってきて、そこここで自分がやることを自分自身で見出して実行する面白さに溢れていました。4月上旬、それぞれの開校日にそこに集うスタッフの想いやエネルギーが開花していたシーンがとても印象的でした。
鈴木:そうした立ち上げフェーズが落ち着いた後も、本当に様々なことがありました。正村さんも3年目以降は色々と変化を感じてこられたように思いますが、いかがですか?
正村:やっぱり大きかったのは、感染症ですね。当時私立アフタースクールのマネージャーでしたが、緊急事態宣言が多発し、一時的な閉室が余儀なくされていました。自分たちに今できることはないかと現場のみんなと話し合い、必要なご家庭に向けて事務所で「旅するアフタースクール」を開室したことも忘れ難いです。
島村:あの当時は本当に組織全体が苦しかったですね。経営的にも非常に厳しい局面に差し掛かりました。閉室対応、雇用調整金対応、感染症の検査立ち合い、事業収入減など、これまで未経験のことに日々追われる中で各拠点をはじめ職員の不安感もとても大きかったです。答えが見つからない中、様々な事業・経営判断をスピード感を持ってしていかなければならない状況でした。
正村:組織の拡大期に大きな外部環境変化が加わって、分断という程ではないかもしれないですが、経営と現場、あるいは配属や役割の違いからギャップが生まれやすくなる局面も迎えた感覚があります。「アフタースクール」の仕組みをスケールしていこうと事業開発チームの立ち上がりに関わり、その後ソーシャル・デザイン(企業連携)事業にジョインした私は、それぞれの組織体が課題や悩みを抱える中で、事業を越えた相互理解がとても難しくなってきたと感じていました。そうしたことに気づき、どう解消していくかが、振り返ると大きな経営テーマだったようにも思います。
島村:そうですね。放課後NPOは、放課後をテーマにいろんな人が集まってきます。それが団体の強みであり魅力でもありますが、それを事業活動として継続していくこと、生産性なども考えて仕組みも同時に整えていくことは経営的な難しさも伴います。その頃あたりから、各事業単位だけでなく、全体の効率性や効果、つながりを意識したデザインに自分の目線が変わっていったように思います。
鈴木:理事という役割の中でとりわけ大事にしてこられたことや副代表になられてこれから大切にしたいことはありますか?
正村:一番はメンバーの幸せですね。先ほどお伝えしたようにギャップが生まれやすい規模感になってきたものの、私たちはお互いがお互いの幸せを願う組織であり続けたい。メンバー一人ひとりの活躍を支える土壌を耕し、それぞれの挑戦が団体の成長につながる組織づくりに取り組んでいけたらと思っています。
島村:理事を拝命した当時、自分自身の経験値では、どこの範囲まで見ればよいのか、どういった軸で判断すればよいのかわからなかったのが正直なところでした。今も経営という言葉の咀嚼にも難しさを感じています。先輩理事の言葉「NPOは社会活動の器である」を胸に、共に働く仲間や共感して集まってくださる方々にとって最高の場であるために自分の役割を見出していきたいと思います。
鈴木:最後にお二人にとって、<放課後NPOアフタースクール>とは?
正村:私の一部です。趣味や生き方もここに含まれていますね。これまで経験したことがなく、誰かが答えを教えてくれるものでもない。難しいと思うことはたくさんありますが、それに向き合い、仲間と一緒に考えながら解決の糸口を見つけていくのはとても楽しいし、喜びを仲間と分かち合えるのがとても嬉しい。それが私にとっての放課後NPOアフタースクールです。
島村:学びと遊びの場です。たくさんのことを学び、いろんな人と共感したり、試行錯誤したりしながら自分たちなりの道を歩める場所が放課後NPOアフタースクール。向き合っている社会課題と同じくらい、そのプロセスが面白いと感じられることも大切だと思っています。これからも難しいテーマに取り組むことになると思いますが、「どうする?」とみんなで考えられるプロセスを大切に楽しみながら邁進していきたいです。
平岩国泰さん |日本の放課後の景色をより素敵なものに。
鈴木:法人化から15周年ですね。立ち上げ当時のことを振り返るとどんな感情が思い出されますか?
平岩:”こんな放課後をつくりたい”と思い描いていた「アフタースクール」の世界観・構想にいつもワクワクしていて、今もずっとそれが続いているような感じがします。子どものたちの学校に、面白い放課後をつくりたい。原点として「自分の子どものために」という父としての小さな願いもありましたが、これはきっといいものに違いないから、どの子にも、どこの学校でも実現できたらと。
鈴木:成長のスピード感は予想通りだったのでしょうか?
平岩:想定していたよりも時間はかかるのだと感じていますね。「こんなにいいものはきっと広がる」という思いはずっと根底にあるのですが、社会が変わることはそう簡単ではないことも実感していて、腰を据えて取り組むのだと思っています。今回、これから先の放課後NPOを見据え、検討に検討を重ねて経営体制変更を行いましたが、この体制がすべてではないと思っています。その時代に合わせて、柔軟に変化していけるし、そうでありたいです。
鈴木:平岩さんは放課後NPOという”1つのチーム”を大切にされていることがとてもよく伝わってきます。
平岩:僕がああしたい、こうしたいという意向はあまり組織には関係ないことかなと思いますが、それでも僕がつくりたいチームは、一人ひとり役割がちがうだけでみんなが同じ目標をもって頑張れる仲間同士です。放課後NPOはかなりそういう組織になれていると感じていて、そこは僕自身の願ってきたことの結果かもしれません。理事もひとつの役割に過ぎないのですよね。
鈴木:自分たちがありたい状態を目指す組織づくりですね。
平岩:株式会社の場合、利益をあげるという絶対的にわかりやすい目標があるけれど、NPOにとって組織がどうあるといいかという視点がまさに経営の勘所として大事なのだと思います。
最近の私の役割は、国への働きかけだったり、世の中に対して発信するなど、未来を見据えて遠くにいるステークホルダーに向き合っています。でも一番近くにいる大事なステークホルダー、スタッフの皆さんとの時間を一番に考えたいタイミングでは、ちゃんとそういられるようにしたいと思っています。一番遠くと一番近くを見るのが僕の役割だと思っています。
鈴木:放課後NPOは、ほぼすべての職員が入職した時点で今のビジネスモデル構想がありましたよね。それがまた今、TOC、KPI、ロジックモデルなどの策定を通してより具体にやることを決めているフェーズで、ある種強固なものになっているとも感じます。
平岩:ビジネスモデルや戦略などが決まると工場のように自動的に動いていくイメージがあるし、そういう仕組みも必要ではあると思います。でも、それだけではやはり広がらないし、何よりそれを動かすのは感情のある私たち"人"なので、そこからの耕しがむしろ重要です。私はお米を育てたり、ガーデニングをするような想いで放課後NPOに向き合っています。
みなさんには何度も伝えてきましたが、僕は組織の成長とみんなの幸せの両立を目指していて、どちらも諦めていません。でももし、どうしてもどちらかを選ばなければならない時が来たら、迷わず皆さん個人の幸せを選びます。私たちは、幸せになるために仕事をしているのですから。
鈴木:平岩さんがおっしゃる組織の成長とは、社会課題解決力とか経済性とか、どういった軸が強いのでしょう?
平岩:日本全体の放課後に貢献していて、もっとみんなのためにより良い提案ができるようになるなど、価値創造していく力ですね。社会課題解決集団じゃなくて、楽しいことや新しい価値を生み出す組織であり、そこにアイデンティティがあると感じています。
鈴木:経営体制を変更されて感じていることはありますか?
平岩:副代表のお二人は自分にないものを持っています。いや、みんな僕にないものを持っているのですが、ずっと「自分は代表なのだから何でもできる完璧なオールラウンダーでみんなに貢献しなきゃ」という理想の代表像とのギャップに苦しさがありました。でもそれを一部手放して、一緒に向き合ってくださるお二人にお願いができたことは改めて感謝の思いでいっぱいです。それぞれの強みを活かしていきたいですね。
お二人とも僕に本当に遠慮なく何でもいってくれるのですが、そういえばうちの団体の人たちって大小あれどみんな僕に遠慮なく意見をくれる人が多いんですよね。新卒の方でも子どもたちや組織のためにこうした方がいいと思ったことは伝えてくれる。いい組織だなって感じますね。
鈴木:そうですね。変わっていく中で、変わらない大切なものがたくさんある団体ですね。平岩さんも昔から意志がはっきりされていて、15年前の資料を見返しても同じことをおっしゃっているなと感じるシーンが多々あります。
平岩:そうかもしれません。僕はこの15年間同じことをずっと言っています。そして、ずっと幸せだったんです。活動開始当時、学校の中に入って活動するのがすごく大変でした。たった数時間のプログラム開催を何度も何度も続けていた頃、毎回くたくたになって学校を出るとちょうど夕焼けを見ることが多かったんですが、「この夕日が毎日見られたらいいのに」と思っていたことが今、現実になっています。僕は今でもアフタースクールを訪問するたびに「あの時の夢が少し叶ったな」と思って夕焼けを見ています。このことはスタッフの皆さんにはナイショでしたが、これが公開されるとバレますね(笑)。
鈴木:バレますね笑。当時の苦労と増していく幸せな気持ちが伝わってきます。
平岩:2005年の勤労感謝の日に開催した最初のプログラム参加者は0人でした。はじめての市民先生だった和食の料理人さんとのその回は運営のために集まった大人たちのための料理教室になりました。
その頃からずっと変わらずに言い続けているのは、「どの子にも絶対にいいところがある」「月曜日に行きたくなる職場」「大切な人に誇れる仕事」という3つのこと。改めて今なおこうありたいと思いますし、みなさんがそういう放課後NPOにしてくださっていると思います。私の夢を「私たちの夢」と言ってくださった仲間の皆さんには本当に感謝しています。
鈴木:平岩さんはこれから先、放課後NPOにどんな未来を願いますか?
平岩:日本の放課後の景色をより素敵なものにしていきたいです。放課後という時間をゴールデンタイムにしたい。いまは「親御さんのために子を預かる」という認識が強いですが、それだけではなく「子どもたちの今と未来の幸せにとって大切な時間である」と価値変容していきたいです。放課後のスタッフという職業も世の中でどんどん認められていく存在になってほしいなと願っています。本当に素晴らしい仕事ですので。
鈴木:ありがとうございます。最後に、 平岩さんにとって「放課後NPOアフタースクール」とは?
平岩:青春そのもの。僕の30代、40代、そしてこれからの青春そのものであり、僕がこの世に生きた証です。僕を育ててくれた両親、恩師、友人たち全てにいただいたものを子どもたちに還元したいと願っています。
理事:三谷さん・森本さんより、放課後NPOへスペシャルメッセージ
ここまで団体の職員でもある内部理事の皆様の声をお伝えしてきましたが、外部から長年理事として応援くださっている三谷宏治さんと森本千賀子さんよりスペシャルメッセージをお預かりしましたので、ご紹介させていただきます。
理事 三谷 宏治( KIT虎ノ門大学院 教授、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授)
理事の三谷宏治です。非常勤です。普段は子どもたちへの教育活動の傍ら、MBA教授や本の執筆、講演・研修などをやっています。今回の体制変更で、発足以来の理事はついに平岩さんと私だけになってしまいました。OMG! 今回退任された織畑さんに声をかけられてからだともう15年以上、放課後NPOアフタースクール(以降AS)と関わっていますが、最初の最初は常勤1名・非常勤2人でしたかね。それが今や常勤96名・非常勤240名の大所帯。なんと約100倍です。ただASでの私の役割はずっと「そもそも何が目的だったっけ」「本当にそれで良いの」と、あらゆるレベルで疑問を呈し続けることでした。ASは、常にやる気と才気に溢れたヒトたちの集団だったので、それだけでよかったのです。今や日本有数のNPOとなった最近では、寧ろ「そこまで背負うな、気負うな」と言っているくらい。でもきっとこれからもASは頑張っていくのでしょう。これからもアフタースクールがプラチナNPO(=働きがい✕働きやすさ)であり続け、「この世になくてはならない存在」に進化するよう、もうしばらくは私も理事として頑張ります。日本の子どもたちの未来のために。みなさまも、応援よろしくお願いします。
理事 森本 千賀子(株式会社morich 代表取締役・All Rounder Agent)
『放課後はゴールデンタイム』という掛け声に共感し応援してきた「放課後NPOアフタースクール」。15年の月日を経て、より影響力を広げるために”ファミリー”としての結束から、一人ひとりが持つ力を掛け算しながら”組織力”をパワーアップすべきタイミングが来たと感じます。社員一人ひとりが主役になる足腰強い組織に変革し、”放課後”改革を力強く推し進めていただきたいと期待します。私たち親にとっての心強い『パートナー』として、子どもたちの成長を共に育み、伴走しながら、かけがえのないインフラとして更に活動が広がっていくことを心から応援しています。
未来へとつなぐ放課後バトン
働く私たちにとって大切な居場所でもある放課後NPOアフタースクールは今日、設立15周年を迎えました。
今日もこの輝かしい時間に、宝物のような物語がたくさん生まれています。
放課後はだれもがつながれる時間。私が私で、あなたがあなたでいられる時間。だって、「君がいないと困る」から。
日本の放課後を、もっと自由で、もっと豊かに。
子どもたちの未来へ向かってみなさんともバトンをつないでいけることを願っています。
15歳を迎えた放課後NPOアフタースクールを、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
企画・文・インタビュー:コミュニケーションデザインチーム 鈴木香里
写真:塩成 透