子どもの居場所不足を考える~令和6年5月時点の待機児童数1万8462人(速報値)~
「小学生の放課後の現状と課題」シリーズでは、日本の小学生の放課後の現状と課題をひも解いて、解決のためのヒントを探っていきます。
今回は、今年 7月に発表された最新の待機児童数を切り口に、子どもの居場所不足について考えていきます。
待機児童数の実態について
令和6年5月時点の待機児童数(速報値)が過去最多
令和6年7月にこども家庭庁が発表した「令和6年度 放課後児童クラブの実施状況(速報値)」によると、定員に空きがないなどの理由で学童を利用できない待機児童の数が今年5月時点の速報値で1万8462人にのぼり、過去最多となったことが分かりました。昨年の待機児童数は1万6276 人で、昨年より2186人増加しています。
さらに、同調査によると今年5月時点で学童に登録している児童数は速報値で151万5205人とこちらも過去最多であり、昨年よりも5万8000人近く増加したことが分かりました。受け皿整備は進んでいるものの、同時に新たな需要が喚起され供給が追いつかない状況といえます。
一方、令和5年9月にこども家庭庁が発表した「保育所等関連状況取りまとめ」によると、令和5年4月時点で保育所等を利用する児童の数は272万人でした。保育園に通っていた児童が小学校にあがって全員学童に通うとは限りませんが、実際の学童の登録数は約151万人であり、保育園と比べると120万人もの差があります。ここから学童の数が大幅に足りていないことが推測され、今後もしばらく潜在的な利用ニーズが掘り起こされ続ける可能性もあります。
特に小学4年生の待機児童数が多い
昨年こども家庭庁が発表した「令和5年放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」によると、待機児童の中でも特に小学4年生が最も多く、さらに4年生の待機児童数が令和4年と比べて増加していることが分かりました。
また、自治体によっては放課後児童クラブ(学童保育)の入所要件を学年で区切っているところもあります。例えば、東京23区の中でも9つの自治体が学童の入所要件を小学校1~3年生までとしており 、特別な配慮が必要な子どものみ4年生以上の入所が認められるというところが多いのが現状です。
こども家庭庁が発表した待機児童数は、小学4年生以上も入所可能な学童に対しての待機児童の数であり、放課後の居場所がない高学年の子どもはこの数値以上に多い可能性があることが推測できます。
待機児童問題は一部の地域に集中している?
こども家庭庁の同調査の都道府県別待機児童数マップを見ると、待機児童は首都圏や沖縄に集中していることが分かります。東京や埼玉、千葉、沖縄は待機児童数が1000人以上いるのに対して、青森や福井などの地域では50人未満となっており、待機児童数に大きく差があります。ここから待機児童問題は全国各地で一律に深刻化しているというよりは、一部の地域に集中した問題であると読み取ることができます。
10月までに学童をやめる子どもが多い
令和5年10月時点の放課後児童クラブの実施状況を見てみると、同年5月時点と比べて待機児童数は7789人減っていることが分かります。それだけでなく、同調査によると学童の登録児童数も5万8160人減っているということが分かりました。4月の進級などによって利用継続が難しくなったなどの理由ではなく、子どもたちは5月~10月の間になんらかの理由で自らやめているということが推測できます。
では、いったいなぜ子どもたちは学童を自らやめているのでしょうか?
子どもたちが学童をやめてしまう理由をひも解きながら、子どもたちの放課後の居場所不足の本質的な課題について考えていきたいと思います。
学童保育の質を高めることの重要性
学童を小学1年の4月にやめている子どもたち
2024年3月に放課後NPOアフタースクールが発表した「放課後児童クラブ利用に関する WEBアンケート調査結果」によると、調査対象の小学校1~3年生の子ども360名のうち、学童に一度入所したものの調査時点ですでに退所していた子どもの割合は15.6%でした。
また、学童退所者のうち約50%が1年生のうちに、そのうちの約30%が1年生の前半(1年生の4月が16.1%)に学童を退所していることが分かりました。ここから1年生の前半、しかも入学したばかりの4月に学童をやめている子どもが少なくないということが本調査によって明らかになりました。
なぜ学童を早期にやめるのか?
ではなぜ、子どもたちは学童に入ったばかりにも関わらずやめてしまうのでしょうか?
放課後NPOアフタースクールの同調査によると、学童を退所した子どもに聞いた「学童に行きたがらなくなった理由」としては、「学童に通っていない友達と遊びたかったから」が最も多く、続いて「活動・過ごし方」「子ども同士のトラブル」「環境・設備」などの理由が多くあがりました。
さらに「学童に行きたがらなくなった理由」に対して、子どもたちは次のようにコメントしています。
また、現在入所している子どもが学童に対して抱いている不満については、以下のようなコメントがありました。
子どもたちの声として、「仲のいい友達と遊べない」「楽しくない」「自由がない」などが共通していることが読み取れます。つまり、待機児童対策として学童の数だけを増やしたとしても、学童が子どもたちの行きたい場所にならない限り、学童に行ってもつまらないという子どもや学童に行きたくないという子ども、さらには早い段階で学童をやめてしまう子どもは減らず、子どもの居場所不足の解消にはつながらないことが分かります。
また、本調査では学童をやめてから子どもたちがどうしているのかというところまでは調査できていないため、今後早期に学童をやめた子どもがどこでどのように過ごしているのかについて追跡して調査をしていく必要があると考えています。
高学年の子どもの居場所づくり
学童の質を考えていくうえで、もう1つ重要になってくる視点が高学年の子どもの居場所づくりです。
学年が上がるにつれて、塾や習い事などで放課後に自由な時間がなく忙しい子と、そうでない子の二極化が進む傾向にあります。ここでは高学年の子どもたちの放課後の現状について見ていきます。
まず放課後が塾や習い事などで忙しくても、そこが子どもの居場所になっている場合です。放課後NPOアフタースクールが2023年11月に発表した「小学生の放課後の過ごし方に関する調査レポ―ト」にある以下のコメントのように、塾や習い事などに友達がいるなどで子どもにとって楽しい場所、行きたい場所になっているケースがあります。
一方で、塾や習い事などが子どもたちにとって居場所にはなっていないケースもあります。放課後NPOアフタースクールの同調査では、以下のコメントのように塾や習い事は楽しくないけれど行っているという子どもの声もありました。
また、塾や習い事をしておらず放課後に自由な時間がある子どもの場合でも、行きたいと思える居場所を見つけられている子とそうでない子がいます。
放課後に時間があっても、友達が忙しくて予定が合わず一緒に遊ぶ友達がいない、学童などの放課後の場に友達が来なくなってしまったので行っても楽しくなくなった、さらには、高学年になると学童を継続できないなどの理由で、一人で家の中で過ごすという子どもも一定数いるのです。
放課後NPOアフタースクールの同調査の中でも、以下のような高学年の子どもたちの声がありました。
こうした放課後に思うように過ごせていない高学年の子どもの居場所をつくっていくためには、子どもたちの現状を知り、放課後にどのように過ごしたいのかという声を聴いていくことが重要です。子どもたちと対話しながら、ともに放課後の居場所をつくっていくことが求められるのではないでしょうか。
子どもの居場所不足解消に向けて
待機児童問題は居場所不足という大きな課題の1つの要素であり、解決すべき重要な課題ではありますが、学童の数を増やすだけでは子どもの居場所不足解消に向けた本質的な解決にはなりません。
子どもの放課後の居場所不足解消に向けては、学童の量を増やすと同時に、低学年・高学年双方にとっての学童の質を向上させていくための対策が重要となります。そのためには、まず子どもの声・考えを聴き、対話をしていくこと、そして子どもが行きたいと思える場を一緒につくっていくことがポイントです。
また、放課後の居場所は学童以外にもこども食堂や児童館なども考えられ、子どもにとって地域に多様な居場所の選択肢があること、その中から自分の居場所を選択できることも重要です。
そのためにも自治体、保護者も含めた地域住民、学校、放課後事業者などが連携して、子どもの居場所不足解消に向けて対応していくことが求められています。
文:コミュニケーションデザインチーム・佐々木
▼〈小学生の放課後の現状と課題〉シリーズの記事はこちらから
Vol.1「データからひもとく『小1の壁』~原因と解決へのヒント~」
Vol.2「インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるためには?」
【課題理解編】【実践編】
Vol.3「子どものウェルビーイングにつながる居場所とは?」