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【対談】こども家庭庁成育環境課 安里賀奈子課長×放課後NPOアフタースクール 平岩国泰代表理事〜こどもの声を聴き、地域全体で居場所をつくることを目指して〜

2023年の12月に国が発表した、「こどもの居場所づくりに関する指針」。その核となる「こどもの声を聴く居場所づくり」とは、何から始め、どのように実現すれば良いのでしょうか?こども家庭庁成育環境課 安里賀奈子課長に、放課後NPOアフタースクール代表理事・平岩国泰がお話をうかがいました。

平岩 国泰(ひらいわ くにやす)
1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社。長女の誕生をきっかけに、こどもたちの世界を豊かにすることに人生をかけ、2004年「放課後NPOアフタースクール」の活動開始。2009年に法人化。2019年新渡戸文化学園理事長就任。2017年より渋谷区教育委員、2023年より教育長職務代理就任。
 
安里賀奈子(あさと かなこ)
平成12(2000)年厚生省(現厚生労働省)入省。児童家庭局、職業能力開発局、健康局(がん対策、感染症対策)、労働基準局、年金局、健康局(水道課)、多摩市健幸まちづくり政策監、労働基準局(医政局併任。医師の働き方改革)、新型コロナ感染症対策本部(HER-SYS立ち上げ)、広報室長、文部科学省男女共同参画共生社会学習・安全課長等を経て令和6年7月より現職。高1の息子と中1・小4の娘の3人の子育て中。

放課後NPO代表理事 平岩国泰、こども家庭庁成育局成育環境課 安里賀奈子課長

これからの居場所づくりにおいて大切なことは?

平岩:安里(あさと)課長は、3人のお子さんのお母さんでもあるそうですね。子育て当事者から見て、今のこどもの放課後はどのように感じていらっしゃいますか?
 
安里:うちの子たちの場合、上の2人はインドアタイプで、家でタブレットやスマホを見て過ごすのが好きでしたね。一方で下の子は友達の家や公園で遊ぶのが好きなアクティブタイプ。そういう視点から見ると、こどもによって「居心地のいい場所や過ごし方」って一人ひとり違うのに、過ごす場所の選択肢が少ない地域もあると思います。「こどもの居場所づくりに関する指針」(以下、「居場所指針」)では、居場所とは「こども本人が決めるもの」と定義していますが、こども自身が「行きたい」と感じる放課後の居場所を増やすには、まず、「こどもの声を聴く」ということから始めることが大事だと考えています。
 
平岩:「こどもの声を聴く」は、「こどもとともに居場所をつくる」と言い換えてもいいかもしれませんね。私たちが運営するアフタースクールでは、こどもたちが自ら場づくりを行い、大人がその実現に伴走する事例があります。その現場では、それまでこどもたち同士のトラブルも多く、何か起きると人のせいにしてしまう状況がありました。そんな毎日を変えるために、こどもたち自身で「どんな居場所にしていきたいか」「どんなふうに過ごしたいか」を話し合ってもらい、いろいろな決定をこどもに委ねたことで、何か不満や課題が出てきた時も、自分たちで話し合って乗りこえようという空気が生まれました。すると、こどもたちのそんな姿を見ていた大人も「ここをこうしたらもっと良くなるんじゃないか?」というように、こどもたちと対等に意見を交わすようになっていったのだとか。みんながその場を大切に思えばこそ、だれもがその場をより良くしようとする好循環が生まれました。最終的にこどもたち自身が満足できる居場所に改善していっています。

自治体が居場所づくりの旗振り役。それぞれに期待する役割。

安里:昨年12月に発表した「こどもの居場所づくりに関する指針」では、居場所づくりの具体的な取り組みとして、「ふやす」「つなぐ」「みがく」「ふりかえる」の「4つの視点」を循環させることを推進しています。また、この4つの視点の前提として、「こどもの声を聴き、こどもの視点に立ち、こどもとともにつくる居場所」「こどもの権利の擁護」そして「官民の連携・協働」の3点も、重要な項目として言及されています。平岩さんからみて、居場所指針や「4つの視点」は、居場所運営者の皆さんや自治体の方々にはどのように受け止められていると思いますか?

「こどもの居場所づくりに関する指針」概要版より抜粋

平岩:私たちの活動の中で自治体や現場からよく聞こえてくるのは、「こどもの声を聴く居場所づくり」という理念には共感できるものの、「どのようにこどもの声を聴けばいいのかわからない」「実行イメージがわかない」という話ですね。
 
安里:確かに、個々の居場所運営に携わる現場のみなさんが日々の運営だけでも精一杯という実情のところもある中で、さらに居場所指針を実行するのはハードルが高く感じる方もいらっしゃいますよね。国としては、まずは自治体の方に地域の居場所づくりの旗振り役になっていただきたいと考えています。というのも、地域づくりを担っている自治体が取り組みを先導すれば、居場所の運営者は立ち上げや改善などの大きなアクションがしやすくなりますし、地域住民にも居場所の情報が入ってきやすくなります。国は、各自治体の取り組みが円滑に進むよう必要な支援を強化していくつもりです。
 
安里:「4つの視点」においては、各ステークホルダーがそれぞれ以下のような役割を担うことで、「ふやす」「つなぐ」「みがく」「ふりかえる」の循環がさらに加速すると思います。

【国】
・居場所づくりにおいて目指す方向性を示す
・自治体が地域全体の居場所づくりを推進できる
・評価の指標を定める 

【自治体】
・地域全体の居場所づくりを推進する旗振り役として、地域の実情に合った
 居場所づくりの方針を示し、地域住民や運営者の理解を得る
・こども、地域住民の声を聴き、居場所の改善や運営者の支援に取り組む
 
【運営者】
・自治体と連携して、こどもの声を聴き、居場所づくりに反映する
・運営者同士がつながり、こどもの声を共有しながら居場所の改善に
 取り組む
・地域と連携して、地域住民が居場所づくりに参画する機会をつくる
 
【地域住民】
・こどもたちに居場所が必要だと言うことを認識する
・こどもたちと居場所をつなぐ
・こどもたちのニーズや居場所の課題を自治体にフィードバックする

「居場所づくりはまちづくり」。地域を巻き込んだ取り組みに。

安里:「居場所指針」では、物理的な施設だけでなく、地域の人との関係性だったり、“結果的に居場所になっている空間”も、居場所のひとつと捉えています。たとえば、ショッピングモールにベンチを置いたら、こどもたちが集まるようになったということがあれば、それはもう居場所。自治体が地域と協働でちょっとした工夫を実践していくことができれば、もっと気軽に取り組めると思います。そういう意味では、居場所づくりは、まちづくりとも言い換えられますね。
 
平岩:地域住民と協働するというところだと、私たちの運営するアフタースクールでは、「市民先生」と呼ばれる地域の大人たちがこどもたちにさまざまな体験活動を実施してくれるのですが、私たち運営者が参加をお願いしたときは「私が教えるなんて…」と遠慮する方も多いんですよね。でも、「こどもたちがこんなことをしたいと言っているので一緒に楽しんでいただきたい」とお伝えすると、嬉しそうに協力してくれるんです。こどもたちが望んだ体験活動が実現できることで、「こどもの声を聴く居場所」がひとつ実現できます。でも、実はそれだけではなく、市民先生自身もこどもたちとの交流を通して元気をもらえる、こどもだけでなく関わる大人にとっても居場所になる、という良い循環が生まれる。それは地域全体にとって良いことのはずです。現代では、地域のこどもと大人が自然発生的に出会う機会がなかなかないと思うので、運営者である私たちも、地域住民が居場所づくりに参加する機会をどんどんつくっていかねばと思いますね。
 
安里:自治体と連携するだけでなく、運営者、地域住民同士もうまく連携することで、「ふやす」「つなぐ」「みがく」がスムーズにつながりますね。一方で、「ふりかえる」の部分では、こどもの視点で居場所の質を評価する指標がないという課題があり、こども家庭庁は、指標づくりの研究事業を進めているところです。
 
平岩:私たちもいままさに、「ふりかえる」の部分に対して共通の評価指標の必要性を感じ、評価の仕組みづくりに取り組んでいるのですが、国としてはどのような評価指針を目指していますか?
 
安里:まずは、「(居場所単位で)『こどもの声』を聴けているか」「地域全体で居場所づくりに取り組んでいるか」という2つの軸で振り返るということ。そして、「これさえやっていればクリア」という指標ではなくて、それを振り返るポイントにしながら、改善を考えていけるようなものとすること。これらを意識した評価指標づくりをしていきたいと考えています。

今後の居場所づくりに向けて、それぞれに今できること。

平岩:2023年の12月に「居場所指針」が発表されてから間もなく1年が経ちます。こども家庭庁としての今後の方向性と、各ステークホルダーに今できることを教えてください。
 
安里:まずはより多くの自治体の方に居場所指針を知っていただき、「こんなことからでも取り組めるんだ」と感じられるような周知をして、少しでも実践を生み出していきたいです。こども家庭庁でも、「こどもの居場所づくり支援体制強化事業」を通して自治体をサポートするので、ぜひ活用していただきたいですね。そして、実践には地域を巻き込んでいくということもしっかりと浸透させたいです。地域住民お一人おひとりに居場所づくりに関心を持っていただくことで、居場所の効果や持続性は高まりますし、こどもだけでなく地域のみんなを元気にする源泉地となる、あたたかい交流の場を目指せると思います。
 
運営者や地域の方には、こどもたちのために必要なことをどんどん自治体にフィードバックしていただいて、自治体は現場の気づきを国に伝えてもらいたいですね。
 
平岩:私たち運営者も、運営者同士、そして市民の皆さんとも「こどもの声」を共有し合うことが大切ですよね。地域全体が連携して居場所づくりに取り組むことで、こどもたち一人ひとりが居心地のいい居場所を選択できるようにしていきたいです。

文・写真|原田さつき