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コラム「境を越えた瞬間」2025年3月号-小野史晴さん‐

小野 史晴(おの・ふみはる)/合同会社生活日和 代表

1988年 京都府生まれ
2013年からCIL系の事業所で約10年間勤務。
2022年に共同代表の髙橋亜紗子とともに「生活日和」を立ち上げた。

『境を越えていく』

重度訪問介護は「自由」を懸けた闘いの最前線だ。

わたしは「介護」にはほとんど興味のない人間だったが、この闘いの生々しさに魅せられて仕事を続けてきた。
介助を通して、文字通りの自由を「掴み取る」経験は、自分自身が自由な社会を作る一員であるという認識と直接的に結びつく。
日々感じる不自由さ、生きづらさに対して、介助という生活様式でもって、抵抗できる。

30歳を過ぎたころ、そういった介助の持つエネルギーや可能性は少しずつわたしの中で確かなものになっていった。
わたしは介助に人生を費やす決心をし、当時アルバイトとして所属していたあるCILの事業所に職員として就職した。
それなりの決心でした就職だったが、現実はあっけなかった。
半年後には退職の決心をしていたのだ。
退職の理由は、わたしの協調性のなさ、人間関係、労務の問題、仕事量の不均衡など複合的なものであるが、一つ一つを考えれば歩み寄ることはできたのかと思う。
ただ「批判することが許されない」という歩み寄りの拒絶を感じたとき、もうそこには退職の選択肢しか残されていなかった。

最前線には、前例がなく、当然目の前には次から次へと困難の連続が押し寄せる。
その困難に対応するためには、知識や経験が必要であることはもちろんであるが、より重要なのは、その自分の知識や経験を疑うこと、批判することではないかと思う。
根拠をもって適切に批判することができない限り、既存の知識や経験は武器ではなく弱点になり得る。
青い芝の会や、CILや、多くの団体や個人、それぞれが引っ張ってきた障害者運動の世界には無数の輝かしい思想がある。
しかしそれらをわたしたちは、引き継ぎ、同時に批判することができているのだろうか。
ノスタルジーに浸らず、信仰の対象にはしない。批判することで初めて、時空を飛び越え、今の運動に結び付く。

福祉である以上、「自由」は平等に保障され、持続可能なものでなければ意味がない。
しかし現実には、「自由」は全然平等に保障されていないし、持続可能性も乏しい。誰かの死や時代の変化なんかに左右されない、そんなものを軽々と飛び越える「自由」の社会基盤を作っていかないといけない。

退職後、事業所を立ち上げ、今年で4年目になる。まだ運動と呼ぶには動きが小さ過ぎるかもしれないが、それでも確かに動いている。
批判し、批判されながら実践を重ねる。

その日々の繰り返しによって、きっとわたしたちの闘いは境を越えられる。

事務所内の一コマ


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