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本質を欠く社会へ

「偽装に思う」

食品だけでなく、音楽の、それもクラシック音楽の世界でも偽装問題が発覚した。振り込み詐欺が横行しているが、ある意味、偽装に関係した、ホテル・旅館、デパート、食品業界、レコード会社、場合によってはマスコミも同質の犯罪を犯したのではないだろか。「だまし、だまされ」状態が続く社会は、既に正常な機能を発揮していない。取り締まる側の警察にも不祥事が相次いでいる。

2年前、久しぶりに懐かしい音楽と再会した。それは、息子からプレゼントされたウォークマンの中に録音されていた。この曲、私にとって幻の曲だった。どこかサンタナの「哀愁のヨーロッパ」や「ブラックマジックウーマン」にも似た哀愁の漂うギター曲だった。その曲名をゲイリー・ムーアの「パリの散歩道」という。もうお解りだろう。ソチ五輪フィギュアスケートで金メダルを取った羽生結弦さんが、ショートプログラムで使用された曲だ。若い頃、ラジオから流れてきたこの曲のギターリストや曲名が解らず、必死に探し回ったことを思い出した。

ここには偽装も何もない。単純にその曲のメロディーラインが心に残り大好きな曲になった。今も、この曲を聴いてセミナーに臨んでいるほどだ。
曲を好きになるのに理屈は入らない。また、その背景もだ。単純に聴いていて心がときめいたり、リラックスできたり、力が沸いてきたり、今回の作曲偽装では、レコード会社はそうした音楽を愛する人たちを欺いたことになる。

詐欺を働いた当の本人以上にその罪は重い。音楽を大切にすべき人たちが、誇大宣伝と偽装で自分たちの送り出した音楽を汚したと言ってもいい。今回のソチ五輪で、まぶたを閉じて2つの曲を聴いた。どちらも素晴らしい曲だ、改めてそう思った。

私は、今も横行する振り込み詐欺も食品偽装も、そして作曲偽装問題も全て根っこは同じだと思っている。虚飾に満ちたことばの乱用は、テレビコマーシャルでも横行している。私達の住む社会全体が「詐欺社会」と呼ばれるほど企業の理念や信念が見えなくなってきた。本質を欠く社会へと成り下がってしまったのだと思う。教育界も同様に、人を導き育てていく中で、もう一度原点を見つめ直す必要がある。

「ことばの教育」を幼児期から丁寧に行う必要があるだろう。友人から、タイのコマーシャルが胸を打つと聞かされ、その映像を見た。「与える事は最高のコミュニケーション」というコマーシャル映像だ。自分の利益だけを考える世の中だから、詐欺行為が当たり前の社会になる。人間社会の本質を改めて考え直すことが、もう一つの教育の目標になる。大人として、子ども達の目を真っ直ぐ見つめられる生き方が望まれる。

2014/2/19


著:石川教育研究所 代表 石川 幸夫

著:石川教育研究所 代表 石川 幸夫

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