「心理的安全性」を30分後の会議から作れるビジネスハック
心理的安全性とは
心理的安全性を最初に提唱したのは、ハーバード・ビジネス・スクールで組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン教授。1999年に「チームの中で対人関係におけるリスクを取っても大丈夫だ、とチームメンバーに共有される信念のこと」と定義しました。
簡単に言うと、チームのほかのメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態。心理的安全性が高いと、チームのためや成果のために、必要なことを発言したり、試したり、挑戦したりできます。
Googleの社内実験から普及
心理的安全性は、Googleが2012年に社内で行った実験「プロジェクト・アリストテレス」をきっかけに普及しました。
社内の180チームを対象に、生産性の高いチームはほかのチームより何が優れているのか明らかにする取り組みです。
4年かけた調査の結果、重要だとわかったのは、「誰がメンバーか」より「チームがどのように協力しているか」ということ。
生産性の高いチームにとって特に重要なのが、チームがスムーズに動く土台となる心理的安全性であり、心理的に安全なら離職率が低く、収益性が高いと結論づけています。その後、米国組織行動学会をはじめ、さまざまな学会誌に心理的安全性の研究が発表されました。
心理的安全性を低下させる4つの不安
エドモンドソン教授は、4つの不安が心理的安全性を低下させるといいます。
もしこれらに思い当たるとしたら、あなたのチームの心理的安全性が低下しているかもしれません。では、どうすれば心理的安全性を作れるのでしょうか。
すぐにできる心理的安全性の作り方
心理的安全性の作り方を学ぶには、関連書籍が一番です。しかし、打ち合わせ中に本をいちいち振り返るわけにはいきません。
本は簡単に手に入るけれど、内容を覚えたり実践したりするのは簡単でなく、「心理的安全性を作ること」への心理的負担は大きいといえます。
また、せっかく学んでも、発言力や影響力のある人物が参加した途端、どうしても緊張感が生まれ、思うように実践できないケースもあるでしょう。
そこで、ここからはNew Perspective独自の心理的安全性の作り方をご紹介。この後30分後に始まる現場レベルの会議から、すぐに使える手法です。
その1 「ネガタイ」 ネガティブタイムを設けよう
無知、無能、邪魔、ネガティブと思われる不安から心理的安全性が低下すると紹介しました。反対に、そう思われることをむしろ良しとすれば、状況が変わる可能性はあります。
たとえば、打ち合わせの最後に5分間、とにかくネガティブな意見ばかり言い合う「ネガティブタイム」を設けてはどうでしょうか。
その「ネガタイ」では、トランプゲームの大富豪における〝革命〟のように、価値観がまったく逆。無知、無能、邪魔、ネガティブと思われる意見を出す人だけが賞賛されるルールです。最初は少し勇気がいりますが、その少しで大きな発見を得られるかもしれません。
※代案なき否定は部外者のすること、というのが持論ですが、ここは代案まで考えずにネガを吐き出しましょう。
今や、消費者のクレームをわざわざお金を払って買う時代です。反対意見に打たれ強くなる姿勢は少なからず必要でしょう。
また、時として、反対意見の中にイノベーティブな考え方が埋もれている場合もあります。世間や業界から弾圧されてもガリレオが唱えた地動説や、周囲の画家や画商から否定されてもピカソが進めたキュビズムのように。
「普段言えないこんな話までぶっちゃけちゃっていいんだ!」という、無礼講感から心理的安全性が生まれると考えられます。
その2 「架空トーク」 架空のエピソードを語ろう
できないこと、空気を悪くすることは、自分からはなかなか言い出しにくいもの。しかし、誰かが言い出した途端、堰を切ったようにホンネが飛び出すのはよくあるケース。集団心理とはそういうものです。
そこで、無知、無能、邪魔、ネガティブなエピソードを先出しするのが「架空トーク」。その名の通り、架空の人物の架空の反対意見を披露します。
たとえば、「○○○○○(無知な意見)って言う人、最近多いらしいね」や、「別の部署の人だけど、○○○○○(ネガティブな意見)とか言ってるんだよね」といった調子です。
すると、「そこまでではないけど、自分もじつは……」と安心して後に続けます。後に続きやすいように、架空のエピソードを多少盛るのがポイントです。(ただし、陰口を叩いている、被害者意識に酔っている、と思われないよう注意も必要です)
その3 「ぬるスタート」 ぬるま湯から始めよう
心理的安全性が高いと聞くと、ぬるいチーム、仲良しサークルだと誤解する人は少なくありません。そんなチームでは、ミスがあっても指摘せずにやり過ごしたり、懸念点があってもごまかしたりすることがあり、チームの課題解決や改善、メンバーの成長は妨げられます。
この誤解は、どの関連書籍でも語られています。
しかし、いきなり誤解のない理想的なチームになれるでしょうか。そこで、まずはゆるくても快適なチームを目指すというのが、「ぬるスタート」です。
エドモンドソン教授は、チームを4つの状態に区分しました。チームの人間関係に影響を及ぼす要素として、心理的安全性のほかに「責任」があり、この責任がメンバーの行動を規定するといいます。
ぬるスタートは、最初に左上の「快適」から始めます。仲良しサークルでよいので、比較的容易にチームはできるはずです。
この「快適」から右上の「学習」へ変わるカギが、責任です。
といっても重みのあるものではなく、たとえば、会議の一日リーダーや書記を任せる程度で十分でしょう。あくまでも責任感が芽生えれば、中長期的には成功なのです。
ガリガリ君と犬と音楽と 〜少しの変化の影響で〜
以上はあくまでも一例です。ほかにも方法はたくさんあるでしょう。
たとえば、会議の時間帯や場所、席の配置を変えるだけで効果が出るかもしれません。ホワイトボードを置くだけでディスカッションが活性化し、おやつや植物や畳があるだけで、雰囲気は和むかもしれません。
ちなみに私の経験談ですが、あるテレビ局で総合演出の方がガリガリ君(ソーダ味)を食べながら会議を進めていて、日曜ゴールデンタイムの大番組なのに、まるで部活の部室のような気楽な空気が流れていました。
また、あるペット用品メーカーの会議で、担当者の飼い犬(柴犬)もその場に参加し、犬を中心に穏やかなコミュニケーションが生まれました。
あるスタートアップのミーティングでは音楽(洋楽)が流れていたせいか、リラックスした雰囲気で打ち合わせができました。
心理的安全性と聞くと、何やら学術的で小難しい印象ですが、案外ちょっとした変化が影響するとも考えられます。惰性でする〝なんとなく会議〟よりトライする価値はありそうです。
(なお、チームマネジメントの観点で心理的安全性を本格的に知りたい方は、関連本でじっくり学ぶことをおすすめします!)
This is New Perspective
ひとさじの心理的安全性は、ひとさじの工夫から。変化の早い現代は、できることからサクッと始めてみるのもおすすめです。
Reference:「心理的安全性のつくりかた」(日本能率協会)、「心理的安全性最強の教科書」(東洋経済新報社)、「心理的安全性の築き方見るだけノート」(宝島社)、「マネジメントに役立つ心理的安全性がよくわかる本」(秀和システム)