東京カレンダー創刊物語
最近ますますフーディー人口が増えて予約が取れないレストランも多い。私は東京カレンダーの創刊にアートディレクターとして関わっていました。今から20年以上前のことです。
私はエディトリアルデザイナーとしてぴあに1年間席を置き、主に飲食情報誌をデザインしていました。その後、他の出版社の仕事も増えたので青山に事務所を構え、現在の弊社を創業しました。そんな記念すべき年に、ぴあの飲食情報誌の副編集長が、今度何人かで独立して飲食情報誌を立ち上げるとのことで、そのデザインの相談で事務所に訪ねて来られました。
雑誌本来のミッション
ぴあでその方と一緒に作っていた飲食情報誌は、とにかく情報量が多いことを優先していました。「ラーメン500軒!食べ放題特集」など。なのでほとんどは行ったことがないお店ばかりでした。その方は食べることが大好きだったので、自分が行って本当に良いと思ったレストランだけを紹介する本が作りたかったのです。動機はすごくシンプル。むしろ、本来雑誌とはそういうことがミッションだと思い、そう思われたことにとても共感しました。
先輩のような雑誌
本のイメージは社会人になって5年くらい、仕事の経験はある程度積んできました。ただクライアントや、友人、恋人といざ食事に行こうとした時にレストランが選べない、知らない。今まで仕事づくしだったからです。そんな人々の為に良いお店を指南してくれる先輩のような雑誌、名前は東京カレンダーでした。最初の電話で聞いた概要は、海外のカッコいいビジュアル誌でした。そのせいもあって、「え?東京カレンダー?名前がカッコ悪い!話が違うじゃない!」それが私の第一印象でした。
一つの人格であり個性があってこその雑誌
名前はともかく、私はその本を今までに見た事がない本にしたいと思いました。何故なら弊社創業の代表作にしたかったし、雑誌デザインの仕事をする中で、もっと表現としてのエディトリアルデザインがあるべきだと考えていたからです。どの本も表紙を剥がすとなんの本だかわからないものが多いと感じていました。一つの人格であり個性があってこその雑誌。幸いにもその思いは編集も同様でした。最初に言われたビジュアル誌的なアプローチを情報誌に入れたら面白いかもしれないと思いました。ファッション誌がビジュアルにこだわるのは当たり前ですが、それを飲食情報誌でやっている雑誌はありませんでした。古本で持っていたアメリカの経済誌フォーチュンも、同様に経済誌でありながらビジュアルを大事に作られていました。それが強いアイデンティティになっていて、情報自体もエモーショナルに強く伝わるデザインでした。直感でその方向性でイケるなと思いました。
パーツ自体の個性
飲食情報誌のパーツは料理、飲み物、店内、外観、シェフなどスタッフの写真と店名、ジャンル、営業時間、住所、休日や地図などの基本情報、そのお店を紹介する本文があります。
ビジュアルを意識してこのパーツを組み替えながら他誌と差別化も出来なくはないですが、難しい。だから、パーツ自体に個性があれば面白くなると思いました。編集とたくさん話をする中で、何故そのお店を紹介したいのか、良いと感じたのかを伺うと新しい視点を発見できました。
お店の良い理由は同じではない
ある店は窓からの夜景が素晴らしい、
またある店は食材にこだわって農家と契約している、
またある店は貴重なビンテージの北欧家具が使われている、中々座れない高価な椅子もある、
またある店は住宅街にひっそりと隠れ家のようにある、
またある店は少ないポーションで沢山の品数がある、
また最近流行っているお店の多くはシェフが修行したお店が一緒だ、など。
あげればキリがないですが、それぞれお店の良い理由は同じではありませんでした。
そのあるお店は料理写真を無くしてこんな素敵な家具が使われている写真をメインに!
ある店は小説のような本文で住宅街にひっそりあるお店にたどり着く、わくわく感を演出する!
またあるお店は泥のついた野菜の写真をメインに農家さんのこだわりを取材しよう!
またあるお店は沢山の小皿の写真を切り抜きで見開きで紹介しよう!
ほかにもシェフの修行した店や先輩、後輩の系譜を紹介してみては?など。
量より質
そうするためにはパーツをそのお店の良さを明確にするために潔く変えること、その魅力を紹介する紙面は1番小さくても二分の一。可能な限り一店に1ページか4ページさきましょう。何故なら大人の読者に紹介するんだから、量より質にこだわりましょう。レストランも今までに専門誌以外でそこまで掘り下げて取材してくれる雑誌はないので、そのうちに取り上げて欲しい雑誌になります。そうなれば情報が集まり益々、量質になるよい循環が出来ます。
私はそのように提案しました。また検討を重ねる中で大人と言うキーワードも雑誌のアイデンティティの重要な要素となりました。だんだんと雑誌の骨格みたいなものが見えてきたのです。