叔母が終活をはじめた
そうだのんちゃん、宝石すき?
いたずらっ子みたいな顔をする叔母は、高2の頃亡くなったじいじにそっくりだった。囁くように、秘密の話を持ちかける。
曽祖父の趣味だった宝石集めを、叔母もこっそり続けていたらしい。ささやかなご褒美として買い集めていたら、いつのまにか立派なコレクションになったと。
わたしが死んだら、のんちゃんにあげる!来年には、死んじゃうかもしれないから。
ガツンと頭を殴られたような気持ちがした。近いひとが亡くなって、終活を考え出したと笑いながら話すのを、うまく笑えずに聞いていた。ショッキングな話を笑いながらするのは、ばあばの常套句だ。
宝石集めはただ宝石がすきだからというわけではなく、将来日本はもうだめだと思ったときに、お金では遺せないと思ったかららしい。日本円が弱かったら円で遺しても意味がないと、1ドル160円に突入しそうなタイミングで言われるのは刺さった。
金(きん)は金属探知機に引っかかるけれど、宝石は引っかからないから海外に逃げるときにも持っていけるよ。しっかり着けて逃げなね!昔の偉いひともそうしてたんだって、とうんちくを話す姿は父そっくりだった。
後世に遺す、こどもの未来のことを考える、そんな考えはいまのわたしには毛頭なくて、叔母をすごく遠くに感じた。
自分の母親よりも先に死を迎える準備をする彼女を、尊敬にも近いような気持ちとともにやっぱり寂しさが勝った。寂しいな、そうか、みんないなくなっちゃうのか。
これからどんどん独りになっていく。わたしはもしかしたら、産まれた瞬間が一番豊かで幸せだったのかもしれない。そんな気持ちにもなるぐらい、別れが苦しい。
のんちゃんが産まれたのはうちの家族の希望だったんだよ、と伝えてくれたひとだった。いつも、祖父母や親には言いにくいことをなぜか察して聞き出してくれるひと。
いなくならないでほしいな、ずっと変わらずにこのままの毎日でいいのに。終活ノート書いたけど、あれから30年も経っちゃったー!って笑い飛ばしてほしいな。
これからも、なるべくずっと元気でいられますように。
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