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てづくりバレンタイン2025
小学生の頃から毎年バレンタイン前になると夜な夜なお菓子を作っていた。いつも隣でガヤガヤ言ってくれるばあばとお母さんのおかげで15年ほど続いていることになる。いつもありがとう。
栄のクラブで一目惚れしてから一ヶ月のセフレ期間を経て2年後に奇跡の再会、さらに奇跡的に真剣交際を開始したというツッコミどころだらけの元彼とのバレンタインがもう2年前。人生で一番気合いを入れて作った年だった。
生チョコが好きだと言うから作ったけれど、なんだか生チョコだけだと味気ないなと思い、よくケーキ屋さんに置いてある焼き菓子詰め合わせを目指した。クッキー、フロランタン、チョコレートブラウニー、抹茶ガトーショコラ、マドレーヌ、チーズタルト、おまけのガラスケーキ。
2ヶ月ほど前から毎週末にひとつずつ試作品を作って、失敗したものはもう一度作って、しっくりこなかったものはボツ。自分で納得のいくものだけを詰め込んだボックスになった。
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付き合い始めから薄々そのうち冷められるんだろうなとどこかで思っていたからかもしれないけれど、彼の人生最後の彼女になれなくても彼の人生で最高の彼女になりたいと常に思っていた。なにもかも一番がいいけれどそれは無理だから、ひとつでいいから「あのときののぞみちゃんのが一番だったなあ」と思わせたかった。バレンタインならいけるやろ、となぜか思っていた。部分的に自信があったりなかったり、めんどくさい女である。
特に、「食べる」という行為はわたしにとってすごく特別だった。食べたものが喉を通っておなかに届き、栄養として身体中に運ばれる。それは自分の作ったもので大好きなひとになにかしら物理的な影響を与えられるということである。「おいしい〜!」ってにこにこ食べてくれるのがうれしい。それが身になるのがうれしい。ちょっと書き出してみると自分でもうっすら気持ち悪いけれど、とにかく手作りの食べものを渡すバレンタインなるイベントは特別だということだ。
一転して今年は、彼から「無理して作らなくていいからねー!」ともともと伝えてもらっていた。のぞみちゃんバレンタインは予定通り来るの?来るならチョコレートと待ってるからね!と先に次回予告を出してくれていた。彼もおいしいものが好きなので、きっとすごくおいしいチョコレートに違いない。もうお菓子あるし、作らなくていいかあ、そうかあ〜、うん、そうか。
よし、バレンタインのお買いものしに行こう。作らなくてもお菓子があるのはわかった、作らなくても文句言われないのもわかった、でもやっぱりわたし、バレンタインのこの空気が好きだ。何を作るか考えながらインスタを見る時間、お買いものリストを作る時間、スーパーまで歩きながらラッピングを考える時間、物価高騰にヒヤッとしながらクレカを切る時間、最近の百均は可愛いなあとラッピンググッズを揃える時間、
バターを普段ならありえない大きな塊に切る背徳感、何枚もの板チョコをパキパキと割る気持ちよさ、ふるいにかけられた粉がきめ細かくなっていき、ぜんぶあわせて混ぜるといつの間にかしっとりとしたまとまりになっていて魔法みたいだ。オーブンに入れるときはつい、おいしくなってね〜いってらっしゃい、と思いながら蓋を閉める。ふわ〜っといい香りがしてくると幸せな気持ちになる。蓋を開けるワクワク感がたまらない。
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かわいいからよし
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すこし緊張しながら味見して、「おいしいよー!食べてみてー!」とばあばにもひとつお裾分けする。「いいじゃん、じょうずにできたじゃん、よかったねえ」と大好きなにこにこ笑顔が返ってくる。
コンロの火であたためた包丁を、生チョコにまっすぐおろす。刃に触れてすぐジュワッと溶けるのもきれいで、うっとりしてしまう。一度切るごとにキッチンペーパーで刃を拭いて、またあたためて、まっすぐおろす。何度も何度も繰り返して、コロコロとした、きちんとした形になる。ひと手間、ひと手間の繰り返しが大満足につながるらしいので最後まで気を抜かずにがんばる。
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ぴっちり9個を箱に入れるのに苦戦しながら、近くで見守る母と祖母も「なんだか息をのんじゃうね」と言っている。ああしたらどうだ、こうしたらどうだ、とそのうち色々アイデアが飛んでくる。そばで見ているとなにか言いたくなるのが家族だ。
そんなこんなで、長くなったけれど今年のラインナップはこんな感じ。時間もなかったのでディアマンクッキー5種類とスノーボールクッキー、生チョコのセット。ディアマンクッキーはわたしが好きな味ばかりで、プレーン、抹茶、紅茶、ココア(アーモンドスライス入り)、セサミ。生チョコの完成写真は撮り忘れたのであとでこっそり追加しておこうと思う。
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缶の処分に困るかなと思ってやめた
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そんなわけで、今年もなんだかんだがんばってバレンタインの準備をした。バレンタインさんが殴り殺された日とのことだれけど、こんなにみんなが甘いものを食べてにこにこしている日になっているなんてびっくりしているだろうなあ。
高校まではよくわからないままなんとなくみんなが作るから作っていたバレンタインのお菓子。大学生の頃マレーシアの男の子と付き合い始めたら「バレンタインデーは男の子がお花をあげる日だよ」と花束を渡されて驚いた。これでいいじゃん、今までせっせと作っていた自分がアホらしくなって、そこからは数年適当になった。そしたら「大好きな人の一番になる」という新たなミッションが生まれて、人生で最も気合いの入った日になった。
そこから2年経って、今年は今までで一番やさしく、おだやかなイベントに思えた。作りながら自分も幸せになっていることに気づけた。何事も、他人のためが100%ではないのかもしれない。どこか自分も幸せになっているから、うまく回っているのかもしれない。
では、おいしい時間を楽しんできます!ハッピーバレンタイン!
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