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BTS "INTRO : Never Mind" どうにもならないことを気にするな〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.133

気にするな 気にするな
世の中には お前が
どうにもできないことも多い
お前は 気にせずいればいい


INTRO : Never Mind



前だけを見て走ったよ
辺りを見回す暇も無く
いつしか俺は 家族の自慢になり
ある程度は 成功した

思春期の頃を思い出すよ 不意に
あの当時 俺は幼かったし
怖い物知らずだったんだよ

幾度もの挫折
それはなんて事はない
変わったことと言えば
あの時に比べ少しは伸びた背丈と
同年代に比べ幾らか成熟した視野

南山洞ナムサンドンの地下にある作業室から
狎鴎亭アックジョンまで敷き詰めた俺のビート
青春が 生まれた場所

周りはひとり残らず言ったよ
大袈裟にするな、と
音楽をやるからと言って調子に乗ると
家庭が崩壊するのだから、と

その時から気にしてなかった
誰が何と言おうがひたすらに
俺の衝動のままに
俺の信念の通りに
生きて行くだけだ

お前が思うに今の俺はどうだ?
俺の見立てではどうだと思う?
俺の 失敗を祈った
幾人かの奴に聞くよ
家庭は崩壊したと思うか?ってな

俺はそんなの気にしない
一日数百回 口癖のように言っていた
「俺に構うな」
失敗や挫折を味わって
落ち込んでも構わない
俺らはまだ若くて幼い
故に心配に結びつける
転がらない石には
必ず苔生すものなのだから
戻れないなら直進あるのみ
失敗なんかは何もかも全て
忘れられるように
気にしなくていい
容易くはないが胸に刻み置け
ぶつかりそうなら
更に強く踏みつけろよ、なあ

気にするな 気にするな

それが どんなに
茨の道であろうと駆けて行け

気にするな 気にするな

世の中には お前が
どうにもできないことも多い
お前は 気にせずいればいい

気にするな 気にするな

ぶつかりそうなら
更に強く踏みつけろよ、なあ

気にするな 気にするな

諦めるには俺たちはまだ
若くて、幼い

気にするな

ぶつかりそうなら
更に強く踏みつけろよ、なあ

ぶつかりそうなら
更に強く踏みつけろよ、なあ

気にするな
気にしなくていい


韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/30075276

『Never Mind』
作曲・作詞:SUGA, Slow Rabbit


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今回は、2015年11月末にリリースされたBTSのミニアルバム第4集「화양연화(花様年華) Pt.2」に収録されている "INTRO : Never Mind" を意訳・考察していきます。

アルバム「花様年華 Pt.2」に収録されている楽曲はタイトル曲 "RUN" を始め名曲揃いなのですが、いかんせんこのアルバムには、他のアルバムでは恒例のメンバーによる公式のアルバムレビューが残されていないことが悔やまれます。
リリース直前の3日間には「화양연화 ON STAGE」ソウル公演が行われており、年末に組まれていた日本ツアー「2015 BTS LIVE<花様年華 on stage>〜Japan Edition〜」ではメンバーの体調不良で一部公演がキャンセルになるなど、当時彼らがどれ程過酷なスケジュールで動いていたのかを推し量るとやむを得なかったのかもしれません。

RM、j-hopeの声も聴いて取れるこの楽曲ですが、SUGAのソロ曲であるとも言えるものになっています。2023年に行われたソロワールドツアー「SUGA | Agust D TOUR 'D-DAY'」にてセットリストに組み込むなど、自身の身上を反映した楽曲に思い入れがあるように見受けられます。


1."INTRO : 花様年華"のその後

ミニアルバム「花様年華 Pt.2」のイントロ曲であるこの楽曲は、ひとつ前のミニアルバム第3集「花様年華 Pt.1」のイントロ曲 "INTRO : 花様年華 The Most Beautiful Moment In Life" の後日譚となっています。10代の頃のユンギの自伝的歌詞だった "INTRO : 花様年華" の内容を引き継ぐ "INTRO : Never Mind" は、デビューを経てプロとして成功・成長した彼があらためて下積み時代を振り返り、後半に至ってはまるで10代当時の自分自身に語りかけているような内容となっています。

前作 "INTRO : 花様年華" の歌詞を振り返ると、おおよそこのようなストーリーとなっています。

音楽の道を志すひとりの「少年」は進路選択の年を迎え、周囲の人間からの偏見や反対と対峙することになる。
進学という一律にして唯一であるかのような選択肢を前にして彼は、孤独と不安を抱えながらも己の夢に向かい走り続けること、そこに自分の幸せがあることを確認する。

その後数々の苦難を経て、プロのミュージシャンとして成功を手にしたかつての「少年」は、10代当時は具体的な実績もなく言い返せずにいた批判的な声に対する本音や、孤独の底にいた当時の己に向けた救いの言葉を、この "INTRO : Never Mind" の歌詞にのせているのです。

それはまるで、進路選択に悩む全ての若い世代へと向けた普遍的なアンセムのようでもあります。


2.大邱テグから狎鴎亭アックジョン

"INTRO : Never Mind" には、過去曲 "BTS Cypher, Pt.3: Killer" にもあった印象的な表現が再登場しています。

남산동의 지하 작업실에서부터
(南山洞ナムサンドンの地下 作業室から)
압구정까지 깔아 놓은 내 beat 청춘의 출처
(狎鴎亭アックジョンまで敷いて置いた俺のビート 青春の出処)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30075276

大邱テグから狎鴎亭アックジョンまで
敷き詰められた俺のビート

全世界 四方八方に
息づく俺の 音楽のエナジー
―― "BTS Cypher, Pt.3: Killer" 歌詞和訳note記事より抜粋

https://note.com/nozomiari/n/n138cb5d638d8

南山洞ナムサンドンはユンギの故郷大邱テグ市の地名で、ここには「남산동 악기점 골목(南山洞楽器店路地)」と呼ばれる路地があります。御茶ノ水みたいですね。

2024年5月には大邱市が、路地商圏の回復を目的とした事業でこの路地を「特化路地」に指定しており、南山駅近くには数多くの音楽スタジオと音楽練習室があり、音楽を専攻する学生が良く利用しているとのこと。

ユンギが通った音楽アカデミーもこの近くにあり、音楽の道を真摯に歩み始めた彼の、正に「青春の出処」だと言えるのではないかと思います。

狎鴎亭アックジョンにはユンギがソウルに上京した後に通っていた高校があり、苦労して活動を続けた結果として地元からソウルに至るまで自分が作った音楽が浸透していることに誇りを感じている、という気持ちの表れとなっています。


3.芸術は一家を滅ぼす?

歌詞では、芸術分野で身を立てようとする若者に対する周囲の大人の反応についても触れています。

주위 모두 말했지 오버オーバー하지마
(周囲の皆は言ったね 大げさオーバーにするな)
음악 한답시고 깝치면 집안 거덜내니까 ※1
(音楽をするからといって調子に乗ると、一家を潰すから)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30075276

※1 
・~(ㄴ/은/는)답시고…~だからといって(参考
・깝치다=깝죽거리다…調子に乗る(参考
・집안…家族、家庭、家(参考
・거덜내다…財産を潰す(参考

この辺りの表現については、既に "INTRO : 花様年華" に関する言及の中に似たフレーズが含まれていました。

やっぱり周りは、音楽をするって事が正しいとか言うと、まず心配して、まあ、ダメだろうと。そういう音楽みたいな事をすると一家を潰すんだ。こんな話を数えきれない程聞きました。
―― SUGA의 화양연화 pt.1 Album review より抜粋して和訳

https://youtu.be/d5liS0Ah_W8?si=UhVmxgTE7ClC9--W&t=375

音楽、引いては芸術分野で身を立て社会に出ることに対して多くの人々は、「成功する保証がない」「博打のようなもの」「学びにお金がかかる」「下積みが長い、辛い」「一発屋で終わる」「当たらないと儲からない」「いつまでもお金で苦労する」等々、堅実な人生設計とは対極にあるもの、との印象を持っているのではないでしょうか。

実際、いわゆる普通大学と比べれば美大や音大等の芸術系学校で必要な学費はかなり高額ですし、ただ単に卒業したところで世間に才能が認められるわけでもなく、必ずしも就職に有利とは言い切れません。
また、一般的な受験戦争を勝ち抜いた上で「大卒」という学歴を得た者こそがより社会に必要とされ、相応の報酬を得ることができるという不文律が消えることもおそらくありません。

美大を出た身でこの「一家を潰す」という歌詞を聞くと正直耳が痛い上に、ちょうど自分の子どもたちもそれぞれが進路選択の節目を控えていることもあり、かつて子どもであった自分と、それを金銭的にサポートしなければならない大人、双方の言い分を突き付けてくるこの歌詞は個人的にめちゃくちゃ刺さります。


4.転石苔を生ぜず

歌詞の中には、イギリスのことわざを引用した部分もあります。

하루 수백 번 입버릇처럼 말했던
(日に数百回 口癖のように言っていた)
‘내게서 신경 꺼’ ※2
(俺に構うな)
실패나 좌절 맛보고 고개 숙여도 돼
(失敗や挫折を味わって落ち込んでもいい)
우리는 아직 젊고 어려 걱정 붙들어매
(俺たちはまだ若くて幼く 心配に結びつける)
구르지 않는 돌에는 필시 끼기 마련이거든 이끼
(転がらない石は必ず生すものなんだよ 苔) ※3
돌아갈 수 없다면 직진 실수 따윈 모두 다 잊길
(戻れないなら直進 失敗なんかは皆全て忘れるように)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30075276

※2
・~게서=~에게서(~から)の短縮形(参考
・신경 꺼=신경(神経)+끄다(消す)…神経を消す=気にしない(参考
※3
・~기 마련이다…~するものだ(参考
・~거든(요)…~なんですよ(参考

「転がらない石には必ず苔が生える」=「転がる石には苔が生えない」
これは「生業や生活拠点をコロコロと替える人は地位も財産も獲得できない」という状況を揶揄するイギリスのことわざとなっています。

A rolling stone gathers no moss.
(直訳:転がる石には苔が生えない)

https://kotobank.jp/word/%E8%BB%A2%E7%9F%B3%E8%8B%94%E3%82%92%E7%94%9F%E3%81%9C%E3%81%9A-578368

誰に何を言われようと構わない。失敗も厭わない。
失敗や挫折を味わい、若く幼い自分の才能に疑問を抱いて落ち込んでも、「何者か」になるために信じて選んだその場所で研鑽を積む。

「石の上にも三年」なんていう日本のことわざもありますが、どんなに不利な状況・環境でもある程度の期間を耐え抜く力というのは、やはり人生のうちのどこかで養っておかなければならないものなのではないかと思います。
とはいえ、転職活動や働く環境に対する考え方も変わって来た昨今、そういった苦労を経験するのが若いうちであればある程後々役に立つのではないか、という感覚自体が既に古臭いものなのかもしれません。

しかしながらやはり、上手くいかないことを全て周りのせいにして現場を離れることを繰り返すだけでは、見えてくるものも見えてこないのではないか、とも思います。

苔生すまでひと所で踏ん張る。
今どきのキャリアの積み方ではないかもしれませんが、思い通りの結果が出るまでの時間はどんな場合においても決して短くはない。それだけは確かであると感じています。


5.周りが言う事は気にするな

この楽曲は「若い世代へと向けた普遍的なアンセム」であると前述しましたが、後半に向けてその趣はどんどん強まっていきます。

前作 "INTRO : 花様年華" ではバスケットコートを設定とした音選びが印象的なトラックでしたが、この "INTRO : Never Mind" ではマイクテストの音声や観客の歓声が入っていることからも、ライブ会場を設定としたトラックであることがはっきりわかります。
ナムさんとホビが客演しているのも、この「ライブ感」をより高めるための演出だと思われます。

夢を追うが故に孤独を極め、まだ何者でもなかった時代を象徴するような「ひとり」の足音が響く静寂のバスケットコート。("INTRO : 花様年華")
夢を現実のものとして、名の有る表現者となった今を象徴する「仲間や大勢のファンと共にある」大盛況のライブ会場。("INTRO : Never Mind")

"INTRO : 花様年華" と "INTRO : Never Mind"。
この2曲は対を成すと共に前後関係にもあり、ひとりの音楽家が「残した爪痕」と、その音楽家に「残された傷跡」の双方が描かれてもいます。

自分たちは「まだ若くて幼い」と自覚することを諦めへと向かうスイッチにしなくてもいいように、
「若さ」を壁を突破するための原動力にするために、
できること、すべきことは何なのか。
それを象徴するキーワードが「Never mind(気にするな)」であり、周囲の声に惑わされず、自分を主語にした選択と前進がどうすれば叶うのかを諭し、鼓舞しているのです。

自分でどうにもできないことは気にしなくていい。
ぶつかりそうなら遠慮なくもっと強く踏みつけろ。

お前の夢は何だ?と問う歌で世に出た彼らが、その問いを突き付けたことに対し、解決方法を示すことで責任を取ったとも言えるかもしれません。

人生で最も美しい瞬間を過ごす者たちが、その時代を「主人公」として堂々と謳歌できるよう、一筋のスポットライトをその足元に落とす歌。
そんな青春賛歌アンセムがこの "INTRO : Never Mind" の役どころであるのではないかと思いました。



今回も、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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