見出し画像

Jin "Another Level" 回復、そして進撃 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.144

僕らは すぐに立ち直って
異次元のレベルに到達する

Another Level



ここは「ステイ」だ
吐いた息すら脱出クリアできなかった
僕が挑んだ 迷路ステージ
堂々巡りを強いられた日々
際限なく 手当たり次第に
力の限りに ジャンプして
ゴールに向かい燃やし切る

僕は闘い続ける
無限に攻め込まれても止まらない
(誰も僕を止められない)
猛烈な嵐が更に吹き荒んでも
一歩 踏み出して進む

恐れるな
時にはこの身が滅びても
一歩 踏み出す
僕らはすぐ復帰して命中ヒットさせる
すぐに立ち直って食らわせてやる

僕は 今
あの光に向かって歩く
また一歩
僕らは すぐに立ち直って
異次元のレベルに到達する

夜明け前はあの遠く、長い長い日を耐えて
闇夜を制した陽光は 果てしなく行き渡る

僕は闘い続ける
無限に追い詰められても止まらない
(誰も僕を止められない)
あの猛烈な嵐が更に吹き荒んでも
一歩 踏み出して進む

恐れるな
時にはこの身が滅びても
一歩 踏み出す
僕らはすぐ復帰して命中させる
すぐに回復して食らわせてやる

僕は 今
あの光に向かって歩く
また一歩
僕らは すぐに立ち直って
異次元のレベルに到達する

僕らはすぐ復帰して命中させる
すぐに回復して食らわせてやる

また一歩
僕らは すぐに立ち直って
異次元のレベルに到達する



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6270645

『Another Level』
作曲・作詞:Pdogg , Matt Thomson , Max Lynedoch Graham , Matt Attard , Jon Bellion , Pete Nappi , Tenroc ,  Ben Samama , Oscar Bell , Jin , 이스란 , Zaya (153/Joombas) , 황유빈 (XYXX) , 이은화(153/Joombas) , Ellie Suh (153/Joombas) , Liljune (릴쥰) , 트루 (153/Joombas)


*******


今回は2024年11月にリリースされたJinのソロアルバム第1集「HAPPY」収録曲 "Another Level" を意訳・考察していきます。

アルバムリリースを記念して開催された「'Happy' Special Stage」でのジンくん自身による楽曲プレゼンテーションにて、この曲のキーワードは〈ゲーム〉であると解説がありました。
another level」というタイトル自体、ゲームキャラのレベル上げを想起させるものとなっており、なるほど、といった感じです。長時間の実況配信も平気でする程ゲーム好きの彼が選ぶ納得のテーマではないでしょうか。

ゲームがモチーフの楽曲と言えばグループ曲の "Jamais Vu" がありますが、こちらは2022年6月リリースのアンソロジー・アルバム「Proof」CD2にジンくんの選曲でトラックリスト入りしています。

"Another Level" も "Jamais Vu" のように歌詞へのゲーム要素の取り込み方が秀逸です。不滅の闘志を持つ主人公が語る熱い想いが壮大なロックサウンドにマッチしていて、ゲームOSTのような雰囲気を漂わせています。




早速ですが、歌詞冒頭の唐突な「Stay」。
これが何を意図しているのかを把握するためには、この歌詞が〈ゲームの世界〉の物語であることを念頭に置かなければなりません。

Stay ※1
(「ステイ」)
숨결조차 닿지 않던 나의 미로 stage ※2
(息遣いさえ(目的地に)着かなかった)
쳇바퀴에 갇혀버린 days ※3
(回し車に閉じ込められてしまった日々)
한계 없이 닿는 대로 힘껏 도약해 ※4
(際限なく手あたり次第 力いっぱい跳躍して)
끝을 향해 불태워내 ※5
(終わりに向かって燃やしきる)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6270645

※1 Stay…ターン制ゲーム等においてステージクリアを最優先とし、制限時間が終わるまで成り行きを放置する「現状維持」を目的とした戦略。あるいは、カジノのブラックジャックにおいて「現状維持」での勝負を選択する際の宣言(=Stand
※2 stage…ステージ。コンピュータゲームにおける構成単位 日本では「面」と呼ばれることも(参考
※3 쳇바퀴…回し車、堂々巡り(参考
※4 닿는 대로…닿다(触れる)+대로(ままに)=触れるがままに→手当たり次第に
※5 불태워내다=불태우다(燃やす)+내다(~し切る、~し抜く)

「Stay」の使用意図としては、主人公(プレイヤー)が積極的な自発的攻撃を敢えて避けて現状維持を選択する〈戦略〉を取った、という状況を設定することであると考えられます。

打って出てたとしても必ずしも不利な状況ではないが、今は「その時」ではないと判断した。
冷静に戦況を把握し、状況に即した的確な選択ができる軍師的なプレイヤー像がイメージできます。

ですが、主人公が現在挑んでいるステージは「脱出困難な迷路」。
同じ場所をぐるぐると回ってしまい、吐いた息ですらも外に出すことが不可能な無理ゲーのようです。最終的には出口を探して手当たり次第にぶつかっていく道しか残されていません(ドラクエⅡをプレイした遠い昔を思い出すわたし)。

I will keep on fighting
(僕は闘い続ける)
끝도 없이 몰아쳐도 멈추지 않아 ※6
(果てしなく吹き付けても止まらない)
(Nobody can stop me)
(誰も僕を止められない)
거친 그 비바람 더 불어도
(荒れたあの風雨が更に吹いても)
한 걸음 내디뎌가
(一歩 踏み出して行く)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6270645

※6 몰아치다…吹き付ける(参考

この「몰아치다」は「(暴風雨が)吹き付ける」の意となりますが、一体主人公の身には何が吹き付けているのでしょうか。
後続の行で「거친 비바람(暴風雨)」が出てくるので呼応して「몰아치다」という表現が選ばれているのだと思いますが、ゲームの中の話だという前提だと、「間髪入れずに繰り出されてくる相手の攻撃」であると考えられます。
それが弾丸なのか矢なのか、パンチなのかキックなのか、はたまた魔法なのか妖術なのか。様々な攻撃が想像できますが、どんな雨あられが降りかかろうとも自分はものともしない。足を止めずに一歩一歩踏み出して行く。と実直に、冷静に「ステージクリア」を目指します。

Don't be scared
(恐れるな)
나 때론 무너져도 한 걸음
(僕が時には崩れても 一歩)
We'll bounce back and hit, bounce back and hit ※7
(僕たちはすぐに回復して撃つ、回復して撃つ)

나 이제
(僕は今)
저 빛을 향해서 걸어
(あの光に向かって歩く)
한 발 더
(また一歩)
We'll bounce back and hit another level ※8
(僕らはすぐに回復して、別のレベルに到達する)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6270645

※7
・hit…撃つ、打つ、当てる/打ち当てる、痛手を与える(参考
・bounce back…困難からすぐに回復する(参考1)(参考2)
※8 hit…到達する(参考

「hit」はシューティングゲーム等で頻出する「撃つ」や「当てる」といった攻撃に関連する動作を表す単語のひとつであり、また、ある目的に「達する」の意でもあります。
そして「bounce back」には「跳ね返る」という意味がありますが、転じて「悪い状況がすぐに好転する」様子を表現することができます。

ここでは「hit」の意味が使い分けられており、止まない攻撃を受けてHPが削られようがすぐに回復してまた立ち向かう、更にレベルアップも達成する、という意志(will)が「We(僕たち)」を主語にとって表明されています。
「闘い続ける」と言っていた主人公は「나/I(僕)」であったはずなのですが、ここで「We」に切り変わるのです。

この主語の変化で気づかされるのは、楽曲 "Another Level" がただ単純に〈ゲームの世界〉の様子を歌っているのではない、ということ。

主語Weはおそらくバンタンを指していて、
・「すぐに復活して」「(チャートで)ヒットする」
・「すぐに回復して」「またひとつ別の次元に到達する」
これらは全てバンタンを主語にした意思表明であり、
Weが回復するその日を胸に「時には崩れても」「闘い続ける」主人公「나/I(僕)」はジンくん本人に他ならないのではないでしょうか。

そしてヴァース2は、あるグループ曲を連想させる歌詞になっています。

새벽은 저 멀리, 긴긴 날을 견뎌 ※9
(夜明け前はあの遠い、長い長い日を耐えて)
밤을 지새운 해는 끝없이 번져가
(夜を明かした太陽は果てしなく広がっていく)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6270645

※9 새벽セビョク…日付が変わった頃から日が昇るまでの時間帯(参考
★日本語に置き換えると「夜明け、明け方」となるのですが、実際にはもっと前の時間帯も「새벽セビョク」に当たります。

セビョクと言えば、あの曲のこの一節ですよね。

해가 뜨기 전 새벽이 가장 어두우니까
(太陽が昇る前の明け方が最も暗いから)
―― BTS(防弾少年団) "Tomorrow"

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3387402

最も暗い「遠い、長い長い」時間を夜を徹してひたすら耐え抜いた「太陽」の光は、夜明けとともに地上を照らし果てしなく広がっていく。
"Tomorrow" の物語を振り返ると、この「太陽」が指すものがバンタンそのものであることに思い至ります。
まさに今、このグループの軍白期こそが「遠く長い最も暗い夜明け前」であり、「太陽が昇る」再始動を迎えるその時まで例えひとりでも「闘い続ける」と誓うジンくんの、ジンくんらしい●●●闘志の燃やし方なのではないかと。

楽曲 "Another Level" は「僕」ではなく「僕たち」を主語とした〈復活予告〉なのだと私は思っています。
転役翌日から絶え間なく精力的に活動をこなすジンくんを衝き動かしているものが何なのか、その一端をこの楽曲を以って知ることができたような気がします。




今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
🎮