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BTS "Lie" この嘘がばれたなら 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.139

休まず逃げ続けてみても
嘘の術中にはまっている

Lie



君は 僕に言い聞かせる
甘い微笑みで 僕に
僕に言い聞かせる
囁くように 僕の耳元で
屈するな、と
蛇のように周到であれ、と
僕は 自由になりたいのに

あゝ
僕から離れて 離れて 離れてくれ
僕から離れて 離れてくれ
あゝ
何でもいい 僕を 僕を救ってくれ
僕を 救ってくれ

休まず逃げ続けてみても
嘘の術中にはまっている

もし この嘘がバレたなら
純粋だった僕を探してくれ
この偽りから抜け出せない
僕の笑顔を 返してくれよ

もし この嘘がバレたなら
地獄から僕を出してくれよ
苦しみから 抜け出せずに
罰を受ける僕を救ってくれ

僕を求めて 道を見失い迷っている
僕を求める 毎日そうだったように 僕を

僕は遥か彼方に感じる
君はいつも僕のゆく手に現れる
再び繰り返される 僕は

あゝ
僕から離れて 離れて 離れてくれ
僕から離れて 離れてくれ
あゝ
何でもいい 僕を 僕を救ってくれ
僕を 救ってくれ

休まず逃げ続けてみても
嘘の術中にはまっている

もし この嘘がバレたなら
純粋だった僕を探してくれ
この偽りから抜け出せない
僕の笑顔を 返してくれよ

もし この嘘がバレたなら
地獄から僕を出してくれよ
苦しみから 抜け出せずに
罰を受ける僕を救ってくれ

未だに僕は相も変わらず
全く同じ僕なのに
昔のままの僕はここにいるのに
大きくなってしまった嘘が
僕を 飲み込もうとする

もし この嘘がバレたなら
純粋だった僕を探してくれ
この偽りから抜け出せない
僕の笑顔を 返してくれよ

もし この嘘がバレたなら
地獄から僕を出してくれよ
苦しみから 抜け出せずに
罰を受ける僕を救ってくれ



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

作曲・作詞:DOCSKIM , SUMIN , "hitman" bang , Jimin , Pdogg


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今回は、2016年10月にリリースされたBTS/防弾少年団の正規アルバム第2集「WINGS」より、Jiminのソロ曲 "Lie" を和訳・考察していきます。

アルバム「WINGS」にてグループ史上初めて本格的に展開されたソロ曲ですが、コンセプチュアルなものをただ単に目指したものではない、と当時のV LIVEでRMがビハインドエピソードを語っています。〈BTS Universe〉の設定を拾いつつも一方的にキャラクターに寄せるのではなく、彼らが抱えている生の想いを交えた表現に注力した珠玉の楽曲が並んでいます。

今回取り上げるこの "Lie" については、歌唱担当のジミン本人がひとりで作詞した楽曲であることを同じV LIVEにてナムさんが証言しています。彼が制作に携わった作品が公式音源になったのはこれが初めてのことですが、ナムさんはこの歌詞を「とても上手く書けている」とべた褒めしています。

そして、ジミン曰く「過去の自分を考えながら書いた」歌詞であったとのこと。常に「自分はできない、足りない。自分が間違っている、自分が悪い」と自責した、練習生の頃からデビュー直後にかけてのいわゆる下積み時代。
問題の原因は常に自分にあると自分で自分を崖っぷちに追いやっては自己否定を繰り返していたという彼に、自分との共通点を見つけたとナムさんは振り返っています。

いつも自分が嘘の渦中にいると感じ、周囲からどう見られているかを気にし続けていた、という己の過去を思い出しながらジミンが書いた "Lie" の歌詞。
一方〈BTS Universe〉の登場人物・ジミンは、幼少期のトラウマを抱えながら或る嘘をつく役回りであることが物語の中で明らかになっています。

嘘をキーワードに交錯するふたりのジミン。
ここでは〈BTS Universe〉の物語とは距離を置いて、バンタンのジミンが歌詞に込めた想いに注目してみたいと思います。

1.繰り返される墜落

2016年のリリースに向けてジミン本人が書いた "Lie" の歌詞。
この世界観を補完するものが、約7年後に彼のソロアルバムとして発表されます。2023年3月に世に出た第1集「FACE」です。

中でも "Alone" の歌詞には「Lie」という単語が登場し、 "Lie" の歌詞とその制作意図を照らし合わせることで、まるで行間を埋めていくような、答え合わせをしているような感覚に陥ります。

"Lie" の歌詞には '君' と '僕' が登場しますが、この '君' は自分以外の誰かの存在というよりは、もう一人の自分のような存在、自問自答の自問担当のような存在なのではないかと思います。
"Alone"、"약속(Promise)" など他の彼の作詞曲でもこの「너」=「나」の構図が見受けられます。

내게 말해
(僕に言う)
너의 달콤한 미소로 내게
(君の甘い微笑みで 僕に)
내게 말해
(僕に言う)
속삭이듯 내 귓가에 말해
(囁くように 僕の耳元で言う)
Don’t be like a prey
(餌食のようになるな)
(Be) Smooth like a like a snake
(蛇のように滑らかになれ)
벗어나고 싶은데 ※1
(自由になりたいのに)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

※1 벗어나다…自由になる、抜け出す(参考

彼が下積み時代に感じていたジレンマは「理想と現実の乖離」を感じた結果であることがうかがえます。相手に受け入れられることを理想に掲げるが故に、上手くいかない現実を全て自分の落ち度にし、それを改善するために自分で自分を厳しく律していく。
〈もうひとりの自分〉がさながら天使のように微笑みながら耳元で囁く内容は清純で清らかなものとは程遠く、命令形で「餌食になるな」「蛇のようであれ」とむしろ残酷で強制的な印象を与える表現が並びます。
そして、本当の自分はそんな厳しい命令から「自由になりたい」と思っているのになれません。

(Ah woo woo)
내게서 떠나 떠나 떠나줘
(僕から離れて 離れて 離れてくれ)
내게서 떠나 떠나줘
(僕から離れて 離れてくれ)
(Ah woo woo)
뭐라도 나를 나를 구해줘
(何でも(いいから)僕を 僕を救ってくれ)
나를 구해줘
(僕を救ってくれ)

계속돼 도망쳐봐도
(逃げ続けてみても)
거짓 속에 빠져있어
(嘘の中に陥っている)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

離れてくれと懇願する相手は、常に「できない、足りない、間違っている、お前が悪い」と責め立ててくる〈もうひとりの自分〉であり、そんな状況からとにかく「何でもいいから救って欲しい」と続きますが、遠い理想に手が届いていないにも関わらず届いていると偽らざるを得ない現実から逃げ切ることはできません。深い深い嘘の沼に陥ってしまっているのです。

[Being] Caught in a lie ※2
(嘘がばれたら)
순결했던 날 찾아줘
(純粋だった僕を探してくれ)
이 거짓 속에 헤어날 수 없어
(この嘘の中で抜け出せない)
내 웃음을 돌려놔줘
(僕の笑みを返してくれ)

[Being] Caught in a lie
(嘘がばれたら)
이 지옥에서 날 꺼내줘
(この地獄から僕を取り出してくれ)
이 고통에서 헤어날 수 없어
(この苦痛から抜け出せない)
벌받는 나를 구해줘
(罰を受ける僕を救ってくれ)

※引用文に付けた和訳は直訳(省略されていると思われる語を[ ]内に補完)
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

※2 be caught in a lie…嘘を見破られる(嘘がばれる)

★caughtはcatch(捕まえる)の過去形/過去分詞。文脈上の主語が明確である場合や歌詞表現などでその主語は省略されることがあります。
「Caught in a lie」も主語が省略された過去形の文章であるという見方も可能ですが、①「捕まえる」の過去形は「捕まえた」、②「catch in~ =(~で/~に於いて)捕まえる」であり、caughtがcatchの過去形であるという前提で直訳すると「嘘で捕まえた」となりますので、既存の和訳記事で散見される「嘘に捕らわれた/嘘に捕らわれて」等という和訳にはなりません。

また、③「catch 人 in a lie = 人の嘘を見破る」というイディオムも存在しますが、作文すると「I caught me in a lie(私は私の嘘を見破った)」となり、「すでに嘘をついている自分のことを自覚しながらも嘘がやめられない」彼の心境に当てはめることが難しくなってきます。

つまりここでのcaughtはcatchの過去分詞であるとするのが妥当だと思われますが、前述の①②③を踏まえると文頭に省略されていると思われる「be」を補って受動態「be caught in a lie」とすることで「嘘に於いて捕まえられる→嘘を見破られる→嘘がばれる」となり、主語が 'I(僕)' である文章に無理がなくなるのではないかと思います。

更にこれを文頭におくにあたってbeをbeingとし、分詞構文の用法「条件もし~すれば」(参考)に当てはめると「抜け出せない嘘=まだ嘘がばれていない」という前提を崩さずに、以降の文の流れを作ることができました。

もし嘘がばれたら、嘘で塗り固められていた本来の純粋な自分を見つけ出して欲しい。何も考えずに笑っていられた自分を返して欲しい。
もし嘘がばれたら、偽りの姿で生きることしか許されない地獄から自分を連れ出して欲しい。嘘をつき続けることで罰を受けている自分を救って欲しい。

"Alone" でも「Mayday 날 꺼내줘(助けて 俺を連れ出してくれ)」と、絶え間なく墜落を繰り返しながらも救いを求める姿が描写されています。


2.僕は僕に戻れるのか?

"Alone" の歌詞に、こんな一節があります。

いつからだっただろうか
目の前で笑っている皆が
恐ろしく感じられるのは
逃げ出そうとしたけれど
進む道を失ってしまった
(中略)
寸分違わぬ 一日が
またしても流れゆく
どれだけ耐え抜けば
俺は元に戻れるのか?
―― Jimin "Alone" 歌詞和訳記事より抜粋

https://note.com/nozomiari/n/n45925566d5d2

周囲からどう見られているかを気にし続け「自分はできない、足りない。自分が間違っている、自分が悪い」と自己否定を繰り返すうちに自ら地獄に足を踏み入れてしまった彼は、「純粋だった嘘をつく前の元の自分」に戻る道を見失ってしまったのです。

"Lie" ではそんな「自分探し」の様子も書き留められています。

나를 원해
(僕を求める)
길을 잃고 헤매이는
(道を失って迷う)
나를 원해
(僕を求める)
매일 그랬듯 나
(毎日そうだったように 僕)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

I feel so far away
(僕は遥か彼方に感じる)
You always come my way ※3
(君はいつも僕の身に降りかかる)
또 다시 반복돼 난
(また繰り返される 僕は)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

※3 come one's way…~の身に降りかかる(参考

「I feel~」と「You always come~」は対になっていると思われます。
偽りを重ねる罪悪感と距離を置く為あらゆる自己研鑽を試みているつもりなのに、嘘から生まれたもうひとりの自分はいつもその行く手を阻んでくる。理想と現実の間で繰り返される葛藤。

아직 나는 여전히 똑같은 나인데
(まだ僕は相変わらず全く同じ僕なのに)
예전과 똑같은 나는 여기 있는데
(昔と全く同じ僕はここにいるのに)
너무나 커져버린 거짓이 날 삼키려 해
(余りに大きくなってしまった嘘が僕を飲みこもうとする)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/30413063

理想を叶えるため、期待に応えるために少しずつ無理をして積み重ねてきた嘘は、いつしか本来の自分を飲みこむ程の存在感を放ち、嘘を嘘だと打ち明けて素の自分に戻る術も見失ってしまった。

"Lie" そして "Alone" で歌われている「嘘」。
それは、厳格な自己評価による自己否定が生み出した鎧のようなもので、上を目指せば目指すほど墜落の恐怖を味わい、繰り返し地獄を見るという自己暗示呪いが掛けられていました。

芸能界という競争の世界でなんとか生き抜こうとするが余り、気負いで押しつぶされそうになっていたことがひしひしと伝わってくる歌詞ですが、前述のV LIVEではナムさんが「ジミ二が '最近は本当に幸せだ、余裕が出て来た' という話をしてくれました」と報告してくれています。

窮地を乗り越えたという余裕が生んだ客観性が当時の呪いに「嘘」という名前を付け、自らの声で歌うことでそれを逆に飲みこんでやった●●●●●●●●のだと言えるのではないでしょうか。

ストイックで努力家な彼の本質が、彼自身を押し潰すところにまで至らずに済んで本当に良かったと胸をなでおろしました。
ナムさんのお墨付きの作詞のセンスも、今後ますます磨かれていくことを期待します。




この記事を投稿した本日10月13日は、ジミンちゃんの誕生日です!
지민이 생일 축하해요!👏

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
🎂