BTS "Converse High" Converse Lowを履かないで欲しいのは何故なのか ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.127
Converse High
君のコンバース ハイ
君のコンバース ハイ
君のコンバース ハイ
コンバース ハイ
君のコンバース ハイにハマったみたい
どうしようもないらしい俺は wo
君のコンバース ハイにハマったみたい
とっても好き 全てが無性に wo
俺に一日だけ時間があるなら 俺は
コンバース ハイの生みの親に会おう
そしてこう言うだろうね
あなたがこの世界を救ったのだ
あなたはあの女性たちを
生まれ変わらせたんだよ、と
君が持ってるシャネルも
アレキサンダー・マックイーンも
ラフ・シモンズもその辺に捨てて
とりあえずこっちに来て見てみて
10万ウォンあれば 2足は買う
君は俺が望むものをわかってるね
白いTシャツにデニムのショート
赤いコンバース ハイ それに限る
さぁて
パルジュノ チョパナムボ
君の足に 無知な犬は発砲
その姿はさながらランボー
俺を狙撃する バンバン
騒ぎ立てるよ ワアワア
君の躰となら ハアハア
コン'タクシー'、コン'サイクル'、
コン'サブウェイ'は要らない
俺はコン'バス'に乗ってブルンブルン
あの 空に輝く星ではなくて
今日は君の靴の星を眺めるよ
ハハ
もれなくナムジュンがこっそりと
擦れ違えば因縁 染み込めば愛
こう 誰かが言っていたけれど
君は 初めから
俺一色に染まってしまったのか
君が好き でも
コンバース ロウは 履かないで
君のコンバース ハイにハマったみたい
どうしようもないらしい俺は wo
君のコンバース ハイにハマったみたい
とっても好き 全てが無性に wo
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君が欲しいよ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君が好きだよ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君しかいない
コンバース ハイ コンバース ハイ
コンバース コンバース
俺はマジでコンバースが気に入らない
華やかな君の見ためには
黒ストッキングに 華奢なハイヒール
そう それはイカサマだ
ところで もっと似合うのは
エアジョーダン ナンバーズ
は?知らないの?
コンバースは君の魅力を殺ぐ玉の傷
とにかく 俺と会う時は
コンバースを履かないで
何より脱ぐのが滅茶苦茶大変じゃん
擦れ違えば因縁 染み込めば愛
なのだと誰かが言っていたけど
君は 初めから
俺一色に染まってしまったのか
君が好き でも
コンバース ロウは 履かないで
君のコンバースハイにハマったみたい
どうしようもないらしい俺は wo
君のコンバースハイにハマったみたい
とっても好き 全てが無性に wo
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君が欲しいよ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君が好きだよ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君しかいない
コンバース ハイ コンバース ハイ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君が欲しいよ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君が好きだよ
君のコンバース ハイ
本当に 本当に 君しかいない
コンバース ハイ コンバース ハイ
コンバース ハイ……
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/4315829
『Converse High』
作曲・作詞:Pdogg, Slow Rabbit, Rap Monster, SUGA, j-hope
*******
今回は、2015年4月にリリースされたBTSのミニ・アルバム第3集「화양연화(花様年華) Pt.1」に収録されている "Converse High" の歌詞を意訳・考察していきたいと思います。
この楽曲は後に2016年5月発表のリパッケージアルバム「화양연화 Young Forever」にも収録されています。
彼らの活動履歴の全貌を俯瞰する際には、ある地点に刺さる楔を無視することはできません。
2016年5月にARMYを自称する一般人が公論化した、歌詞やSNS上の発言内容に対する「女性嫌悪(ミソジニー)問題」。同年7月に公式謝罪が行われたことで、その後の彼らの表現活動はこの問題をクリアできるものに移行します。2017年のインタビューでRMは、歌詞を書く際は女性学の教授など客観的に見ることが出来る専門家の検収を受けることもある、との旨の発言をしています。
当時、歌詞の一部が女性嫌悪だと指摘された楽曲のうちのひとつがこの "Converse High" になります。
もし、この時点で該当箇所がどの部分なのかまだご存じでいらっしゃらない方は一体どこが問題なのかを考えながら、また、既に経緯を把握されている方もあらためて、世論ではなく自分自身の感覚に向き合ってこの記事を読み進めていただくのも良いのではないかと思います。
1.コンバース「ロウ」を履かないで欲しいのは何故なのか
「Converse」は1908年創業のアメリカのシューズメーカーですが一度倒産を経ており、現在日本においてそのブランド名と意匠を使用しているのは伊藤忠商事、米コンバースはナイキに買収されていたりと、認知度の高さとは若干裏腹な経営事情があるようです(初めて知った)。
上記事情により日本では米コンバースの商品を購入することはできず、米公式サイトの閲覧すらできない状況。
歌詞に登場するのはコンバースの赤いハイカットスニーカーです。
日本で購入できる赤いハイカットの中で定番とされていたのがこれ↓
実在のブランド名が歌詞にがっつり登場するため、楽曲が歌番組で披露された際には大人の事情で「コンバース」→「ラバーズ」に置き換えられています。
"Converse High" はそのリリース前、2015年3月28・29日に行われたソウル単独公演「2015 BTS LIVE TRILOGY:EPISODE I. BTS BEGINS」において "흥탄소년단(フンタン少年団)" と共にARMYたちの前で先行公開されました。
当時のインタビューにてこの楽曲は「コンバースを良く履く女性に対する賞賛を込めた曲」だと紹介され、制作に携わったナムさんのコメントが掲載されています。↓
彼がこの曲を元々グループ向けではなく個人のミクテ向けに書いていたことは、SUGAのアルバムレビューでも言及されています。
2015年6月には公式ブログに "Converse High (Rap Monster ver.)" の歌詞が投稿され、SoundCloudに音源が上がった形跡が残っています(現在音源は削除済み)。
この原曲(レプモンver.)の歌詞を読んでみると、ある部分がグループ曲に引き継がれていないことがわかります。
以下の引用部分がそのおおよその範囲です。
自称「コンバース変態(略してコン態)」のナムさんのフェチポイントが、ハイカットシューズの靴紐をキュッと締めた時にしか出ない〈足首のライン〉、そしてそのシューズの縁から〈チラリと覗く靴下〉であることがわかります。
また、そんなニッチな推しポイントを愛しすぎるが故に、諸々兼ね備えた理想の相手(コンバースを履いたきれいな女性)を目の前にした際に
自分が好きなのは
〈女性という存在自体〉なのか、それとも
〈コンバースというアイテム単体〉なのか
勢い余ってちょっとわからなくなってしまっている瞬間が描かれています。
出会った時のときめきが愛に変わるためにはそれなりの時間が必要だとどこかで聞いたのに、どうしてこんなにも始めから強く惹かれてしまうのか。
出会う前から予め自分の理想の人として完成されでもしていたのだろうか。
…と、例え「예쁜 여자(きれいな女性)」とは言えども、まだ出会ったばかりの「그냥 컨버스 신은(ただコンバースを履いた)」だけの相手にいきなり強く惹かれてしまった戸惑いの中で、湧いてくる自分の気持ちの源を探ろうともしています。
君という存在が大好きなのは確かなのだけど、'コン態' としてはハイカットシューズを履いている君の姿を見ていたいという欲も捨てられない。
君を好きになった理由はハイカットシューズがめちゃくちゃ似合うということだけではないけれど、それでもやっぱりハイカットシューズでしか得られないあの感じが好き。
今自分は、他の誰でもない「君のコンバース ハイ」が好きなんだ。
「コンバース ロウは履かないで」は、一方的に男が自分の好みを女に押し付けようとしているセリフではなく、不意に燃え上がった自分の気持ちの出どころを整理することであらためて理解できた自分自身に正直になった結果であると言えるのではないでしょうか。
グループ曲の歌詞では、残念ながらこの機微が伝わってきません。
個人で発表しようとしていた楽曲をグループ曲としてリリースする際に歌詞の内容をある程度平たくする必要(今回で言えばFxxxをFだけにしたり)が出てくるのは致し方ないとしても、論争を呼んだという結果を踏まえると、"Converse High" に関しては原曲歌詞の端折り方に少々難があったのではないかと思います。
(もし原曲の意図が上手く引き継がれていたとしても、批判は物語ではなく単語・文節単位で浴びせられるものなので、結局同じ結果になっていたかもしれませんが)
2.履いて! or 履かないで!
"Converse High" は当初の意図を崩した上で世に出た楽曲である、という前提を踏まえると、他のヴァースで歌われている内容と「君のコンバース ハイにハマった」「コンバース ロウは履かないで」という言葉にナムさんが込めた一途な想いとの距離が一層際立ってきます。
j-hopeのパートには、多少火遊び的なノリをもった奔放な男の子の姿が垣間見えます。
※1 빨주노초파남보
虹を構成する色を覚えるために、빨강색(赤)、주황색(橙)、노랑색(黄)、초록색(緑)、파랑색(青)、남색(紺)、보라색(紫)の頭文字を繋げたもの。(参考)
※2 前の行から考えて무지개=虹とするところなのですが、その前後の文章となかなか繋がりません。
무지개=무지(無知)+개(犬)と解体すると「君の足に無知な犬はshot」となり、「無知な犬が見境なく足に用を足す(縄張りを張る)」のような意訳ができるのではないかと思いました。
コンバースは様々な色の商品が展開されているので「虹」の概念をもってきたのかもしれませんし、「ランボーのようにshot(乱射)する」のはまぁ…やんちゃして色んな子に手を出しちゃう、みたいなイメージがちょっとあるかもしれません。
컨버스の「버스」が乗り物の「버스(バス)」と同じ綴りということを利用し、컨を接頭語のように見立てて「컨タクシー」、「컨自転車」、「컨地下鉄」と並べた上でそれらは要らない、俺は「컨バス」に乗る。という流れも同様の見方ができると思います。
一方ユンギパート。本人がレビューで打ち明けていますが、「俺はほんとにコンバースが嫌い」と歌ってはいるものの、他のヴァースとのバランスを考えたことによるもので、実はそこまでコンバースが嫌いというわけではなかったようです。
(「조던 numbers」についてはこちらが参考になります。)
そして、ユンギパートにも「履かないで」のくだりが再度登場します。
俺はコンバースよりハイヒールが好き。エア・ジョーダンが好き。だからとにかく俺の前ではコンバースは履かないで。だって脱ぎにくいじゃん。
この箇所の「履かないで」の理由は「自分が嫌いだから」というものであり、一方的な押し付けと捉える人がいてもおかしくないですね。
私は「好き」を伝える権利と「嫌い」を伝える権利は性別年齢関係なく誰にでも同等にあるのではないかと思っているので、全く圧力だとは感じませんが。
むしろ「僕はコンバースが大好き!だからコンバースを履いている女の子がもちろん好き!ねぇ履いて!」だけの曲だったとしたら、かえって圧力を感じてしまうのではないかなと思います。
3.すれ違えば縁、染み込めば愛
レプモンver.の歌詞にも登場している印象的な一文。
この言葉、あちこちで「ディズニー映画に出て来たセリフらしい」と曖昧に言及されているのですが、その作品がアニメーション映画『眠れる森の美女』であるということまではわかったものの、実際にどのセリフがそのように訳されたのか、ひいては本当にその台詞が『眠れる森の美女』韓国版字幕あるいは吹替に登場したのか、確実な情報が見つかりませんでした。
(動画を探すと韓国語吹替版の切り抜きが上がっているのですが、該当のフレーズがセリフとして登場しているところを見つけ出すまでには至りませんでした)
また、あたかも英語版のセリフのように一部で紹介されている「If it passes by, then it's a relation. If it sinks into one's mind, then it's love.」は스치면〜のフレーズを英語に直訳したもので、英語版のシナリオをテキストに起こしているサイトで確認したところ、セリフの中にはこれと同じフレーズが存在しないことがわかりました。
唯一の公式な手掛かりとして、ディズニーコリア公式facebookに스치면〜のフレーズと共に『眠れる森の美女』のワンシーンの画像が投稿されていたものがありましたので、その場面を頼りにどんなセリフが並んでいるのかを調べてみる事にしました。
その場面は、森の中でオーロラ姫とフィリップが出会うシーンです。
facebookに掲載されていた画像の瞬間にあったのは、突然現れて驚かせてしまったオーロラ姫に対する「あなたを怖がらせるつもりはなかった」という旨のフィリップのセリフでした。
(ちなみに以下の動画で字幕を韓国語にしても스치면 ~のフレーズは出てきません。劇場公開時の字幕ではないようなので、参考までに。)
その後フィリップは初対面のオーロラ姫に対して「夢で会ったことがある」と情熱的に語ります。内心嬉しく思いながらも警戒するオーロラ姫は距離を置こうとしますが、このフィリップの熱量に絆され次第に心を開いていきます。
そして、以下の歌詞を含む曲に合わせてふたりはダンスをします。
すでに夢で出会い、相手を知っていたことが「すれ違った故の縁」であり、ひとつのきっかけであるとすれば、その後ふたりの関係が進展することを「染み込んだ末の愛」だと捉えることができるのかもしれません。
そう考えると「すれ違えば縁、染み込めば愛」は、具体的に英語版のいずれかのセリフを韓国語訳したというよりも、オーロラ姫とフィリップ、このふたりの関係の変化を詩的に表現したものである可能性が高いのではないではないか、という結論に私は至りました。
もしかしたら、全く別の場所にすでにあった言葉が引用されただけなのかもしれませんが、1990年代まで遡ってもネット上の情報の中からは有力なものを見つけ出すことができませんでした。
前述の通り "Converse High" はレプモンver.の時点では、理想のタイプど真ん中の女性を前にした時の喜びや戸惑いが歌詞の本質でした。初めは何の繋がりもない間柄でも、直感的に感じた運命がふたりの心に染み込めば、それはいずれ愛に変わる。
そんな一目惚れの高揚感を胸に抱きながら、彼女が選ぶ服ひとつ、靴ひとつに一喜一憂する。
自覚できる程に確かな運命の出会いを果たした時に感じる説明のつかない強大な引力は、一体なぜ、どこからやってくるのか。
困惑の中で見つけた'コンバース ハイ'というアイコン。でも、気になる理由はきっとそれだけじゃない。
「愛」というものがどのようにして成熟していくのか、まだ人づてに聞いたことしかなかった青年の、初めての経験に対する焦り、迷いと喜びがぎっしり詰まった "Converse High"。
この至極ロマンチックな歌詞が、誤解なく広く理解されることを望みます。
今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
👟