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Jin "그리움에 (I will come to you)" 恋しさの渦の中に 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.147
思い出も恋しさも塗り込めた
僕の大切な一枚
過ぎ去った時間の後に残った
ただ一つの色彩
그리움에 (I will come to you)
白い雪が舞っていた日
君のとなりを離れた日
一日に 数百回ずつ
毎日書きつけたその言葉
すごく恋しいんだ
僕を抱きしめてよ
美しい記憶に浸って 今日も
穏かな眠りに就けますように
あたたかい春の風が吹く頃に
君に 君に会いに行くからね
約束する 君に会いに行くよ
思い出も恋しさも塗り込めた
僕の大切な一枚
過ぎ去った時間の後に残った
ただ一つの色彩
真っ暗な道を照らす一条の光
君よ
美しい記憶に浸って 今日も
穏かな眠りに就けますように
あたたかい春の風が吹く頃に
君に 君に会いに行くからね
約束する 君に会いに行くよ
恋しさの渦の中に
暫く離れていても
約束する 君に会いに行くと
もし 君が僕を求めるのなら
僕は 君の元に向かうからね
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6270648
『그리움에 (I will come to you)』
作曲・作詞:Jin , Leon Else , Joshua Thompson
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今回は2024年11月にリリースされたJinのソロアルバム第1集「HAPPY」収録曲 "그리움에 (I will come to you)" を意訳・考察していきます。
アルバムリリースを記念して開催された「'Happy' Special Stage」でのジンくん自身による楽曲プレゼンテーションにて紹介されたこの曲のキーワードはずばり〈ARMY〉。
彼が軍隊でARMYを思い浮かべながら書いたメモを元に歌詞を書いたというこの楽曲には、当時感じていた「그리움(恋しさ・懐かしさ)」がダイレクトに反映されていて、歌入れ作業中最も没入できた曲だったとステージトークで振り返っています。↓
先行配信や表題曲のアップテンポなロック曲でも期待以上の驚きと感動を届けてくれたジンくんですが、彼の声質を存分に堪能できるしっとりとしたバラード曲はやはり「これぞJin」といった存在感です。
一枚のアルバムを締めくくる楽曲としても、転役後最初の作品の集大成としても、正にこれぞ適材適所と言える一曲であると思います。
手紙を読み上げるようなトーンで展開する歌詞は、季節もすっかり冬となった頃に迎えた入隊当時の心情にも触れています。
흰 눈이 내리던 날
(白い雪が降っていた日)
너의 곁을 떠난 날
(君のそばを離れた日)
하루에도 수백 번씩
(一日にも 数百回ずつ)
매일 끄적인 그 말 ※1
(毎日 書き留めたその言葉)
너무 그리워
(とても恋しい)
나를 안아줘
(僕を抱きしめて)
https://music.bugs.co.kr/track/6270648
※1 「끄적이다/끄적거리다」について
国立国語院によって2011年より標準語として認められていますが、元々は
끼적끼적【副詞】(無造作に書く/描く様子を表す)を元にした
끼적거리다【動詞】(無造作に字や絵をかく)が正しい表記であったようです。(끼적이다もほぼ同じ意味)
★-거리다…同じ動作が続けられることを表す接尾辞
-이다…動作や状態を表す語について動詞を作る接尾辞
前述の通り、兵役中にメモしておいた言葉を元に書き上げたというこの歌詞の成り立ちを、実際に歌詞の中でも明確にしている部分です。
ただの「書く(쓰다)」ではなく、体裁を気にせず思いついたそばから書きつけていくニュアンスを含む「끄적이다」を用いている点がポイントだと思います。
この「書く/描く」という動作がこの歌詞の基軸となっているのではと窺える箇所があります。
추억도 그리움도
(思い出も 恋しさも)
담긴 나의 그림
(込めた 僕の絵)
지나간 시간 속에
(過ぎて行った時間の中に)
남은 단 하나의 색
(残ったただ一つの色)
https://music.bugs.co.kr/track/6270648
唐突であるようにも思える「絵」という単語の登場ですが、これは、規律により制限された生活において心の支えとなっていた「思い出」と同義であるのは明らかです。
寂しさを紛らわすために頼りにできるのは自分の記憶の中にある〈景色〉であり、それらを〈恋しい気持ちがふんだんに塗り込められた「絵」〉に見立て、華やかだった時間が過ぎ去ってしまった後の世界において唯一の「彩り」としているのではないでしょうか。
自分だけの無二の感情を込めて描いた大切な一枚を、他に何もない部屋の壁にかけ、一心に愛でている姿を思い浮かべました。
余談ですが、韓国語で「恋しく思う・懐かしむ」と「(絵を)描く」は同じ「그리다」という表記を用います。
何か語源に関連があるのかなと思い調べてみましたが、同じことを考えていた方がチラホラ……。
国立国語院は「恋しく思う・懐かしむ」の意と「描く」の意のそれぞれの「그리다」の間に関連はあるのかという質問に対する回答にて、「그리워하다(恋しく思う・懐かしむ)」が元は「그려하다」と表記されていたことを挙げて「그리다」との関連性が強いことを示唆していますが、「그리다(描く)」はただの同音異義語であるとしています。
語源の一致を疑わせる程に関連性を感じさせるふたつの「그리다」という動作が、歌詞の中でひとつの情景を生み出していることに、少なからず感動を覚えます。
また、この「絵」が大切に愛でられている対象であると推測するに至った理由のひとつに「나의(私の)」が冠されている点を挙げておこうと思います。
韓国では家族や友人等〈自分に近しい人や団体〉に「우리(私たちの)」 と付ける文化があります。
そして「私の○○」と表現したい時に「나의」を使用する際には「私自身のモノ」という所有権の主張を強めるニュアンスが含まれるようです。↓
日本語で「私の」「私たちの」と敢えて付け加える場合は、縁者や所有物を他人に紹介する時など関係説明の必要がある場合がほとんどであるかと思います。当人に対して「私の」と付けて呼びかけるとわざとらしさが先行してしまいます。
韓国語の「우리」や「나의」英語の「My」は実体に対する呼びかけにも用いることで心の距離感を表現することが可能なようです。
この歌詞はARMYへの想いが形になったものですので、登場する「記憶」も「思い出」も全てARMYとのものであると言えるかと思いますが、彼の中で「大切な絵」であり「ただひとつの色彩」であるARMYは、これまでの生活とは全く異なる世界を前にし指針を失いかけた時、彼にとっての「一条の光」となります。
캄캄한 길 위에
(真っ暗な道の上で)
한 줄기 빛 그대여 ※2
(一筋の光 あなたよ)
https://music.bugs.co.kr/track/6270648
※2 ~여…対象に丁寧に呼びかける意を表す助詞(参考)
★~아/~야が元の形(パンマル)
「絵」、「色彩」そして「光」。
ARMYが自分にとって「掛け替えのない唯一の存在」であることを表現するためにジンくんが選んだ言葉たち。素敵ですね。
そして凍える冬の寒さで始まった歌詞は、春の日のぬくもりを胸にしめくくられます。
아름다운 기억에 잠겨
(美しい記憶に浸って)
오늘도 웃으며 잠들길 ※3
(今日も笑って眠りに就きますように)
따뜻한 봄바람 불 때쯤
(暖かな春風が吹く頃)
너에게 너에게 갈게
(君に 君(のところに)に行くよ)
약속해 너에게 갈게
(約束する 君(のところに)に行くよ)
그리움에 잠시 떠나있어도 ※4
(恋しさに暫く離れていても)
약속해 I will come to you
(約束するよ 僕は君に会いに行く)
If you need me, I will come to you
(もし君が僕を必要なら、僕は君に会いに行くよ)
https://music.bugs.co.kr/track/6270648
※3 ~길(=기를 바라다)…語尾「~길」は「動語語幹+~기를 (바라다)」が省略された形。「~しますように(~することを(願う))」と訳す。(参考)
※4 直訳「恋しさに暫く離れていても」では若干状況がつかみにくいので、「暫くの間恋しさの渦中にいても」と解釈しました。兵役中は絶え間なく恋しさの渦中にあると考えると、「暫くの間軍隊にいても」のように具体的な場所を挙げることができるかもしれません。
ここでタイトル「그리움에(恋しさに)」の回収と相成りました。
今はARMYをすぐ側で感じることができず、懐かしみ、恋い慕う気持ちに心が掌握されてしまっているけれど、それも暫くの間。
季節が巡り雪解けの〈春の日〉がやってきたら、必ずARMYに会いに行くと約束する。
でも決して一方的に現れるのではなく、自分が必要とされるなら、という前提の元に。
6曲構成のアルバム「HAPPY」を振り返ってみると、
「思いのままに生きていく(Running Wild)」
「君のそばにいる(I'll Be There)」
「必ず立ち直ってレベルアップする(Another Level)」
「君が欲しい、でもちょっと自信がない(네게 닿을 때까지)」
「こころは通じている(Heart on the Window)」
「必要とされるなら必ず会いに行く(그리움에)」
……と、童心あり、野心あり、誠心誠意ありのバラエティに富んだ内容であったことがわかりますが、一貫している要素はやはり「ARMY」であり、どんなシチュエーションの楽曲でもその要素をあてはめることによって、彼が伝えたかったことが自ずと見えてくるしかけになっていたのではないかと感じます。
周りを幸せにすることで自分が幸せになれるから、自分が幸せになるために周りを幸せにするというシンプルな行動原理で、時に斜め上のアクションでもってARMYの驚きと喜びを引き出してくれるジンくん。
あれだけのアイデアを実現にこぎつける熱意、行動力。その快進撃を見守れる幸せを噛みしめていられる世界が、この「HAPPY」から先もずっと続いていきますように。
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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