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BTS "Stigma" 僕の罪と罰 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.149
僕の代わりに罪を被った
か弱さそのものだった君
Stigma
隠してきた
君に言うよ
ひたすら隠しきっておくには
もう耐えられはしないことを
何故あの時言えなかったのか
どうせ 痛み出して
本当に耐えられはしないのに…
さあ泣くよ
君に申し訳なさすぎるだけさ
また泣くよ
君を 守ってあげられなくて
もっと深く もっと深く
傷だけが深くなる
元に戻せない壊れた硝子の欠片みたい
もっと深く 毎日 胸だけが痛くなる
僕の代わりに罪を被った
か弱さそのものだった君
泣くのはやめて 僕に教えて
勇気がなかった僕に言ってみて
「あの時なぜ僕にそうしたの?」
「ごめん」
いいよ 僕に何の資格があるの
ああしろ こうしろと君に言う
もっと深く もっと深く
傷だけが深くなる
元に戻せない壊れた硝子の欠片みたい
もっと深く 毎日 胸だけが痛くなる
僕の代わりに罪を被った
か弱さそのものだった君
ごめん、ごめん
ごめんよ、親愛なる友よ
包み隠しても 葬り去っても
消えていかない
「僕は道を外れていると言うの?」
これより他に何て言えるだろう
ごめん、ごめん
ごめんね、親愛なるあなた
包み隠しても 葬り去っても
消えていかない
だから泣くよ
どうかあなたが僕の涙を拭いて
あの光が あの光が
僕の罪を照らしてくれる
取り返しのつかない赤い血が流れ出て
もっと深く 毎日死ぬ他にないみたい
その罰を受けさせてくれ
僕の罪を許してくれ
どうか
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/30413064
『Stigma』
作曲・作詞:philtre, V, Slow Rabbit, "hitman"bang
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今回は、2016年10月にリリースされたBTS/防弾少年団の正規アルバム第2集「WINGS」より、Vのソロ曲 "Stigma" を和訳・考察していきます。
後述する記事に明記されている通り、彼はこの楽曲でサビの作詞・作曲に参加しています。
「Stigma」の意味は「汚名」。
不特定多数の他人が特定の個人や団体に貼る悪いレッテル(評価)のことですが、前提として、貼られる側には相反する真実や本心が存在することが挙げられます。
真実や本心を差し置いても被らなければならない状況で被る汚れが「汚名」であり、これは〈BTS Universe〉の登場人物「テヒョン」や、小説『デミアン』で語られるカインの行動を彷彿とさせます。
愛を持って共に生きていくべきだと理解しているはずの親きょうだいに対し、理性を保てなくなり牙を剥いてしまったカイン、そしてテヒョン。
世界から汚名を着せられた彼らが抱える苦悩と「BTSのV」の間にある共通項とは一体何なのか。
アルバム「WINGS」で試みられたソロ楽曲における〈虚と実の融合〉について、"Stigma" ではどのような構造になっているのかを考察します。
アルバム「WINGS」の楽曲を深掘りする際に私がいつも見返しているRMのビハインドトークですが、この "Stigma" の項目になると「僕は(この曲について)多くのことを知ってはいません。テヒョンとこの曲について多くの話をしてみた訳ではないから、無闇に話せないと思います」と前置きされています。
確かに、楽曲クレジットを見るとナムさんはこの楽曲の制作には参加していません。
ですが、「とにかく(テヒョンは)こういうスタイルの楽曲をやりたいといつも言っていました」と振り返り、"Stigma" を聞いてすぐ「本人がやりたかったことをやったんだな」と思い「とても感心した」と語っています。
前述動画の配信同日、先の時間帯に出演したSBSラジオ番組「러브게임(Love Game)」にて、この "Stigma" ではそれまで以上に多くの自作歌詞やメロディが反映されたと明かしていたテテ。
これを受けてナムさんは前述のビハインドで、テテが細部にこだわりを見せていたことが伺えるものとして、歌詞中のセリフになっている部分を韓国語にするか英語にするかで何パターンも作って悩んでいた、というエピソードを挙げました。ナムさんにも相談をもちかけてきていたとのこと。
そして、こうも話しています。
「この歌詞に隠されているテヒョンだけのビハインド・ストーリーがあるのではないか」と。
そのテテだけの物語を推し量るための材料をさがしてみると、こちらの記事に出会いました。↓
2022年3月末に公開されたこの記事は、テテが制作に参加してきた歴代の楽曲たちについての総括を試みており、"잡아줘(Hold Me Tight)" から "Sweet Night" までの楽曲に対する本人による振り返りを含めた、大変興味深いものになっています。
"Stigma" のテーマについて彼は、苦しい気持ちをそのまま周りにぶつけたがる、成長途中の泣き叫ぶような青春の感情を表現したかった、という旨の回答をこの記事に残しています。
テーマにのっとり、彼は歌詞の中でひとりの登場人物「君」を設定します。
それは、「更に幼かった頃の過去の自分」であるとしてます。
더 깊이 더 깊이 상처만 깊어져
(もっと深く もっと深く 傷だけ深くなる)
되돌릴 수 없는 깨진 유리 조각 같아
(取り返しのつかない割れたガラスの欠片みたい)
더 깊이 매일이 가슴만 아파져
(もっと深く 毎日が胸だけ痛くなる)
내 죄를 대신 받던
(僕の罪を代わりに引き受けた)
연약하기만 했던 너
(か弱いだけだった君)
https://music.bugs.co.kr/track/30413064
幼い頃の痛みは大人になるために科された罰のようなものなのに、相変わらず自分は弱いまま。今の自分に代わって罪を引き受けた「君(=幼かった頃の自分)」に対して「(成長したはずの)今も傷ついていてごめんね」と声をかけている構図であることが、記事中本人の言葉で解説されています。
〈BTS Universe〉の「テヒョン」を思う時、小説『デミアン』のシンクレールを思う時、カインを思う時、それぞれにおいて拾うべきポイントがこの歌詞にはあるのですが、そのすべてを複雑に編み込んで行くキーワードが〈罪と罰〉であり、それを提供している源は他でもない「BTSのV」が楽曲で描こうとした「過去の自分への懺悔」なのではないかと思うのです。
I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry ma brother
숨겨도 감춰도 지워지지 않어 ※1
(隠しても 隠しても消えない)
"Are you calling me a sinner?" ※2
(「君は僕を罪人と呼んでいるの?」)
무슨 말이 더 있겠어 ※3
(これ以上何の言葉があるだろうね)
I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry ma sister
숨겨도 감춰도 지워지지 않어
(隠しても 隠しても消えない)
So cry
(だから泣くよ)
Please dry my eyes ※4
(どうか僕の涙を拭いて)
https://music.bugs.co.kr/track/30413064
※1
・숨기다…隠す、包み隠す、覆う
・감추다…隠す、隠匿する、秘密にする
★どちらも「隠す」の意味がある単語だが使い道が異なる。(参考)
※2 sinner…(道徳的・宗教上の)罪を犯した人(参考)
※3 〜겠어…〜だろうね、〜だと思うよ(参考)
※4 dry one's eyes…涙を拭く(参考)
〈BTS Universe〉の「テヒョン」やカインの視点で彼らが取った決定的な行動を軸にすると、刑法に則った罪を負った犯罪者(=Criminal)の方を真っ先に思い浮かべてしまいますが、歌詞で使われている単語は「Sinner」であり、「僕」は道徳的な観点での過ち(例えば犯罪の対象が血縁者であったこと等)についてより強く責められていることがわかります。
〈BTS Universe〉の「テヒョン」においては、たったひとりの姉(ma sister)や手にしていた無二の友情(ma brother)でさえもその孤独を打ち消すことはできず、彼はひたすら独りでI'm sorryと懺悔し、涙を拭いて欲しいと懇願する。
例え身内でも、ましてや他人には決してわからない感情と境遇が、偶発的に決定的な結果を生んでしまった秘匿にできない悲劇。
また、前後しますが歌詞中の別のセリフについて。
그만 울고 tell me something
(泣くのをやめて 僕に言って)
용기 없던 내게 말해봐
(勇気がなかった僕に言ってみて)
"그 때 나한테 왜 그랬어?"
(「あの時僕になぜそうしたの?」)
"미안"
(「ごめん」)
https://music.bugs.co.kr/track/30413064
ここは「幼い自分に罪を着せ罰を科したこと」について何故そうしたのか、敢えて今の自分に訊いてみるという〈自戒〉であるとも考えられると思います。つまり、過去の自分に対して自責の念を感じているということであるのではないでしょうか。
もう何の弁解の余地もなく謝るしかない、というていの「ごめん」が痛々しく、割れたガラスの欠片そのものと成り果てた、為す術を持たない心の有り様が決定づけられています。
"Stigma" で登場した「君(=幼い頃の自分)」と今を生きるテテとの関係は、のちにリリースされたソロ曲 "Inner Child" と比較する事で劇的に変化していることが明らかにわかります。
うまくいかないことを全て「自分以外の誰か」のせいにしがちな青春真っ只中の幼い自分は、更に幼い頃の自分にすら牙を剥き痛めつけようとしたけれど、幸せの見つけ方を知り自分を愛せるようになり、過去の自分にも手を差し伸べられる強さが備わった…そんなストーリーが見えてきます。
一聴して〈BTS Universe〉の「虚」の世界を隙なく歌い上げているかのような "Stigma" ですが、人間キム・テヒョンの「実」を「BTSのV」が描いていく成長物語のプロローグでもあると言えるのではないかと思います。
この記事を投稿した本日12月30日は、テテのお誕生日です。
お祝いの言葉は少し先のよき日にあらためて。
今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。
2024年もたくさんの方に記事を読んでいただき、本当にありがとうございました。
2025年もどうぞよろしくおねがいいたします!
🐍
2025.1.29追記
あらためまして、태태 생일 축하해요!👏
좋은 날이 더 많기를✨