BTS "FAKE LOVE" お前は誰だ ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.141
FAKE LOVE
君のためになら 僕は
悲しくても喜ぶフリができた
君のためになら 僕は
辛くても平気なフリができた
愛が、愛だけで成立し得ますように
僕の弱みが皆覆い隠されますように
叶うことのない夢のなかで
咲くことのない花を育てた
この偽りの愛にうんざりきている
とても残念だけどこれは偽りの愛
君だけのためにいい男になりたい
世界を与えたね 君だけのために
全てを変えたよ 君だけのために
今や僕は自分がわからない お前は誰だ?
僕らだけの森に君はいなかった
自分が来た道も忘れてしまった
僕が誰であったのかも
よくわからなくなった
鏡にまくし立ててみる
お前は一体誰なんだ?
君のためになら 僕は
悲しくても喜ぶフリができた
君のためになら 僕は
辛くても平気なフリができた
愛が、愛だけで成立し得ますように
僕の弱みが皆覆い隠されますように
叶うことのない夢のなかで
咲くことのない花を育てた
あまりにもひどく君を愛している
君のために綺麗な嘘を捏ね上げる
愛とはどうしようもなく狂おしい
僕を消し君の人形になろうと思う
あまりにもひどく君を愛している
君のために綺麗な嘘を捏ね上げる
愛とはどうしようもなく狂おしい
僕を消し君の人形になろうと思う
僕はこの偽りの愛にうんざりきている
僕はとても残念だけどこれは偽りの愛
何故君が悲しむの?僕にはわからない
笑ってみて 愛していると言ってみて
僕を見て 僕さえも捨てた僕
君のことさえ理解できない僕
知らない人だと言うね
君好みに変わった僕は
僕じゃない、と言うね
昔 君がよく知っていた僕じゃない、と
何が違うって言うんだよ
目の前が真っ白になった
何を以て愛と成す 全て偽りの愛
僕は何故だかわからない
僕も僕自身がわからない
理由はなんとなくわかる気がする
全ては偽りの愛 偽りの愛だから
あまりにもひどく君を愛している
君のために綺麗な嘘を捏ね上げる
愛とはどうしようもなく狂おしい
僕を消し君の人形になろうと思う
あまりにもひどく君を愛している
君のために綺麗な嘘を捏ね上げる
愛とはどうしようもなく狂おしい
僕を消し君の人形になろうと思う
僕はこの偽りの愛にうんざりきている
僕はとても残念だけどこれは偽りの愛
君のためになら 僕は
悲しくても喜ぶフリができた
君のためになら 僕は
辛くても平気なフリができた
愛が、愛だけで成立し得ますように
僕の弱みが皆覆い隠されますように
叶うことのない夢のなかで
咲くことのない花を育てた
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/31078328
『FAKE LOVE』
作曲・作詞:Pdogg , RM , "hitman" bang
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今回は、2018年5月リリースの正規アルバム第3集「LOVE YOURSELF |轉《てん》 'Tear'」に収録されたタイトル曲 "FAKE LOVE" の歌詞を意訳・考察していきます。楽曲はその後2018年8月にリリースされたリパッケージアルバム「LOVE YOURSELF 結 'Answer'」にも収録されました。
アルバムのタイトル曲として「(用意しておいた曲から選ぶのではなく)最初から確実なコンセプトとビジョンを持って作業を始め」、「(皆さんが)ご存じの通りタイトル曲らしく最もてこずった曲」だったとPDニムと共に制作に携わったRMが振り返っています。↓
曲頭における、悲哀の伝わる様子が具現化された流れるような動きや、曲中の目や口を意図的に隠す動きなど、"피 땀 눈물" の流れを汲む陰鬱さが強調された振り付けが印象的なこの楽曲。〈別れを迎える少年たちの心の痛み〉をテーマに掲げるアルバムの主旨に沿った正に完璧だとも言える表題曲ですが、実際この当時、彼ら自身の心身にも相当の痛みが訪れていたのだと後に判明することになります。
"FACE LOVE" 制作~活動期の彼らがどれだけギリギリの状態だったのか、その一端が広く知られることになったきっかけは、2018年末のMAMA授賞式における受賞コメントにあったと内外で認識されているようです(슈취타EP.18でゲストのVが当時の心境を語った際の編集映像でもこの授賞式が使用されている)。
"FACE LOVE" の準備期に別曲の作業を並行していたというラップラインが、ひっ迫した状況にあったメンバーを想いメンバーの為の歌詞を書こうということになって出来上がったのが "Outro : Tear" なのだと、슈취타EP.18でSUGAが言及しています。
このような状況下で発表さえも危ぶまれたという "FAKE LOVE"。
愛を確立させるために自己を偽り犠牲にするが、結局その嘘が己を滅ぼし愛を終わらせていく。救いようのないこの歌詞に託されたものとは、一体何だったのでしょう。
1.君のためになら
恋愛関係に限らず、上下関係、親子関係、友人関係…あらゆる場面において人が人に好かれようとした時、自身をより良く見せよう、相手の好みに近づけようという衝動が無意識に発動するのは人間の性だと思います。
「君のためになら」と本来の自分を偽ったり隠したりすることが悪だとは言いませんが、無理をしている自分自身に気が付いた時、その関係が良好であり続けるかどうかは言わずもがな。
"FAKE LOVE" の主人公は「君のためになら」という理由で本心に反する=偽りを実行することで愛を示してきたことを明かしています。
※1 ~길(=기를 바라다)…語尾「~길」は「動語語幹+~기를 (바라다)」が省略された形。「~しますように(~することを(願う))」と訳す。(参考)
※2 be sick of~…~にうんざりしている(参考)
文中に出てくる「完璧」という言葉は「傷のない玉」を語源とし「欠点がひとつも無い」様を表す言葉です。愛が愛だけで完璧に成立することが理想ではあるものの、虚偽を混ぜずにはいられない現実、欠点を隠蔽せずにはいられない現状を嘆いている「僕」。
そこにあるのは「偽りの愛」であり、対極にある「完璧な愛」など実践できないとわかっていながらもそれを育て続けています。
曲頭からかなり重たい展開です。
経緯を省いたシンプルな展開は表題曲であるが故の必然的な表現かと思いますが、この物語を補ってくれる楽曲が存在します。
2017年9月に発表されたミニ・アルバム第5集「LOVE YOURSELF 承 'Her'」収録の "Outro : Her" (後のリパッケージアルバムには "Her" として収録)です。
"Her" の物語は、以下のような言葉で始まります。
「愛を求めていた」が故に「本当の愛かどうかは構いもしなかった」。
愛してくれるなら誰でもいいから愛して欲しいと吐き散らした先で、主人公がその愛の虚構性に気付いた場面が "FAKE LOVE" であると言えるのではないかと思います。
2.お前は誰だ?
ひたすらに愛を求める主人公は「君だけのために」と献身的な行動を重ねます。
君が喜ぶならと好みの男になりたいと望み、君だけのために世界を創造し全てを作り変えます。君だけのために。
その果てに気が付きます。
相手に尽くすことを優先し続けたせいで変わり切ってしまった自分のことが、自分でも理解できなくなっていることに。
※3
・~에다(가)…~に(参考)
・지껄이다…喋りまくる、喋り散らす(ただ話しかけるのではなく、話す事自体を卑下するイメージ)(参考)
「거울에다 지껄여봐(鏡に喋り散らす)」の部分には、j-hopeとJung Kookが向かい合い鋭く指をさし合う振りが入っています。
鏡に映る自分自身に向かって「一体お前は誰だ?」と厳しく自問自答する様子が視覚的に的確に表現されています。
一方、"Her" の歌詞には以下のような "FAKE LOVE" との共通項がありました。
君のことだけを思って作った世界は「僕」にとっては「君」の存在そのもの。
その「君」は「僕」に死なば諸共とまで言ってくれる。
「僕」はそんなふうに思ってくれる「君」にとって「最高の男」でありたいと望み、悲しくても喜び、辛くても強い振りをし、弱みを隠そうとするが故に元来の自分自身を完全に見失ってしまっている。
ただただ愛をつなぎ留めておくために、君だけのために、己の存在を消して傀儡と化すことすらも受け入れようとします。
※4 so bad…あまりにも酷く、~したくて仕方がない(参考)
※5 빚어내다=빚다(捏ねてつくる)+내다(出す)なので、ただ「嘘をつく」というよりも、入念な準備をして一からつくり上げて表に出す、捏造して提供する、といったニュアンスが含まれていると考えられます。
きれいな嘘。
それは、相手を幸せにするという大義名分の元に捏造し続けた、自分以外の誰のことも不幸にさせない嘘。
自分で自分を見放し「君」を喜ばせる人形になることを決意する「僕」。
しかしその先に待ち受けていたのは、肝心の「君」とのすれ違いと自我の喪失でした。
僕らだけの森に君はいなかった
自分が来た道も忘れてしまった
僕が誰であったのかもよくわからなくなった
「君」と「僕」だけ=우리만が足を踏み入れることができる世界だったのに、気付けばそこにいたのは自分だけだった。
どうやってここまでたどり着いたのか、その経緯も忘れてしまった。
あまつさえ、自分自身が誰であるのかもよくわからなくなった。
「僕」は鏡の中の自分自身と言い合います。
一体、お前は誰なんだ?と。
3.何が違うんだよ
森から姿を消した「君」の気持ちを理解できない「僕」は、そのやりきれなさを必死に伝えようとします。
こんなにも愛しているのに、何故悲しむのか?その理由を「君」に問いますが、「僕」は自分自身に何の光も残っていないことにも気づいています。
「君」の好みに適うように全てを変え、自我をも捨てた人形となることも厭わなかった主人公に対して、あろうことか「君」本人の口から衝撃的なセリフが浴びせられます。
「今のあなたは私の知らない人。私が良く知っていたあなたじゃない」
※6 낯설다…面識がない、馴染みの無い(参考)
※7 아니긴 뭐가 아냐…違うって何が違うんだ(参考)
※8 눈(이) 멀다…目がくらむ、見えなくなる(参考)
「君」だけのために、「君」の好み通りに捏ね上げた偽りの姿に向かって放たれたのは、その全てを否定するものでした。
とうとう「僕」の心は限界に達し、「君」への疑念が堰を切って溢れ出します。
違うって、何が違うんだよ。
僕は君が求める通りにしただけなのに。
この時主人公は気付くのです。「君」の愛もまた偽りであったのだと。
※8 I just know…なんとなくわかる気がする(参考)
何故自分たちがすれ違ってしまったのか、何故関係が上手くいかなかったのか、「僕」はその理由になんとなく気付き始めています。
あれだけ慕っていた「君」の全ても、花咲かせようと努力してきた自分自身でさえも、全てがFAKEであったとわかったからです。
4.彼女との複雑な関係
先ほども少し触れましたが、"FAKE LOVE" は "Her" のスピンオフであるとも言え、その物語の全体を見渡すには "Her" の歌詞を一読することが必須であると言っても過言ではありません。
中でも "Her" のユンギパートには、主人公が具体的にどのような自己改造を自分自身に強いて、何を得て何を失っているのかが生々しく刻まれています。
上記箇所で登場している「あなた」の部分ですが、原文では「당신(=不特定多数の人)」が用いられています。
この「不特定多数のあなた」に「ARMY」を代入してみると、歌詞の解像度が一気に上がります。
ARMYが愛する自分になるために、
ARMYが愛するアイツ(=表に立つ偽りの自分)になるために
好きだったこともやめた。
嫌いな服を着て厚化粧をしてまで活動するのは、
ARMYが笑顔になってくれるから。
自分の幸せの基準はそこにある。
こんな偽った自分が、
ARMYの愛を受け取る資格があるのだろうか。
いつ何時もARMYの最高になるために努力するよ。
そんな姿なんか、知らなければいい。
たった一人の人を相手に意思の疎通や共感を得ようとすることでさえ本当に難しいというのに、不特定多数の人間に対して「愛されるための努力」を無限にし続けなければならない。
自我を手離し人形と化さなければ耐えきれない程の仕打ちに対し、それを屈辱と呼ばず幸せだと言ってのける。
全ては自分を愛してくれる「不特定多数のあなた」のためであることは明白ですが、とはいえその相手を「ARMY」とひとくくりにはできないのが現実です。
自分の思い通りの容姿でいてくれない。
自分の希望通りのコンセプトで活動してくれない。
そんな個人的・自己中心的な理由でファンダムの名を勝手に語り抗議運動を起こす人は後を絶ちません。
ARMYのためにと思ってした努力をARMYを語る者によって否定されるのです。
(何が違うっていうんだよ、と言いたくもなると思います。)
表現に対する否定や拒絶をする自由や権利は誰もが持っているものなので、それを個人的に表に出すこと自体には何の疑問もありませんが、敢えてARMYという鎧を着て1段高い場所から彼らの元に届くように物申す手段には私は共感できません。だって、生身の彼らはその否定を否定し返すことが絶対にできないんです。
例えそこにあるのがFAKE LOVEであることがわかっていても。
☆
複雑化していくARMYとの関係を良好に保とうとする一方で、自分自身を偽り、自我を手放さざるを得なくなってしまった彼らが、如何にして自己愛=Love Myselfを実現させようと動いていくのか。
そういった観点で "FAKE LOVE" 以降の楽曲や発言を追うのもひとつの醍醐味かと思います。
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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