BTS "호르몬 전쟁(War Of Hormone)" 誰が為か、誰の所為か ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.130
호르몬전쟁 (War Of Hormone)
存在してくれてホントにありがとう
ちょっと 電話してくれよ
おごるから一緒にメシ食おうぜ
あぁ最近おかしくなったみたい
咳払いが止まらない
彼女たちの服装 みーんなスケスケ
(ベリーマッチ)サンキュー!
俺の視力を上げてくれて
(ナチュラルレーシック)
カネをかける必要がない
取り乱しちゃうよ ファンになるよ
君のものになるよ 君の
どうしたって目が行っちゃうね
彼女たちのウエストに
女は方程式 俺たち男は解
汗はダラダラ やたらにフラフラ
もっとたくさん履いてくれハイヒール
俺も18 そのくらい全部わかってる
女が世界で一番ってことさ
そう俺はならず者だから悪い子が好き
こっち来てみなよ ねえ
俺たち 上手くいくよ
Hello Hello What!
Hello Hello What!
何したいのか今すぐ教えて
Hello Hello What!
Hello Hello What!
君にあげるよ ねえ今すぐ
俺のものではないけど 君は最高
君の前でヨレヨレに捩れる俺の躰
君に近づきたいけれど
あまりにも美しすぎる
女は最高の贈り物だよ
俺の本当の望みは君だけだ
俺は君ならいいよ
あぁ 自制が効かない毎日
前から見ても最高 後ろ姿も最高
頭からつま先まで最高 最高
La la la la la la la
前から見ても最高 後ろ姿も最高
La la la la la la la
頭からつま先まで最高 最高
La la la la la la la
前から見ても最高 後ろ姿も最高
La la la la la la la
歩き方ひとつまで 最高 最高
あり得ないね
1、2回ずつ遊んで別れる女たちには関心がないよ
それはそうと
君を見ながら学ぶ 身体建築学概論
ずっしり増加する俺のテストステロン
ホルモンとの闘いを
勝ち抜いてから精進しろ
君という存在は反則だよ ファウルだ
美的基準が海なら 君は深海そのもの
国家レベルで管理すべき 美形文化財
彼女の髪、躰、腰、脚
口に出せない範囲まで
関心ないというのが男としては呆れ返る
小さな仕草ひとつにも 惚れ惚れするよ
君の誘惑で夜毎に死守するPCの在り処
彼女の為のレディ・ファースト
女は冷たい氷山だって?それでいいんだ
俺を狂わせる女という生き物
俺を刺激するよ 毎日
今日も今日とて
ホルモンとの闘いの後ニキビを潰す
Hello Hello What!
Hello Hello What!
何したいのか今すぐ教えて
Hello Hello What!
Hello Hello What!
君にあげるよ ねえ今すぐ
俺のものではないけど 君は最高
君の前でヨレヨレに捩れる俺の躰
君に近づきたいけれど
あまりにも美しすぎる
女は最高の贈り物だよ
俺の本当の望みは君だけだ
俺は君ならいいよ
あぁ 自制が効かない毎日
前から見ても最高 後ろ姿も最高
頭からつま先まで最高 最高
(誰のせい?)女のせい
(誰のせい?)ホルモンのせい
(誰のせい?)男だから
(男だから?)女のせい
(誰のせい?)女のせい
(誰のせい?)ホルモンのせい
(誰のせい?)男だから
(男だから?)女のせい
女は最高の贈り物だよ
俺の本当の望みは君だけだ
俺は君ならいいよ
あぁ 自制が効かない毎日
前から見ても最高 後ろ姿も最高
頭からつま先まで最高 最高
La la la la la la la
前から見ても最高 後ろ姿も最高
La la la la la la la
頭からつま先まで最高 最高
La la la la la la la
前から見ても最高 後ろ姿も最高
La la la la la la la
歩き方ひとつまで 最高 最高
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/3637686
『호르몬 전쟁 (War Of Hormone)』
作曲・作詞:Pdogg, Supreme Boi, Rap Monster, SUGA, j-hope
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今回は2014年8月に発表されたBTS/防弾少年団の正規アルバム第1集「DARK&WILD」に収録されている "호르몬 전쟁 (War Of Hormone)" を意訳・考察していきます。
この楽曲は "ホルモン戦争" として日本語バージョンもリリースされています。
彼らの活動履歴の全貌を俯瞰する際には、ある地点に刺さる楔を無視することはできません。
2016年5月にARMYを自称する一般人が公論化した、歌詞やSNS上の発言内容に対する「女性嫌悪(ミソジニー)問題」。同年7月に公式謝罪が行われたことで、その後の彼らの表現活動はこの問題をクリアできるものに移行します。2017年のインタビューでRMは、歌詞を書く際は女性学の教授など客観的に見ることが出来る専門家の検収を受けることもある、との旨の発言をしています。
当時、歌詞の一部が女性嫌悪だと指摘された楽曲のうちのひとつがこの "호르몬 전쟁 (War Of Hormone)" になります。
もし、この時点で該当箇所がどの部分なのかまだご存じでいらっしゃらない方は一体どこが問題なのかを考えながら、また、既に経緯を把握されている方もあらためて、世論ではなく自分自身の感覚に向き合ってこの記事を読み進めていただくのも良いのではないかと思います。
1.女性のための女性賛歌
女性に対する賛歌を作ろう。
それがこの "호르몬 전쟁" 制作のきっかけであったと、SUGAはアルバムレビューの中で語っています。
男の本心のようなものを上手く表現したかった。密かな言葉遊びというか、さりげない言葉選びが面白い楽曲だ、とも話しています。
そんな経緯を持った楽曲が、他でもない女性側から嫌悪表現だとの指摘を受けてしまったのでした。
一体なぜ。
まずは前半の歌詞を詳しく見てみたいと思います。
※1 함밥…함께 먹는 밥=(誰かと)一緒に食べるご飯
★ちなみに혼밥…혼자 먹는 밥=ひとりで食べるご飯
※2
・~게 만들다…~のようにさせる(参考)
・비침…비치다(透き通る)の名詞形(参考)
※3 돌아가다…帰る、戻る(参考)
※4
・삘삘…뻘뻘(タラタラ、ダラダラ)の方言(参考)
・괜히…わけもなく、やたらに、無性に(参考)
・빌빌대다…ふらふらする(参考)
※5 알어…本来알다を活用すると알아となるが、話し言葉では알어になることが多い(参考)
★알 건 다 안다=わかるものは全部わかる→そのくらいわかってる(参考)
※6 말이여…~말이야(~なんだよ、~ってことだよ)(参考)
★여は語尾야の方言(参考)
※7 일루 와=이리로 와の略語「일로 와」の口語表現(参考)
★이리로は이리を強調した語。
※8 내 꺼…私のもの(参考)
※9 배배 꼬이다…何回もねじれる・よじれる(参考)
※10 뒤태…後ろ姿(参考)
★これに対して앞태は앞=前なので「前の姿」となる。
章の冒頭で書きましたがこの楽曲のテーマは「女性に対する賛歌」であり、また、その本筋を男性である彼らが「本心」でもって打ち明ける、要するに「普段はカッコつけてるけど、俺ら君たちに対して実はこんなこと考えてるよ」というぶっちゃけ話の要素があるのではないかと思います。
二十歳前後の男の子たちが身も心も相応の成長を遂げ、少し前までは気恥ずかしくて言えなかった気持ちを表すぴったりの言葉を何とか見つけた、そういう楽曲とも言えるかもしれません。
また「一度賛歌を作ってみよう」というきっかけからして、普段は面と向かって表現できない気持ちを母の日だから明け透けに伝えてみよう、というノリにも似ているのかもしれない、とも思います。
そして、後半ではさらに男の本音がさらけ出されていきます。
2.男の子の本音劇場
タイトルにある「ホルモン」が(焼肉ではなく)ヒトの体内で働く情報伝達物質の方であることが明確になっていきます。
具体的にその名が登場するのは雄性ホルモンのひとつ「テストステロン」で、第二次性徴の現れに大きく関わる物質です。
※11 어림 반 푼 어치도 없다…突拍子もない、再考の余地もない(参考)
어림(概算)+반 푼(半分)+어치(~の価値)+도(も)+없다(ない)
※12 심해…심하다(甚だしい)と심해(深海)のダブルミーニング?
歌詞で歌われているのは「自分のものではないけど最高」な女性であることが前提で、その女性たちを見て身体のつくりを学んではテストステロンを増やす、というくだりからしても、目にしているのは日本で言うグラビア本か、同系統のインターネットサイトであると思ってよいのではと思います。
それを確信させるのは次の部分です。
※13 어이=어처구니(石臼の持ち手)
「有るべきものがなくて途方に暮れる」を意味する「어처구니없다」or「어이(가) 없다」の意味が転じて「呆れる」の意となった(参考)
※14 뻑이 가다…メロメロだ、惚れる(参考)
★뻑=「반하다(惚れる)」あるいは「何かに没頭する」を意味する俗語。主に가다(行く)と組み合わせて使用。(参考)
※15 「차가운 빙산(冷たい氷山)」、「let it go」
共に当時2014年1月には韓国でも公開され、世界中で大ヒットしていた某作のオマージュと思われる。ちなみに韓国版 "Let It Go" のサビの歌詞は「Let It Go」のままである。
★「let it go」は「(他者の動きに対して)何もしない、やり過ごす」の意。
※16 ~게 하다…~させる、~ようにする(参考)
「君の誘惑で夜ごと守るパソコンの場所」とはつまり、毎晩ひとりでこっそりとネットサーフィンを愉しむため、その様子を誰にも見られないよう最適な居場所を死守する、ということでしょう。故にその場所は画面の中の「彼女」のために特別に用意した「レディ・ファースト」な席になるのです。
思春期の象徴「ニキビ」を用いて「ニキビを潰す」という行為で締めくくられている部分は、
・これらは性徴発現の過程にある男性の胸の内であること
・妄想を膨らませた後、最後は必ず現実に戻るということ
を表しているのではないかと思います。
妄想と現実の間で心と身体を自制しようと身悶える「ホルモンとの闘い」。
当時の彼ら自身の生身の年齢を考えれば至極自然なテーマ設定とも言えますし、アイドルという枠の中で考えれば思い切ったねとも言えますし、女性に向けた賛歌ではあるものの、むしろ同性同年代の方々がどんなふうに感じるのかとても興味のある内容でもあります。
3.「贈り物」が誉め言葉にならなかった理由を考える
この楽曲歌詞の内、記事冒頭の公論化アカウントで女性嫌悪だと具体的に指摘された部分は「여자는 최고의 선물이야(女は最高の贈り物だ)」です。
楽曲テーマが男性目線の「女性賛歌」である以上、この歌詞には区別された性の違いがはっきりと存在する訳ですが、それがただの違いではなく
男性が男性という名の客席に座ったまま、
女性を女性という名の舞台に立たせている。
という構図が見て取れるのではないかと思います。
女性賛歌をテーマにしながらも等身大の男性を主語にしたことで、やや個人的な性癖の話が主題のように聞こえてしまうきらいがあるのはそのせいなのではないかと思います。
これがより多くの女性の存在に対する賛歌になっていれば事なきを得たかもしれませんが、残念ながら「俺」が性欲を満たす過程で出会った女性たちしかこの歌詞には登場しません。
嫌悪の源はそこにあるのだと私は思います。
主語と、伝えようとしたことの間に大きさの偏りがあったのではないでしょうか。
とはいえ彼らが女性を称えたい!という思いをこの楽曲にのせようとしたことは事実ですし、女性を贈り物だと形容するに至ったのは、単にそう言いたかっただけというよりは歌詞としてのハマり方、語呂や耳に残る感覚などに対する判断も加味されてはいると思います。
一方、贈り物をもらって嬉しくない人は絶対いないはず、それが最高のものなら尚更なはず、という先入観が、若干短絡的とも感じる比喩表現に繋がってしまったとも言えると思います。
「君は最高の贈り物だ」という言葉を女性への最高の贈り物にしたかった "호르몬 전쟁" の歌詞でしたが、贈り物をすれば相手が絶対に喜ぶはず、という気持ちを押し付けてしまっていたのかもしれません。
万人の方に受け入れられる芸術表現などこの世に存在しないと理解し割り切ることも必要だと思いつつ、なぜ受け入れられない人がいるのか、その理由を考えることを止めてはならない、そうも思います。
最後に、女性嫌悪問題を公論化したアカウントを立ち上げた女性二人が2016年当時、公式謝罪が出る前のタイミングで受けたインタビューの記事を紹介します。↓
記事によると二人が問題の公論化に踏み切ったきっかけは、2016年5月17日に起きた江南トイレ殺人事件であったといいます。事件の5日後となる5月22日にはSNSへの投稿を開始しています。
この事件は無差別殺人であり、女性に対する憎悪を持つ男性が面識のない女性を襲ったことが明らかになると、女性嫌悪を社会問題とする運動が強まりを見せ、現場で衝突が起こる程の険悪な状況に陥ったとのこと。
二人は事件以前からバンタンの歌詞や発言に問題を感じてはいたとのことですが、国内の機運が高まった事を受け、その流れに乗っての公論化であったと見ることも可能だと思います。
使命感を持って行動に移した二人の「なぜ他の人は自分たちのように思わないのか。明らかに相手が間違っているのに」というジレンマは痛いほど良くわかります。私も同じ思考で牙を剥くことがままあります。
しかし、このインタビューを読んでみて違和感を感じた部分があります。
「ものすごく大きなフィードバックは要らない。間違いを認め、今後はしないと言ってくれる程度で良い」という旨の発言です。
明確な定義や法がある訳でもなく、読み手によって意味も解釈も変わり得る歌詞という分野の文章に対して、既存の歌詞が誤っていると決めつけており、また、音楽を生業とする者に致命傷を与えかねない過ちの烙印を押しつけておきながら、そこまで酷く懲らしめようとしているつもりではない、と保身に入っている。
自分たちはファンという名の客席に居座りながら、
彼らをアイドル/アーティストという舞台に一方的に立たせている。
されて嫌だった事をやり返していることに気づいていないのではないかと思うのです。
しかしながら、彼女たちの決死の訴えがあったことにより分岐した道を歩き始めたバンタンは、未開の地を開拓し、誰も到達できないところまで辿り着き、今なお先へと進み続けています。
この一件があったからこそ事務所として、グループとして結果的に良い方向に向かったのだと感心する反面、彼ら自身の生まれ持った性別に起因する視点や年相応の感情を歌詞表現において封印せざるを得なかったことが彼らの人生に落とした影は、相当に色濃いものであったと思います。
そしてこの時、打てば響くという前例を作ってしまったが故に、ファンダムの名のもとに事ある毎に謝罪を求める運動がエスカレートしているのではないかという印象を私は持っています。
自分がされたくない事を敢えてする事で相手を懲らしめようとする行為には、全く共感できません。
要求するその謝罪は本当に相手の為になるのか。
その問題が起こったのは本当に相手だけのせいなのか。
考え続ける力を持ちたい。そう強く思います。
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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