腰痛と肩の脱臼痕・指の骨折痕

 2カ月ほど前に、初めてのお客さん(Pさん)が来られました。主訴は腰痛です。数年前から自覚していた痛みがここ最近ひどくなった、ストレッチでしのげなくなってきた、とのことでした。
 ケガ歴をお聞きすると、腰痛が始まる10年ほど前に腹腔鏡を使った小規模な手術をされています。その2年後には、ふくらはぎの肉離れ。あとは、若い頃にした盲腸の手術と手の親指の骨折が主なケガです。

 腰痛発症に時期的にいちばん近い〈ケガ〉はふくらはぎの肉離れですが、これはそれほど深刻ではなさそうな印象です。次に時期が近い手術も、腹腔鏡で上手にされた手術であればあまり大きな癒着にならないことが多いので、腰痛の根本原因ではないかもです。とすると、肉離れ・手術以前からもともと弱っていたところに、2つがダメ押しのダメージを与えた、と考えるほうが良さそうです。
 そうなると親指の骨折痕が候補になりますが、指の骨折にまつわる腰痛、というのも、Pさんについてはどうも印象が合わない。となると、これはやっぱりお聞きしていない、何かしら別のケガもされてるのかもなあ……心の準備をしつつ、施術にかかりました。

 初回は小手調べ的に軽く施術。2回目は2週間後に来院いただいて、本格的に探りにかかりました。すると、肩が怪しい。……なんだかとても怪しい。
 「肩にケガされたことはないですか?」お訊きすると、「あ、子どものときよく外れていました」とPさん。それか。
 この仕事をしていると、わりとちょいちょいこの会話をすることがあって、〈肩が外れる=脱臼〉という認識はあまり一般的でないのかなあと毎度不思議に思います。肩関節は子どもの頃に〈外れる〉ことが多いので、痛覚がまだそれほど育っていなくて、〈脱臼〉という言葉の衝撃ほど痛くないから本人的には深刻な記憶にならない、ということかと想像します。でも整体屋になってから知ったことですが、実はかなり深刻なんだけどな、肩の脱臼。施術するのも難しいし。

 話を戻すと、Pさんに脱臼の心当たりがあってくれて助かりました。脱臼してるならあそことここもチェックして、と、そんなこんなで2回目の施術を終えました。で、3回目は1カ月後。腰は、いまは軽い鈍痛がある程度でほとんど気にならないとのことでした。じゃあもう今日で終われそうですね。で、前回の続きで施術のし残しを片付けて、問題なければ〈卒業〉としました。

 3回目のときですが、肩の脱臼痕が整うと、俄然目立ってきたのが手首のごちゃごちゃした感じでした。手の骨は、指の部分に骨があって、手のひらのところにはその指の延長みたいな骨が納まっていて、そして手首の部分には小さい骨が4列2段にこちゃっと密集して納まっています。

 少しナマナマしい話ですが、骨を折るためには少なくとも骨の一部分が固定されている必要があります。一方が固定されてそこに衝撃が加わるから、折れる。固定されていなければ弾き飛ばされはするでしょうけど折れないはずです。

 骨折の痕に施術する場合、折れた部分の作業は意外に簡単に済むことが多い。もともと骨は〈修理〉の巧い組織で、ふだんから壊したり作ったりをし続けている、いわば土木工事の専門家です。だから大抵、ホントに手間が掛かるのは、周囲の皮膚や筋肉で、そして忘れがちだけれど重要なのが手首の骨のような、こちゃっと密集した骨群です。
 骨群は、直接衝撃を受けたのではないから折れてません。でもその先の骨が折れるだけの衝撃を根元で支えていたわけですから、なんか普通でない、変に踏み固められて、変な固まりみたいになっていることが多いのです。もちろんこれには筋肉も巻き込まれています。
 そして私は、これをほどくのが地味に愉しくて好きなのです。お、と見つけるや否や、よーっし、おばちゃんがほどいたるで!みたいな変なスイッチが入る自覚があります。3回目の施術のときがちょうどその状態で、やたらにオモロイ施術でした。

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