🎥 Rocky Ⅳ: Rocky vs. Drago

★★★☆☆

これまで観てきた、そしてこれからも繰り返し観るであろう回数なら、５つ星をつけた生涯ベスト級並みか、むしろ上回るかもしれない。Rocky Ⅳ は、僕にとってそういう映画だ。ひとつの映画作品としてどうこうと言うより、ちょっとどうかと思う完成度のものも含めて、Rocky とその周縁の人々の物語が、愛おしくて堪らない。だから、これは見逃すわけに行かないと劇場へ足を運んだ。映画館での鑑賞は About Time（２０１４年）以来。ずいぶんと足が遠のいていたものだ。

地元での公開は全国主要都市よりも遅めで、しかも僕自身の我慢が足りなかったために、いろんな話が耳に入っていた。事前情報の中には、期待値を高めるものも、疑問符が浮かぶものもあった。ワクワクとハラハラが入り混じった心持ちで、上映を迎えた。

オリジナルの公開時から不評とされているロボットのシーンは、完全にカットされている。そのことを好意的に捉えている向きは多いようだ。僕は残念でならない。ロボットを含め、Ⅳにおけるバルボア一家の成金ぶりへのツッコミは、だいぶ激しい。苦言を呈したくなる気持ちは、わからないでもない。でもね、あれは彼らが純朴な人々であるが故だと僕は思う。清貧を貫くような高邁な思想などなく、ただ素直に富を享受しただけ。

とかく嘲笑の的にされがちな Adrian の出で立ちは、第一作で描かれた彼女の脱皮の延長線上にあるだけのもの。恥ずかしい感じが否めないとしても、それが８０年代だったのだから仕方がない。誰もがあんな感じだったのに、なんでわざわざ Adrian を捕まえて論うのか。とても悲しい気持ちになる。

外見的には成金丸出しでも、彼らの純朴さは失われていない。そのことに僕は安心し、だからこそ彼らの栄華を祝福することもできた。ロボットだってそうだ。オリジナル製作当時は、空前のハイテク＆ロボットブームで、「生活の中の未来テクノロジー」が、夢ではなくなるような期待感があった。Short Circuit、RoboCop、The Terminator なんかが世に出たのもこの頃だし、あらゆるジャンルの娯楽作品でロボットが描かれていた。そんな時代背景を思えば、Rocky が大切な Paulie の誕生日にロボットを贈るなんて、純朴な Bolboa 一家ならではの微笑ましいエピソード以外の何物でもない。

ロボットの場面が無くなったために、Paulie のキャラクター描写も吹き飛んでしまった。「他の作品観ればわかるでしょ」とでも言わんばかりの割愛っぷりだが、Ⅳ の作品内にもきちんと納めておく必要があったはずだ。

I know sometimes I act stupid and I say stupid things, but you kept me around and other people would have said “drop that bum”. You give me respect. You know it’s kinda hard for me to say these kinda things, cuz it ain’t my way, but if I could just unzip myself and step out and be someone else, I’d wanna be you. You’re all heart, Rock.

自分がくだらねぇことやったり言ったりしちまうような輩だってことは百も承知だけどよ、お前はずっと俺をそばに置いてくれた。どういつもこいつも「あんなチンピラほっとけ」て言いやがるってのに。お前を俺を敬ってくれる。こういうこと口にするのは苦手なんだけどよ、俺の流儀じゃねぇからよ、でもな、もし俺がチャック開いて別人に脱皮できるとしたらよ、お前になりてぇ。お前の心根が心底羨ましいよ、ロック。

筆者訳（好きすぎて全文抜粋）

僕はこんなこと言える Paulie が心底羨ましいんだが、このセリフの味わいと説得力が、今回のディレクターズ・カットでは信じらないほど薄らいでしまっている。唐突に過ぎる印象になっている。

冒頭の前作プレイバック・シークエンスにも、一言申し上げたい。オリジナルの方が断然良い。他に誰もいないジムで激突する Rocky と Apolo。あれは間違いなく、二人にとって「最高の逢瀬」だった。今回も絶対必要だったはずだ。二人のブロマンス、そしてAdrian との三角関係が、より強調された編集になっているからだ。

〈Rockyシリーズのブロマンスについては ↓ に書いてます〉

Apolo が Rocky 宅を訪れ、自分が Drago と対戦すると持ち掛ける。強い言葉で反対した Adrian は、気まずくなって席を外す。この後、Rocky – Adrian 夫婦のキッチンでの会話が挿入されている。これは新編集の中でも白眉だった。ただお互いを労っているようにも、三角関係が暗黙の了解になっているようにも見える。やばい領域に踏み込むようで踏み込まない、はぐらかすような微妙な脚本と演出に、E7席（劇場のほぼ中央）で思わず身悶えしてしまった。

Apolo の葬儀のシーンも然りで、スタローン先生は意図的にブロマンス性と三角関係を表に出してきたと踏んでいる。やってくれたなと、心の中で喝采を送った。別に茶化してるわけじゃなくて、それらが描かれていたが故に、Ⅲ〜Ⅳ は — ちょっと出来の良くない映画なりに — 美しさと切なさを湛えているのだと、本気で思っている。

あちらこちらから聞こえてくる、Drago の心理描写がより鮮明になったという指摘は、確かにその通りだけれど、オリジナルでは不充分だったとは言えないと思う。桁外れの頑張り屋さんで、自分を押し殺して生きざるを得ない悲しいキャラクターであることは、オリジナルでも存分に伝わってきた。Creed Ⅱ という物語が成立し得たのも、Drago がもともと持っていた人間的な厚みのおかげであったはずだ。ただの操り人形なんかじゃなかった。

Rocky が Drago に歩み寄り、健闘を称えてからリングを降りるというシーンが追加されている。どんな言葉を交わしているのかは聴こえない。第一作での Rocky と Mickey の仲直りを彷彿とさせ、Creed Ⅱ への布石でもあるようで、ほんの数秒ながらも深く胸に染みる場面だった。

今回最大の変更点のひとつである、ソ連首脳陣の試合後の態度も、Creed Ⅱ との物語的連続性を踏まえたものかもしれない。変更によって、国家権力と一個人があまりに強固に結びつく、その悲劇性を浮き彫りにもしている。その意味では、極めて今日的でもあるテーマを忍ばせた編集と言えるかもしれない。でも考えてみれば、スタローン先生は Rocky Ⅳ 以前からそれをテーマの一つにしていたのよね。Drago が Rambo に見えた。オリジナルは、冷戦が（概ねソ連が西側に歩み寄る形で）終焉に向かうムードに酔っているようなところがあった。

とまあ、諸々の変更とそれらに対する印象があったわけだが、僕は両方劇場で観れて良かったと思う。Rocky シリーズと、時にやらかしてしまうことも含め最高の映画人 Sylvester Stallone が、どれだけ自分にとって特別であるか、あらためて思い知った。ただ、どちらを正典とするか問い詰められたなら…、うぅぅ…、（キッチントーク＆健闘讃えシーンを心に焼き付けつつ）…オリジナル！

最後に、これはあまり言う人がいないから口を酸っぱくしてでも主張しておきたい。Carl Weathers（Apolo Creed）て本当に稀有な素晴らしい役者！

---

★★★★★・・・出会えたことに心底感謝の生涯ベスト級
★★★★☆・・・見逃さなく良かった心に残る逸品
★★★☆☆・・・手放しには褒めれないが代え難い魅力あり
★★☆☆☆・・・見直したら良いとこも見つかるかもしれない
★☆☆☆☆・・・なぜ作った？
☆☆☆☆☆・・・後悔しかない