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許認可取得と向き合うプロダクト開発

この記事はpmconf主催の プロダクトマネージャー Advent Calendar 2023 3日目の記事です。2日目は『「技術者に選定してもらえるプロダクト」を目指す過程での、一周目 PdM の 3 つのしくじりと教訓』(@lmt_swallowさん)でした。

エンペイでenpayウォレット事業責任者・プロダクトマネージャー(以下PM)を担当している@nozo_omuです。地元・柏レイソルのJ1残留が確定し、ホッとしている今日この頃です。
さっそく本題です。PMとして活躍される方々と先日話したときに、許認可についての話題で盛り上がったので、今回は「許認可取得と向き合うプロダクト開発」として、自らの例を紹介したいと思います。なお、僕が担当しているenpayウォレットとはそもそも何かについては、以下の記事をご覧ください。



許認可とは?

この記事の中では、許認可=特定の事業を行う際に行政機関から取得しなければならない許可等のこと、とします。先月他社で活躍中のPMの方々と盛り上がったときは「業(ギョウ)」と呼んでいたのですが、ゴウやワザとも読めてしまい意味が変わってくるので、この記事では許認可という言葉を使っています。具体的には、Fintech領域だと銀行業を営むには免許が必要で、銀行代理業は許可、資金移動業は登録が必要です。他にも「届出」などがありますが、挙げるとキリがないので、興味のある方は以下から金融庁のサイトをご確認ください。


許認可が必要な場合の注意点

免許・許可・登録などは、難易度の違いはあれど、いずれも行政機関とのコミュニケーションが必須である点が共通しています。必要な書類の提出や、財務条件を満たすこと(純資産x億円以上など)、質問への回答等を経て許認可を受けることになりますが、事業者目線だと、許認可を得られるまでどのくらいの時間が必要なのか読めない、そもそも取得できるかもわからないなど、自らがコントロールできない範囲が多いことが、最もしんどいことと言えるのではないでしょうか?他社の事例など参考になる情報もあるので「全く読めない」とまでは言わないのですが、特にスタートアップが新しいことにチャレンジする場合は、そもそも参考にできる他社が存在しないケースもあるかと思います。


許認可の取得にチャレンジする前に

PMの方々との会話でも挙がったのですが、誰もが「許認可を取得することなく、やりたいことを実現する道はないのだろうか」とまず考えるかと思います。個人的には考えること自体がとても重要だと思っており、考える過程で「自分たちは何を提供したいのか、何を許容できて何は譲れないのか」といった、プロダクトのコアとなる部分を再確認するきっかけにもなると思っています。MVP(Minimum Viable Product)を定めるうえでも役に立つ議論になることも多いです。考えた結果、許認可不要と判断できればよりスピード感を持った開発ができると思いますし、少しでも「これは許認可が必要だな」と感じる部分があれば、危ない橋は渡らずに、必要に応じて行政機関に照会をかけるなどの対応もしながら進めることが大事だと考えています。


自身の事例

ここからは僕自身の話になりますが、enpayウォレットのリリースでは以下の状況でした。

  • 経営陣との間でBtoC事業にチャレンジすることへの合意は取れていて、どのようなプロダクトを提供するかは完全に任されていた

  • イメージするBtoCの決済事業をやるには第三者型前払式支払手段発行者としての登録が必要と判断した

    • エンペイ社として許認可の取得を目指すのは初めて

    • とはいえそこまで複雑ではなく比較的オーソドックスなスキームなので許認可の取得はスムーズに行くと考え、取得に動く判断した

    • なぜ他の許認可ではなく第三者型前払式支払手段を選んだのかについて気になる方は、別途話しましょう!

  • 行政機関や顧問弁護士とのコミュニケーションは自ら担当した

    • いまはリーガル担当者がjoinしているので、コミュニケーション含め頼りまくっています

第三者型前払式支払手段発行者として運営する、enpayウォレット

行政機関とのコミュニケーション

僕自身が行政機関とのコミュニケーションを取るうえで気をつけたことなどを挙げていきます。

開発着手よりも先に、業界団体や行政機関とのコミュニケーションを始める

最も避けたい事態は「開発着手したものの、プロダクトやスキームが認められずにお蔵入りになる」ことでした。前述の通り、そこまで複雑ではなく比較的オーソドックスなスキームなので、許認可の取得はスムーズに行くと考えたものの、これはあくまで僕や顧問弁護士の見解であり主観的な側面もあったので、まず業界団体(自主規制団体)と会話をし、想定しているプロダクトやスキームへの感想をいただきました。そこで好感触を得られたので、行政機関とのやりとりも開始し、必要なステップや順調に進んだ場合のおおよそスケジュールを案内いただきました。

即レスを心がける

行政機関とのコミュニケーションに限った話ではないですが、連絡があった際には出来る限り早くレスポンスをします。レスポンスにあたって不明瞭な部分がある場合は、電話で内容の確認をします。スタートアップなのに電話とは古典的な、ともしかしたら感じるかもしれないですが、ケースバイケースで最適なやり方を選択すべきなので、特に行政機関とのコミュニケーションでは電話を多用しました。自身がボールを持っている間は行政側での進展が一切ないと考えていたので、とにかく即レスを心がけ、少しでも早く物事が進展するように行動しました。

専門用語・業界用語をなるべく使う、ただしわからないことは素直に聞く

行政機関とのコミュニケーションではなるべく専門用語や業界用語を使うようにしました。共通の言葉を使う方が認識齟齬が起こりにくいことと、効果があったかはわかりませんが自身が業界や法律を理解していることを示し信頼いただく目的です。反対に、同じ業界用語でも、スタートアップ内だけでよく使われるような言葉は避けるようにしていました。たとえば「プロダクトローンチ」ではなく「サービスの提供開始」と言う、などです。
また、自身の不勉強により行政側からの言葉を完全に理解できないケースもあったので、その場合は恥ずかしがらずに質問をしました。知ったかぶりや誤認をして間違った対応をとった結果、時間を浪費してしまうのを回避するためです。

「スタートアップだからダメ」とは考えない

思い通りに進捗しないとき、「スタートアップだから」信頼されずに他よりも厳しく見られているのではないか、とついつい考えがちですが、法律等に則って客観的に判断されているはずで、スタートアップであること自体がネックになることはないと思われます。法律への理解、社内態勢、財務状況など何かしら具体的に欠けている部分があるはずなので、自らに矢印を向け、アップデートできる点を探します。

登録申請時に提出したファイル。正副2冊あります。

プロダクトチームとのコミュニケーション

ここでいうプロダクトチームとは、エンジニアやデザイナー、QAなど開発に関わるメンバーを指します。

ドメイン知識を共有する

許認可が関連するプロダクトの場合、深いドメイン知識を必要とするケースが多いです。PMが学ぶこともあれば、ドメインエキスパートが存在することもあるなど、ドメイン知識をカバーする方法は会社によって様々だと思います。自身の場合は比較的決済領域での経験が長いためドメイン知識がある方なのですが、それは一人で独占するものでもないので、勉強会を開催する、参考になる記事をシェアするなど、プロダクトチームのみならず全社的に共有することを心がけました。チームができてしばらくしてから、エンジニアが主体となって決済領域の勉強会が開催されたときは、チーム全体でこの領域に立ち向かう姿勢を実感し、とても嬉しい気持ちになったことを覚えています。
また、プロダクト開発を進めるうえでMVPの中に何らか法令対応をふまえた仕様となる部分があるかと思うので、なぜその仕様にするのかを説明する際にも、チーム全体のドメイン知識があると納得度が深まると思います。

進捗を頻繁に伝える

もちろん自身は行政機関との最新のステータスを把握していますが、チームの他のメンバーからすると見えないことが多いので、「許認可取得までちょうど折り返し地点くらいですかね」「昨日のやりとりで一歩前進しました!」といったイメージを頻繁に伝えていました。また、前述の勉強会などでドメイン知識の理解が進んだフェーズでは、もう少し具体的な内容を共有しました。

一緒に考える

開発体制やセキュリティ面などについて行政機関から質問を受けることもあったので、回答にプロダクトチームの知見が必要なときは思い切り頼りました。事業責任者=全部自分でやる、PM=コードを書く以外は全部自分でやる、ではないので、1日でも早い許認可取得のために最適なやり方を考え、力を借ります。

これらの行動を心がけた結果、予定していたスケジュールから遅れることなく第三者型前払式支払手段発行者としての登録が完了しました。プロダクト開発も順調に進み、予定から遅れることなくリリースできました。チームのみんなに感謝です!

第三者型前払式支払手段発行者の登録が完了し、湯島合同庁舎を訪問したときの写真。至るところに「カラスに注意」と書かれていたので、頭を覆いながら入り口に辿り着きました。

最後に

当たり前のことですが、行政機関といっても結局は人と人とコミュニケーションです。僕自身大企業で行政機関とのやりとりを経験したことがないため比較はできないのですが、今回の許認可取得にあたって行政機関から無下にされていると感じたことは一度もなく、むしろとても丁寧に対応いただき、ポジティブな印象を持っています。
余談ですが、今回登録が完了した第三者型前払式支払手段発行者の登録番号は「関東財務局長 第00777号」です。なんとも縁起の良い数字だと思っているので、数字負けしないようプロダクトを発展させて、多くの方の役に立っていきたいと思います!

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NozomuNakazawa(中澤望)
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