令和に蘇る高画質の『宇宙戦艦ヤマト』
1977年に公開された映画『宇宙戦艦ヤマト』が、4Kの高画質で現代に蘇る! というので、令和生まれの俺様ちゃんも気になって観に行きましたよ。
公開当時の映像をそのままブラッシュアップというコンセプトだそうだが、今回の上映はテレビ初放送時に本編の一部が差し換えられ、これ以降の上映版でデフォルトになった方。つまり、イスカンダル星でスターシャが生きて出迎える生存バージョンの方であった。んん~。
この4Kリマスター版、画面上のゴミやノイズを取り除いただけあって、テレビシリーズのBlu-rayと比較してみると、色合いやトレス線のシャープさなどが際立って綺麗なのが分かる。それに本編クレジットに、ちゃんと松本零士氏の名が出ている『ヤマト』の映画という点でも感慨深いものがあった。
『ヤマト』における松本零士氏の功績
”松本零士監修”の断り書き付きで発売された『宇宙戦艦ヤマト 大クロニクル』(2010年)を読めば、『宇宙戦艦ヤマト』第1作に於いて松本氏がどれほど大きな功績を本作に遺したかが分かろうというもの。松本零士のキャラクターと美術設定とメカ失くして、『ヤマト』はあれだけのヒット作にはなり得なかっただろう、というのを今回の映画を観て改めて感じた次第。
”ヤマトは私が作ったキャラとメカがなければ大ヒットしなかったのだから、私の権利も認めて下さいよ”という趣旨を訴えれば、松本氏の原作権も幾ばくかは認められたんじゃないかと思うのだが、松本氏についた弁護士がよくなかったのか、氏に何か吹き込んだ人が悪かったのか、ヤマトはワシが全部考えた、みたいなことを言い出したために、じゃあ企画書までさかのぼって検証しましょう、などと藪蛇になった気がする。それも今更いっても仕方ないのだが。
ドラマ編レコード+アニメコミックから、4K UHDへ
しかし、こうした70年代の映画を映画館で鑑賞し、自宅に帰って即・同じ物を観られるという環境に驚くばかり。家庭用録画機が普及するまでは、本編のコマ焼きに漫画の吹き出しをつけた「フィルムコミック」なる書籍と、音声だけのドラマ編レコードで追体験するしかない時代があったのだ。
極初期の『ヤマト』のドラマ編レコードは、テレビシリーズの音声を抜粋したものに効果音と音楽をダビングし直し、大幅にナレーションを追加録音したダイジェスト版しかなかった。後にテレビシリーズ全26話のドラマをそのまま収録した13枚組のレコードが発売されるまでは、これで作品を反芻したのだ。
再編集にあたってエピソードのチョイスが抜群
今回の4Kリマスター版は確かに高画質だが、本編そのものは70年代のテレビアニメ相応の作画なので、キャラクターの顔は均一的に整えられていないし、話に穴も粗も多い。もちろん、その辺も考慮した上の歴史の検証なり、オールド世代のノスタルジー、あるいは当時生まれていなかった世代が触れる過去の名作、等々の意味合いはあると思う。
通して観ると、全26話のテレビアニメを上手く再構成しながら魅力を伝えるのに成功した映画だ。ヤマトの始動と大型弾道ミサイルの撃破に始まり、初めてのワープ、初めての波動砲、冥王星の反射衛星砲、ガス生命体と赤色巨星、七色星団の決戦――と、マゼラン星雲に到達するまで印象的なエピソードを過不足なく盛り込んでいる。イスカンダルに到着する辺りからラストまでは新作カットと新録台詞を入れて、帰路の話を大幅に圧縮するのに成功している(スターシャとの交流、古代守の生存、デスラー逆襲、ユキの死亡などがこれでカット出来ている)。
同じ登場人物の名前が何度もクレジットされるのは不要だったと思うが、もとのフィルムに焼き込まれていたものなら消すわけにいかないので仕方ないかも。メインタイトルが出る時の映倫マークや、キャラクター名が表示される位置を見ると、公開時に天地をマスキングしたビスタサイズで上映することを考慮したのだろうか。実際、バンダイビジュアルから発売されたDVDではビスタフレームで収録されていた。
1970年代末期から80年代初頭にかけてのアニメブームの中、多くの懐かしアニメの再編集映画が公開された。中には編集の繋ぎや全体の構成があまり宜しくない映画もあったが、『宇宙戦艦ヤマト』はその点では、ちゃんと正しくヒットしただけのことはある作りこみというわけだ。
仕事をさぼっている航海班の下っ端と思っていた男の正体
最後に。ラスト近くで地球が見えて沸き立つヤマト艦内で、変なポーズをキメながら「俺たちもひと目 見ようぜ!」と叫ぶモブが面白いと前から思っていたのだが、彼は航海班の制服を着て艦載機の格納庫にいる。
今回のUHDの特典に付いている複製台本を読むと、この台詞を言ってる人物はブラックタイガー隊の加藤ということになっている。ああ、それでこいつは格納庫にいたのかと納得。新発見であった……。
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