其のいちのいのち

悴むなんて言葉はもはや通用しない。
痩身を引き裂かれるような錯覚を覚える中、深夜の国道を眺めていた。



今は真冬。
いっそ清々しいくらいに、全ての気配が感じられない。枯れた雑草が誰よりも似合う旧車のセダン(はっきりとした名前は分からないけど)にも、霜が降りている。幾度となく駆り出されたであろう彼の華々しい過去を思うと、より一層切なさが増す。

昭和の遺産と呼ばれるドライブインの駐車場。
インベーダーゲームに思いを馳せる。

冬は好きだ。四季の中で一番。
いつの間にかそうで、それから、ずっとそうだ。



目を閉じると、耳元で、しん、という音が鳴った。
少し嬉しくなって、目を開けて、空を仰いだ。
ああ、まだか。
でも、もう少し。



手持ち無沙汰に、周囲をぶらつく。
ここは岬の中腹で、深く佇む山が近くに見える。

白い息を吐く。

冬を迎える度に、嬉しそうにそれを報告してきた人がいた。
なるほど、色がつけば、ただ吐き出した息も愛おしいもんだ。

今度から、白いシャツで仕事をしようか。
いつだって、鮮明な色がこちら目掛けて飛んでくるから。

そんな考えが浮かんで、くだらなくて、一瞬で脳から追い出した。

やっぱり誰もいませんでした、かび臭いだけで。
後輩の、張りと生気のある声が背後から聞こえる。
無気力な僕とはまるで真逆だ。

"でも、面白いものがありましたよ。稼働してなくて残念でしたけど。なんていうんですかね、あれ、レトロ自販機?最近じゃなかなかお目にかかれないので、思わずでかい声出しちゃいました。"

「へえ、そう」


興奮気味な彼の言うその自販機には、特段興味はない。



だけど、目の前に佇む腐り落ちたドライブインの、かびのにおいを嗅いでみたくなった。



誰もいないならそれでいい。
こんな日まで誰かを追い詰める必要はない。

夜明けまであと何時間だろう。
忘れかけた12月が過って、また頭から追い出す。

"雪が降ってきましたね。"

相も変わらず活力を帯びたその声色に、空を見上げた。

弱々しく降り積もるそれに、なんとなく共感する。

祈りを捧げたいと思った。







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