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ガジェヴのスクリャービン、とホロヴィッツの最後の来日公演
まもなく来日するアレクサンダー・ガジェヴの今回のリサイタルでは、すべての公演でスクリャービンのソナタ第9番「黒ミサ」を、東京ではエチュード7曲を演奏する。
私にとってスクリャービンはなんといってもホロヴィッツ!音楽業界にはいるきっかけになったのがホロヴィッツ最後の来日となった1986年初夏の昭和女子大学人見記念講堂での演奏会だった。
吉田秀和氏がひび割れた骨董品と評した1983年の来日公演には行
サントリーホールでイーヴォ・ポゴレリッチを聴く。
前職で1991年から2018年までポゴレリッチの担当マネージャーをさせていただいていた。27年間、彼の音楽の移り変わりを近くでみてきて、他のアーティストよりもずっと劇的な変化を遂げているので、どんなに音楽が奇抜でも、無条件の愛で受け入れる土台が私にはできている。今日もどんな演奏になるのだろう、バックステージでなくてホールの中で聴くことができて幸せだな、と思いながらサントリーホールに向かった。
最
ピーター・ゼルキンを想う
サー・アンドラーシュ・シフのミューザ川崎のレクチャー・リサイタルに行った。
シフさんがゴルトベルク変奏曲のアリアを弾き始めた瞬間に、ピーター・ゼルキンのことを思い出した。そしたら、ピーターの愛弟子のTomoki Parkさんがシフさんの通訳として舞台上にあらわれたので驚いた。
以来、ずっとピーターのことを考えている。
なぜピーターのことが心に浮かんだのか、、前々日には八ヶ岳にいて、ピーター・ゼ
ワイセンベルクの思い出
和喫茶でアイス抹茶ティーを注文した瞬間にアレクシス・ワイセンベルクのことを思い出した。
確か1990年頃のこと。当時、大阪のザ・シンフォニーホールの隣にはホテルプラザがあって、シンフォニーホールで演奏するアーティストはたいていそのホテルに滞在していた。ワイセンベルクのツアーに同行していた私は、マエストロに「ラウンジでお茶を飲もう」と誘われて行くと、マエストロは「ここのアイス抹茶ティーは本当に美味
ラドゥ・ルプーの引退公演
4月17日。ラドゥ・ルプーがこの世を去ってからちょうど一年がたつ。
2019年6月21日、ルツェルンでの引退公演のことを思い出している。
もうこのシーズンで演奏はやめると本人から聞いていたので、2019年の年が明けた頃から、夏までにはヨーロッパに飛ばなければとずっと思っていた。
ところが2月はじめのパーヴォ・ヤルヴィ指揮フィルハーモニア管とのロンドン公演以降、体調不良でキャンセルが続く。6月初
怖いのは「展覧会の絵」
どんなにクラシックが好きだって嫌いな曲はある。
私にとってはムソルグスキーの「展覧会の絵」がそれにあたる。おどろおどろしいものが嫌いだし、昔見たバーバ・ヤガーの絵が怖すぎたからか、「展覧会の絵」だけはどうしても好きになれない。
マネージャーをしていて幸福な時間は、アーティストとプログラムの話をする時。ある時、ガジェヴと話していたら、次のシーズンは「展覧会の絵」を弾くという。
ドキッ。えっ。私はす
半音の魅惑~「森の情景」から
もうすぐ4月17日。ルプーさんが天国に召されてから1年がたつ。
やりきれないので、私の心の中に大切にしまわれた音の記憶をたどってみる。
「ラドゥ・ルプーは語らない。」のあとがきでは幸福な音の記憶としてシューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」と「ホルンとピアノのためのアダージョとアレグロ」をあげたけれども、もちろんそれだけではない。
とりわけ私の心に深く刻まれているのはシューマンの「森の情景」の第3曲