いのちのエンジニア|救急医療と臨床工学技士
いのちのエンジニア ー 臨床工学技士は医療機器を通じて「いのち」を支える存在です。臨床工学技士が働く現場というと、人工心肺や血液浄化などが紹介されることが多いです。しかし、あえて私は別の角度から臨床工学技士が活躍する現場をご紹介します。今回は救急医療の現場です。臨床工学技士と救急医療、どのようなイメージを持ちますか?
1.救急医療とは
突然の病気やケガなど急を要する人の診療にあたり、適切な検査・診断・治療を行う救急医療。中でも救命救急センターは、次のような役割があるとされています。
救命救急センターは2024年8月時点で全国に307施設に設置され、そのうち57施設でドクターヘリが運用されています。重篤な救急患者を24時間体制で受け入れ、高度な医療技術を提供する役割があります。
2.臨床工学技士の役割
重篤な救急患者の治療に欠かせないものに生命維持管理装置があります。もちろん、生命維持管理装置といったら臨床工学技士です。
救急医療の現場で使用される生命維持管理装置の例を挙げると、次のようなものがあります。これらをいつでも使用できるような体制にしておくとともに、必要な時には準備し、使用中も適切に維持管理を行います。
人工呼吸器
補助循環装置(ECMO、IABP)
血液浄化装置
除細動器
体外式ペースメーカ
救急医療では、生命維持管理装置が代行する呼吸、循環、代謝すべての要素が必要で、これらすべてに対応できる臨床工学技士でなければなりません。しかも、患者さんの治療に一刻の猶予もなく、素早い判断と行動が求められます。
心肺停止や重症外傷なら人工呼吸器は必須。腎不全や薬物中毒などがあれば血液浄化装置、心臓の動きが異常な不整脈であれば除細動器や体外式ペースメーカが必要です。新型コロナウイルス感染症治療の最後の砦とされた補助循環装置ECMO、これにも臨床工学技士が必要です。
さらに使用される医療機器はたくさんあります。臨床工学技士は使用時の準備等を他の医療スタッフなどと協力して行います。もし、うまく使えないなどのトラブルがあったとしても、臨床工学技士が解決、もしくは即座に別の手段に切り替えます。
生体情報モニタ(心電図や血圧などの情報を測定・表示する)
輸液ポンプ、シリンジポンプ(薬剤を投与する)
急速輸液装置(点滴を加温しながら急速投与する)
体温管理装置(体温を温めたり、冷やしたりする)
超音波診断装置(超音波で体内の様子を検査する)
電気メス(手術で使用する)
血液ガス分析装置(体内の酸素の量などを検査する)
内視鏡装置(消化管や気管内の観察・治療をする)
3.救急医療における臨床工学技士の視点
救命救急センターに運ばれた患者さんは、初療室と呼ばれる部屋で最初の処置をした後、CT検査や手術室、救命病棟などの別室に移動します。この移動はとても大変なのです。こういったところでも臨床工学技士ならではの「安全」の視点が重要になってきます。
最初の処置で患者さんには、様々なものがつながることになります。
生体情報モニタ(心電図や血圧)とそのケーブル
酸素マスクや人工呼吸器の回路
輸液ポンプ、シリンジポンプ
点滴のライン(チューブ)
各種カテーテル(膀胱留置カテーテル、胸腔ドレーンなど)
補助循環装置と回路(ECMOなど)
こういった様々な医療機器やチューブ・カテーテル類がつながった患者さんを、別のベッドに移動させる必要があります。移動中に「いのち」をつないでいるチューブやカテーテルが抜けることは絶対にあってはいけません。医療機器は電源を外してバッテリ状態としたり、酸素ボンベから酸素を供給したり、やることがたくさんあります。
このとき、臨床工学技士は患者さんだけでなく、その周囲も見回します。患者さんの生体情報は必要最低限モニタリングされているか。患者さんにつながっているものがすべて準備できているか。酸素は供給されているか。電源ケーブルなどがつながったままになっていないか。バッテリーの残量は十分あるか。必要な固定はされているか。移動するルートの足元の安全は確保されているか。確認しなくてはならない所はたくさんあります。
もちろん他の医療スタッフもそれぞれ確認はしますが、みんなで同じ所を確認してもダメです。臨床工学技士ならではの「安全」の視点によって、トラブルを未然に防ぐことも大事なシゴトなのです。臨床工学技士のシゴトは生命維持管理装置の操作だけではありません。
4.まとめ
最後までご覧いただきありがとうございました。
報道やドラマに映る救急医療の姿は、医師や看護師であることが多いですが、臨床工学技士をはじめとした様々なスタッフの協働で救急医療は成り立っています。いのちのエンジニア ー 臨床工学技士は救命医療の現場でも「いのち」を支えています。
ちょうど先日、NHKの「新プロジェクトX~挑戦者たち~」の中で、新型コロナウイルス感染症の第1波での医療従事者の闘いの様子が放送されていました。重症肺炎治療の最後の砦ともいわれるECMOに関わる臨床工学技士の姿もありました。再放送もあるようですので、ぜひ集中治療に携わる臨床工学技士の様子をご覧ください。