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実重重実『感覚が生物を進化させた』・『生物に世界はどう見えるか』

☆mediopos-2448  2021.7.30

生物は遺伝子の乗物であり
進化は遺伝子の突然変異からはじまり
それが環境にうまく適応していく
というのが
通常の遺伝子と進化論による
生物のとらえ方だが

本書では生物を
そんな受動的な存在としてはとらえない
むしろ生物の主体性に視点を置く

「生物たちは感覚を備えていて、
絶えず選択し判断し、活発に行動し」
「細胞の1つひとつが何らかの認識のようなものを持」ち
「周囲の環境に適合しながら相互作用している」のだという
主体は遺伝子や環境ではなく生物そのものにあるのだ

この捉え方はmediopos-2446(2021.7.28)でとりあげた
ヒルマンの『魂のコード』の「どんぐり理論」とも
どこか近しい視点でもある

わたしたちの生は遺伝や環境によってではなく
それぞれの「魂」によって方向づけられているように
本書の視点ではベルクソンの「創造的進化」の視点にならって
「すべての動植物、あるいは細胞や細菌にまで」
「主体的な認識」が存在しているという

そして生命は
木や河川や血管が
分岐しながらさらに分岐を重ねていくように
系統樹としての「生命の樹」のように進化している
「樹状分岐の先端は、木の枝の先についた
葉のようなセンサーであり、
外界を感覚しながら探求し合」っているのだ

そしてすべての生命は
「太古の昔に生まれた1つの生命からできてきた
壮大な1つの樹状分岐」として
新たな階層の幹を生みだしながら
「生命の樹」を多様に生成させている

生物を遺伝子と環境からだけ説明するとき
生物のそれぞれがどのように進化してきたのかを
生物そのものを主体として見ることはできなくなる

『生物に世界はどう見えるか』では

「ゾウリムシに世界はどう見えるか」
「大腸菌に世界はどう見えるか」
「植物に世界はどう見えるか」
「カビ・キノコに世界はどう見えるか」
「ミミズに世界はどう見えるか」
「昆虫に世界はどう見えるか」
「魚に世界はどう見えるか」
「鳥に世界はどう見えるか」
「哺乳類に世界はどう見えるか」

といった生物からみた世界が描かれ

『感覚が生物を進化させた』では

それぞれの生物がどのように
主体的に樹状分岐しながら
進化していったかが描かれている

(それぞれ以下の引用にある各目次参照)

著書では生物のみの進化が
「生命の樹」として描かれているが
さらにいえば
「魂」や「霊」における
「生命の樹」的な進化を
視点としてもつことも必要だろう

ヒルマンの『魂のコード』の「どんぐり理論」のように
わたしたち一人ひとりはそれぞれ「どんぐり」をもち
絶対的な神から与えられた宿命を生きる存在としてではなく
「1つの樹状分岐」である自由な存在として
みずからを主体的に生成させているのだという視点である

■実重重実『感覚が生物を進化させた/探索の階層進化でみる生物史』
(新曜社  2021/7)
■実重重実『生物に世界はどう見えるかー感覚と意識の階層進化』
(新曜社 2019/12)

(実重重実『感覚が生物を進化させた』より)

「生物の進化とは、種が次第に変化していくことだと一般的には捉えられている。しかしシーラカンスやゴキブリのように、じっと何億年もの間あまり変化していない種もいる。したがってむしろ、進化とは種が新たにできることというよりも、系統が枝分かれしていくことなのだ。枝分かれした先で変化していく種もあれば、枝分かれしても変化をしないでじっとしている種もいるというわけだ。
 広く知られているとおり、ダーウィニズムではこうした変化が起こる原因として、最初に「遺伝子の突然変異」が起こり、それに続いて「固体が自然淘汰にさらされる」と説く。環境によって淘汰され適応度の高いものが生き残り、繁殖に成功して多数の子孫を残す。
 ここでは生物は全く受動的な存在にすぎない。遺伝子の突然変異が起こるのは、偶然の所産だ。自然淘汰にさらされるのは、自分の努力とは関係がない。突然変異によって偶然にできた身体が、環境にどの程度適応しているかというだけの話だ。自然淘汰を行う主体は環境の方にあって、生物の方はただ受け身で選別されるのを待っているだけの存在なのだ。
 しかし本当に生物は受動的なだけの存在なのだろうか。それならばなぜ、生物たちは感覚を備えていて、絶えず選択し判断し、活発に行動しているのだろうか。またなぜ細胞の1つひとつが何らかの認識のようなものを持っていて、周囲の環境に適合しながら相互作用しているのだろうか。」

「自然界には、木の枝のように分岐し、細かく分岐に分岐を重ねていく形になったものが、様々にある。野原に立つ1本の木は、青空に向かってたくさんの腕を伸ばしながら、その分岐した先端に葉をつけている。しかし同時に目には見えない地面の中でも、木の根は、太い根から細い根が分岐し、その細い枝からさらに微細な根が分岐している。
 また河川は上空から見ると、海とつながる河口のあたりは太い幹になっていて、そこに流れ込む支流は、分岐した枝のようだ。その支流は、さらに多くの細かな流れに分岐している。私たちの身体を流れる血液にしても同様だ。幹となる太い血管から枝となる血管が分岐し、さらに毛細血管へと何重にも分岐していく。
 木、河川、血管という3つの例を見たが、共通していることは、水が流れていることだ。これらの中では、水は一瞬も休むことなくその場にとどまっていない。そして生命というものは、そもそもそういったものではないか。」
「樹状分岐しているものは、このように多数にのぼる。そしてその最大のものは、生物界のすべての構成員を示した系統樹「生命の樹」ということになる。」

「このような樹状分岐を生物界に通底するビジョンとして述べた人が過去にいた。フランスの哲学者アンリ・ベルクソンである。彼は20世紀の前半、主著『創造的進化』の中で、生物の進化は「花火のようなもの」だと述べている。
 「それはあたかも大きな花束となって広がる花火のように、一つの中心から多くの世界像が湧き出している。」
 「意識にしろ超意識にしろ、花火のようなもので、その火の消えた破片が物質となって降り注いでいる。意識とは、繰り返すが、その花火そのものを生き続けているもののことだ。それは花火の残骸を通り抜けて、その残骸を有機生命体として照らし出している。」(アンリ・ベルクソン『創造的進化』、竹内信夫訳、白水社)
 ベルクソンは、すべての生物には内在する「意識」があるとした。「意識」という言葉は、一般的には、私たちが覚醒しているときに持っている何かに集中した心的状態のことを言う。すべての動植物やさらには細胞にまであるものを「意識」と言うのはさすがにはばかれるので、ベルクソンは「超意識」という言葉も使っている。
 しかしそうした難解な哲学用語を用いると、かえって分かりにくくなる。すべての動植物、あるいは細胞や細菌にまで存在するもの、それは「主体的な認識」である、と意っておけばよいのではないだろうか。
 自然界、特に生物界には樹状分岐するものが多数あった。それは枝分かれしら後で、その軌跡をすべて残していけば樹木のような形になる。受精卵から胚が発生していく過程のように、軌跡の形状そのものは残さないが、時間をたどってみれば樹状分岐しているというものは多い。それらは空間的に上から形状を見るのではなくて、時間の上から見ることによって理解できるのだ。
 受精卵からの胚発生を研究する発生学者は、いつもそのような視点から生物を見ている。」
「生物の樹状分岐は、ロシアのマトリョーシカ人形のように、小さなものから大きなものまで、何重もの入れ子構造になっている。そしてその樹状分岐の先端は、木の枝の先についた葉のようなセンサーであり、外界を感覚しながら探求し合っている。」

「生物界は、太古の昔に生まれた1つの生命からできてきた壮大な1つの樹状分岐である。ベルクソン流に言えば、生命は「花火のようなもの」の中を通り過ぎていく。個体は分裂して2つに分離していくが、時間の軸を包摂した4次元の視点から見てみると、元の個体と2つに増殖した個体という3つのものは、生殖細胞の連続を通じて1つにつながり合っている。その1つにつながったものが、さらに次々と枝分かれして、全体がつながり合っている。これが樹状分岐の姿だ。
 すべての生物はつながり合いながら、枝を広げていく。8つ首の竜の先端は、まるでイソギンチャクのように無数の触手に分岐していく。個体というのは、触手のように広がる樹状分岐の先端の1つなのだ。
 樹状分岐の枝の先は、相互作用しながら探索行動をする。探索行動が成功することもあれば、失敗することもある。失敗したときには、枝の先はそこで止まる。そのとき、樹状分岐は刈り込まれる。一方で探索行動が成功した枝の先では、遺伝子などが変異するケースが生じて、やがて系統は枝分かれしていく。
 そして樹状分岐の姿は、単純に枝分かれしていくだけのものではない。ときとして枝と枝葉合流し、網の目のようになる。またいくつものの枝が丸ごと合体して、新しい幹を生み出すこともある。
 こうして連綿として樹状分岐が起こり、枝の先は広がり、ときとして新しい階層の幹が生まれる。そして「生命の樹」の全体像は、微小なものから巨大なものまで、海底を這うものから大空を飛翔するものまで、遙かな時を経てつながる逢いながら、驚くべき多様さで彫啄された姿となっている。」
「そしてこの本を読んでいたあなたもまた、樹状分岐を続ける生物界の一員なのだ。あなたも私も地球生命圏が伸ばした無数の触手の先端で、新しい展開をめざして、今日も探索行動を続けている存在であるに違いないのだ。」

 
■実重重実『感覚が生物を進化させた』目次

第1章 生物界はヤマタノオロチ─初期の生物は合体で進化した
1 単細胞生物の世界は、竜の8つの首

2 全身が手足なので変幻自在─アメーバの巨大系統群
3 動物の祖先は1本だけの尻尾─後方鞭毛生物の巨大系統群
4 陸地を緑で覆ったものたち─植物の巨大系統群
5 光合成もすれば動き回って捕食もする─ミドリムシの巨大系統群
6 覇者の3グループが海洋生態系を作った
7 眼球を作ったり性を作ったり─ゾウリムシの巨大系統群
8 ガラスの城に住んでいる─ケイソウの巨大系統群
9 白亜の大聖堂が地球を冷やす─円石藻の巨大系統群
10 柔らかい糸や鋭い針を出す─タイヨウチュウの巨大系統群
11 生物は、合体を繰り返しながら進化した

第2章 地球史の半分は細菌・古細菌だけだった

1 陸・海・空のあらゆる場所に細菌がいる
2 酸素や窒素循環のある地球環境は、細菌が作った
3 呼吸や代謝の方法が多種多彩に樹状分岐
4 細菌は接合もするし光の感知もする
5 協力し合って集団で狩りをする細菌
6 環境が快適だと競争が起こり、厳しいと協調が起こる
7 共生細菌が動物や植物を操っている
8 摂氏350度の灼熱地獄に古細菌がいた
9 私たちは神々の楽園アスガルドから出てきた
10 枝と枝が合体して真核生物の幹ができた

第3章 エディアカラの園で動物が爆発した

1 ふわふわゆらゆらしたエディアカラ動物たち
2 進化の姿は、樹状分岐が刈り込まれたもの
3 「幹の限定」の次は「枝葉の追加」
4 エディアカラの園は、雪玉の後にやってきた
5 左右対称動物もエディアカラで出現した
6 カンブリア爆発より前の微小化石群
7 神経系が登場して、2次元空間を認識

第4章 植物はどうやって陸上に進出したのか

1 水中の藻類からコケ類が上陸を果たした
2 茎で立ち上がって地中に根、そして広がる葉
3 木、種子とできて、花が咲いたのは最近のこと
4 植物と菌類が作る地中のネットワーク
5 植物を中心に虫・鳥・獣が共進化した
6 植物の身体は葉緑体至上主義の群体社会
7 植物も主体的に選択し行動する
8 有性生殖によって百花繚乱が起こった
9 植物は獲得形質の遺伝もすれば、異種との交雑もする

第5章 昆虫はどうやって空に進出したのか

1 キチン質の殻を持つヤスデ・サソリが上陸
2 古生代のうちに羽根と完全変態を発明
3 ミツバチ・アリの社会は、中生代に発展
4 体節の繰り返し構造を神経系が統率する
5 3次元映像を見た三葉虫の眼は、世界を激変させた
6 頭がなくても走って逃げるのはなぜか
7 反射から本能へ、そして意識へ

第6章 脊椎動物はどうやって陸地に広がったのか

1 背骨ができてアゴができ歯ができた
2 魚はどうやって上陸したのか
3 翼竜や鳥はどうやって空を飛んだのか
4 哺乳類は恐竜時代に既に多様化していた
5 幹や枝はなぜ分岐していくのか─生物の相互作用が調節する
6 ワディントンの「運河化」が注目されてきた
7 上陸するための肺は遥かな昔にできていた
8 高く舞う翼の後に、遠く見る眼を発達させた
9 脊椎動物は、脳を何層にも重ねて進化
10 カラスの脳は、文化や言葉を作り出した
11 脊椎動物・タコ・昆虫には、意識の神経基盤がある

第7章 探索行動が生物進化の原動力

1 共生と寄生は同じもの、捕食と寄生も同じもの
2 遺伝子とは別に細胞質が丸ごと遺伝する
3 遺伝子はスケジュール表であって、生きているのは細胞
4 遺伝子は水平移動や重複によっても攪乱される
5 親から子が相続するものは、階層になっている
6 性淘汰から美意識が誕生してきた
7 誤った選択や迷い子も探索行動のうち
8 生物の主体性が進化の十分条件だ

第8章 樹状分岐の階層が生物界を作っている

1 最初の生命が樹状分岐していった
2 真核生物は合体生物として新たな次元を切り開いた
3 有性生殖は、身体の複雑化と「死」をもたらした
4 多細胞化は異なる幹で何度も起こった
5 神経系と体節の繰り返しで、動物は多様化
6 2つのグループで、口と肛門の位置が逆転
7 脳は体節を超えて独自に重層化
8 文化は人間界の新たな樹状分岐


■実重重実『生物に世界はどう見えるか』目 次

第1章 ゾウリムシに世界はどう見えるか

1 ゾウリムシとヒトには共通祖先があった
2 ゾウリムシは天敵と戦う
3 繊毛を動かすだけでなぜ泳げるのか
4 異性と接合して若返り
5 繊毛は運動器官であると同時に感覚器官
6 昼は沈み、夜は浮かび上がる
7 ゾウリムシには五感がある
8 ゾウリムシであるとは、どういうことか
9神経細胞は、接触と味を感覚しながら伸びていく

第2章 大腸菌に世界はどう見えるか

1大腸菌に感覚はあるのだろうか
2細菌の世界では遺伝子が動き回る
3頭の先と尾の先の濃度の違いを感知する
4大腸菌は鞭毛で泳ぐ
5大腸菌であるとは、どういうことか
6大腸菌は1つの街のように巨大
7大腸菌の身体の中でイルミネーションが点灯
8最初の生命は、たった1度だけ誕生した
9最初の生命は、感覚を持っていただろうか

第3章 植物に世界はどう見えるか

1大きな森が丸ごと1つの個体
2ボルボックスは細胞の群体
3植物にとって青い光と赤い光は別の感覚情報
4遠赤色光で夜の時間を測る
5植物はたくさんの眼で光を分析する
6ハエトリソウは、接触の感覚を記憶する
7害虫がいると匂いを発して天敵を呼ぶ
8植物細胞はどうやって「会話」するのか
9植物であるとは、どういうことか

第4章 カビ・キノコに世界はどう見えるか
1土の中の巨人とは、どんなものなのか
2カビ・キノコは手だけが伸びていく生き物
3匂いを頼りに接触しながら探索
4キノコは巨人の生殖器
5 2万1000通りの性を持つ種もある

第5章 ミミズに世界はどう見えるか

1ミミズに知能があるとはどういうことか
2ミミズの空間は2次元の平面
3 2次元の内的地図ができた
4ミミズは光をどう感じるか
5エリ鞭毛虫とカイメンに神経細胞の起源があった
6イソギンチャクには方向が分かる
7 6億年前のスプリッギナは、神経系を持っていただろう
8三葉虫の眼によって3次元空間が出現する
9生物は体内の時計で時間を測る
10センチュウにも個体の記憶ができる

第6章 昆虫に世界はどう見えるか

1ハチやアリはどうやって巣に戻るのだろうか
2方向と距離を測定して経路を積算する
3ミツバチには紫外線が見えるが、赤色は見えない
4触角に何千個もの感覚器
5ミツバチは偏光の太陽コンパスを使う
6カリバチの本能には内的イメージが伴う
7オドリバエの婚姻贈呈は、交尾のスイッチを押す
8本能はどうやって発達したのだろうか
9ミツバチのダンスが伝えるのは、方向と距離の地図
10記憶はどうやってできるのだろう
11ミツバチの感覚世界を見てみよう

第7章 魚に世界はどう見えるか
1魚の群れは、なぜいっせいに旋回するのだろうか
2魚の眼は視界が広くて4原色
3皮膚感覚は魚の側線となり、陸上で耳となった
4脳で感覚の内的地図が重層化された
5電気魚は、電気を認識に使ったり、攻撃に使ったりする
6イトヨもホンソメワケベラも本能で動く
7サケが川に戻るのは「刷り込み」の長期記憶
8魚は1回だけの経験でも長期記憶する

第8章 鳥に世界はどう見えるか

1渡り鳥やハトは、何千キロものコースをどうやって飛ぶのだろう
2ワシは眼の中に望遠鏡を持っている
3鳥は低周波や地磁気を利用する
4渡り鳥は、生まれた巣を中心に内的地図をつくる
5方角と時間が先天的に刻印されている
6鳥類では、視覚のため中脳が発達

第9章 哺乳類に世界はどう見えるか

1イヌの嗅覚はどれほど鋭いのだろう
2空気状態・超音波を探知できるが、見える世界は青っぽい
3コウモリは反響で暗闇を認識し、超音波のビームで攻撃
4クジラ・イルカは海に戻って音波で認識
5場所細胞は発火して空間と時間の認識をつくる
6類人猿・ゾウ・イルカは鏡で自己認知
7サルが観劇するとき、自己参照ができる

第10章 ヒト以外の生物にも意識が認められた

1ケンブリッジ宣言は、ヒト以外の動物にも意識を認めた
2タコ・昆虫にも意識の神経回路がある
3空間・時間の認識は階層をなして進化してきた
4世界は1つに見えているか

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