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マーカス・デュ・ソートイ『数学が見つける近道』

☆mediopos-3061  2023.4.5

この世に生まれてくるのは
近道を見つけるためではなく
おそらく逆に近道を見つけないためだ

さらにいえば近道がないということが
いちばんの近道であるということでもある

つまり生きるということそのもの

道を歩むプロセスそのものが
生きるということにおいて重要なのである

しかし道をたどるプロセスを生きられるのであれば
そしてそのプロセスが近道
あるいは目的地へと導いてくれる最適なものであれば
その道を知っておくに越したことはない

本書は「数学が見つける近道」についてのもの
おもにとりあげられているのは
「パターン」「計算」「言語」「幾何学」「図解」
「微分」「データ」「確率」「ネットワーク」であり
さらに「近道がまったくない」ということも
とりあげられている

なんでも近道をゆくべきだ
というのではない

「自分の体に新たなことをするよう強いたり、
訓練したり、変えたりする」ようなことに関しては
近道は存在しないとしている

たしかに数学は
多くのばあい近道を用意してくれる
学校の勉強でもほかの教科にくらべ
ある種の思考力は必要とされるが
記憶しなければならない量ははるかに少なく
あるテーマにおける思考プロセスを理解すれば
それ以外に時間を必要としない近道だ

数学だけにかぎらず
そうした思考プロセスの理解は
記憶に要する時間を大幅に軽減させてくれる

かぎられた時間のなかで
より生きた時間を使おうとすれば
必要なところで近道を使いながら
それ以外の時間を
近道の存在しないプロセスを
生きるために使うのがよさそうだ

出口のない迷路を歩むこと
それが生きるということでもあるからだ

そのためにも
明らかに出口の見えている道は
できるだけ近道を行ければいいのだが
その近道を歩むための数学や思考そのものが
迷路になってしまう恐れは多分にあるけれど・・・

■マーカス・デュ・ソートイ(冨永星訳)
 『数学が見つける近道』
 (新潮クレスト・ブックス 新潮社 2023/3)

(「出発」より)

「わたしが数学者になりたいと思ったのは、近道につられたからだった。十代の頃はかなりものぐさで、いつも目的地にもっとも効率よくたどり着く方法を探っていた。べつに、手抜きをしたかったわけではなく、ただ、なるべく骨を折らずに自分の目的を達成したかったのだ。」

「この本の目的は、カール・フリードリヒ・ガウスをはじめとする数学者たちが何百年もの間に開発し、蓄積してきたさまざまな近道をみなさんと共有することにある。」

「わたし自身は以前から、数学という分野を研究する際に自分が用いてきたのとよく似た近道を、ほかの職種についている人々も使っているのかどうか知りたいと思っていた。あるいはまた、じつはこれまで自分が気づかなかった新しいタイプの近道があって、自分の仕事でも新たな思考方法を推し進めることができるものなのかどうかを。だが同時に、いかなる近道も存在し得ない難問にも、心が躍る。人間のある種の営みが近道の威力を退けているのはなぜか。さまざまな職種の人々との対話において繰り返し明らかになったことととして、そのような限界を定めているのは人体だ、という事実がある。自分の体に新たなことをするよう強いたり、訓練したり、変えたりするには、往々にして時間と反復が必要だ。ところが、このような物理的な変化を加速する近道は存在しない。」

(「第一章 パターンを使った近道」より)

「パターンが見つかれば、未来へ向かって進むためのすばらしい近道が手に入る。(・・・)人類にとってパターンを見つけることは、最初にサバンナの外に出てからというものずっと、基本的な近道だったのだ。」

(「第二章 計算を使った近道」より)

「複雑な概念を表す優れた略記法を見つけることは、数の記録だけでなく、歴史のうえでも常に、きわめて重要な近い道となってきた。(・・・)時には、ある形で表されたデータからは何も見えてこないのに、記録方法を変えただけで新たな洞察が浮かびあがることもある。元々の数字より対数グラフのほうが、データに関して多くを語る場合が多い。だからこそたとえば地震は、対数を用いたリヒター・スケールで測定されている。それからもうひとつ、どこかに鏡がないかおづか、絶えず注意を払っておくこと。その鏡はちょうど虚数のように今自分が閉じ込められている世界から連れ出してくれて、その別の世界には、目的地へと向かう近道があるかもしれないのだから。」

(「第三章 言語を使った近道」より)

「ある問題が一見手に負えなかったら、使われている言語を別の言語に翻訳する辞書を探してみる。そうすれば、もっと感嘆に解が見つかるかもしれない。(・・・)正しい言葉を見つければよりよく考えることができる。」

(「第四章 幾何学的な近道」より)

「A地点からB地点まで移動したいのなら、光が最速の経路を見つける方法を思い出してみるのもよいだろう。光は時として遠回りをするが、それは、距離は長くなるが、時間が短くてすむからだ。(・・・)都市計画担当者たちの、たくさんの人々に近道を発見させるという戦術は、公園の横断路のレイアウト以外にも応用できる。一般大衆に案内してもらって最適解に行き着くという近道をうまく使えば、すべてを自力でしなくてすむ。」

(「第五章 図解を使った近道」より)

「みなさんは、自分のメッセージやデータをグラフや図にしますか。理解への近道となる表し方は、じつにさまざまだ。一年の異なる時点での事業の利益の関係を示すには、単純なグラフを。カフェの一番人気のメニューの推移を追うには、棒グラフを。さまざまな政党の意見の重なりや相違を説明するには、ペン図を。そしてひょっとすると、ロンドンの地下鉄路線図のようなネットワーク図を使うことによって、言葉による表現でははっきりしないアイデア同士の繋がりが明確になるかもしれない。」

(「第六章 微分を使った近道」より)

「微分積分学は、もっともすばらしい近道の一つだが、このツールを使えるようになるには、ある程度技術に熟練する必要がある。」

(「第七章 データを使った近道」より)

「新しいプロジェクトのために自分のアイデアをどの方向に展開するかを決める際には、人々の好みを調査するよい結果に繋がることが多い。すでにさんざん売り込まれているように、データは新しい石油だが、それにしても、自分の着想を強化するのにどれくらいのデータが必要かを知っておくことは重要だ。データが多すぎると溺れかねず、少なすぎるとプロジェクトを始めることすらできなくなる。統計を用いた近道を使うと、びっくりするほど少ないサンプルでぐんと前進できる場合が多い。さらに、データを集めるための賢い近道を見つけることも重要だ。」

(「第八章 確率を使った近道」より)

「数学的な確率の理論を使えば、リスクが完全に無くなるわけではないが、より効率的に対処できるようになる。」

(「第八章 ネットワークを使った近道」より)

「この世界の至る所にネットワークがある。企業の構造にも、コンピュータの配線にも、単なるストックオプションの相互依存にも、交通のネットワークにも、さらには人体の細胞間相互作用にも、小説に登場する人物の関係にも、わたしたちの社会ネットワークにも。一揃いの対象とその間の繋がりがあれば、そこにはネットワークができる。理解しようとしているのがどんな構造であろうと、そこにネットワークが隠れているか否かを分析してみるだけのことはある。ネットワークを確認できさえすれば、数学が、その構造を扱う際に助けとなる近道をよろこんで提供しようと待ち構えているからだ。」

(「第十章 不可能な近道」より)

「時には、自分が解きたい問題に近道がまったくない、という事実を知ることが重要に成る。目的地に達するには長い道のりを行くしかないということに気づけば、近道を探して時間を無駄にしなくてすむ。それに、すべての作業を自分でするのなら、自分が時間を無駄にしているわけではないことがわかっていたほうがいい。自分が解こうとしている問題が、じつは姿を変えた旅するセールスマン問題なのかどうかをチェックするには、ある問題をまったく別の問題に変えるための近道を使えばよい。もしもまったく近道がないのであれば、暗号制作者たちがしたように、その事実をうまく使えるかもしれない。」

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