氏田 雄介 (編集) 『10文字ホラー 1 』
☆mediopos-2519 2021.10.9
10文字ホラー
というのがある
(と最近知った)
10文字で
ホラーの世界を
表現するジャンル?のようだ
10音ではなく10文字
決まりはそれだけだ
本書には
10万作の応募作品のから
選ばれたものが収録されている
ホラーを好んで読むほうではないけれど
10文字という限られた文字数で
ホラーを表現するという
「定型」の考え方が面白い
傑作が続々と生まれてくる
というのではおそらくないだろうが
定型のなかで
ホラーシーンを想像させようとするとき
いくつかの型が見えてきたりするのも
またそれを破ろうとする試みがあるのも
興味深いところだ
俳句は五七五
短歌は五七五七七
その型のなかで
さまざまに舞う言葉は
言葉数の少ない分だけ
一文字・一単語の役割は大きくなる
まして10文字で
表現しようとすると
一文字・一単語の果たす役割は
ますます大きくなる
ちなみに日本語は
助詞の果たす役割も大きい
が・の・に・を や
は・も・こそ・でも・しか・さえ
などなど
こうした助詞を使いこなすのはとてもむずかしく
散文のなかで使うときよりも
限られた文字数のなか
しかも定型表現でとなると
かなり考えぬいていないと
効果的な表現は成立しがたくなる
一文字または一単語を変えただけで
がらりと意味合いが変わってしまうような
そんな定型表現が見つけられればと
10文字ホラーを読んでみているが
作るのはなかなかむずかしそうだ
ホラーというテーマではなく
別のテーマでの表現も試みると
さらに面白いのではないかと考えもするが
言葉というのは
言葉そのものを超えた
奥行きや背景を必要とする
あるジャンルが成立するためには
その積み重ねや
エポックとなる表現が必要になる
10文字ホラーが今後どうなっていくか
『10文字ホラー2』も近々出るそうだ
■氏田 雄介 (編集)
『10文字ホラー 1 』
(星海社 2021/9)
「ここに、二編の10文字ホラーがあります。
A 一部屋だけ異様に安い
B 一部屋だけ異常に安い
Aは、私が「10文字ホラー」の企画を思いついた時、最初に考えた作品。Bは、本書に掲載するにあたって一文字だけ変えたものです。
「異様」という言葉葉、雰囲気のおどろおどろしさや様子のおかしさを伝えるニュアンスを含んでいます。一方で、「異常」という言葉からは単に「普通ではない」という客観的事実を表しているような印象を受けます。
何点か他の部屋と比べて極端に賃料の安い部屋。その異様さを伝えるためには「異様」という言葉をそのまま使うよりも、その雰囲気を読者自身で想像してもらった方が伝えると考え、本書ではBの案を採用しました。
「10文字ホラー」は、その短さ故に一文字の担う役割が非常に重く、そこが面白いところでもあります。本書の作品も、それぞれ一文字一文字に作者のこだわりがあるはずです。作者が意図していなかったとしても、一文字変えただけでガラッと印象が変わることに間違いはありません。」
「 あの時殺された鶴です
読んだら一秒前に戻る
「 月の後ろに何かがいる
月が欠ける、中心から
今日は満月の筈なのに
五時間前と同じ夕焼け
信号機が嘘をつける日
関連広告すべてが棺桶」
「 昨日は笑っていた写真
裏返すなと言ったのに
何度拭いても濡れてる
芳名帳を燃やす暖かさ
サンタが四回来た夜は
今日も帰って来た人形」
「 茶碗一杯分の蛾の死骸
ペンケースの中の小指
向日葵の種が全部目玉
指切る頁は常に八十八
無数の透明な虫が顔に
襖の間から縦に覗く目」
「 電話のノイズと話す君
必ず三時に非通知音
断末魔が混ざる保留音
配達先が埋立地だった
磯のにおいのする花束
磨れた箱が後部座席に」