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『「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方』・『日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり』・『ボルヘス怪奇譚集』

☆mediopos-2428  2021.7.10

ボルヘスに
「帝国そのものと同じ大きさ」の地図の奇譚がある
「細部ひとつひとつにいたるまで
帝国と一致するにいたった」地図である

原寸大でしかも細部まで実際の場所とそっくりな地図は
地図としての意味は持ちえない
地図は実際の距離を縮めて表したもので
実用的な地図の場合は縮尺も明記されるが
ボルヘスの帝国地図はその縮尺が1/1なのだ

数十年前にこの奇譚のことを知ってから
地図を見るときにはこの奇譚を
思い出してしまうことがあったりするのだが

そのときいつも考えるのは
たとえ縮尺1/1の原寸大の地図があったとしても
その地図があるということと
それを読むということは別だということだ

地図から情報を読みとるためには
その情報に応じた縮尺がある
どんなに適切な縮尺で描かれているとしても
その「読み方」を知らなければ
実用的な地図としていわば宝の持ち腐れとなる

ちょうど先日来拾い読みをしている
『「地図感覚」から都市を読み解く』は
地図を読み解くための「地図感覚」を身に着ける
「読み方」についてのとてもスグレものの本だ
とはいえ「地図感覚」を身に着けるには
まさに「感覚」といえるようになるまで
くり返しそれに慣れる必要がある

しかし「地図感覚」といっても
この本は「都市を読み解く」ためのものなので
都市を離れたところを読み解くスキルは書かれていない
たとえば登山の際には
等高線などを読み解くための方法があり
ほかの目的で描かれたさまざまな地図にも
その地図を読み解くための方法がある

地図についてあれこれ考えているときに
養老孟司さんも推薦しているという
『日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり』
という本を見つけた
本書に記載されている「日本全国にある魅力的な地形」は
「もくじ」として以下に引用してあるが
それらの場所の地形をペンでなぞって楽しむ本である

本書の最初の章は「海岸線をたどる」で
三陸海岸の「海と陸の境界線」を
なぞっていくところからはじまるが
海岸線をなぞることによって
その成り立ちをイメージできるようになる

「たとえば三陸海岸をはじめとする複雑で入り組んだ
海岸線は、海面が上昇し、海が内陸に進んで現れたものだ。
 こうした地形はかつての山ありの谷が海になり、
峰が岬となって海に突き出したもの。」
「逆に砂丘のような滑らかな海岸線は、
海面が後退することで海の底が地面に現れ、
砂によって海岸線が形作られている。
 結果、前者のような地域では、
その地形を生かして養殖漁業が行われ、
後者は海が遠浅になることから
港を作ることが難しく、砂浜として人を集める」
・・・・・・といった「読み解き」へと導いてくれる

その他のテーマもとても魅力的なものばかりだ
しかも「地図をなぞる」という行為は
「読み解き」にある種の身体性をもたらしてくれる
「目」が「手」になるということでもあるだろうか
それは抽象的になりがちな思考に身体性をもたらしてくれる
そしてその身体性ゆえに可能となる
想像力を広げることを可能にする
地図にかぎらず言葉でも絵でも
それは同様な働きを持ち得る手法となるだろう

■今和泉隆行
 『「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方』
 (晶文社  2019/3)
■林 雄司 (著), 古橋 大地 (監修)
 『日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり』
 (ダイヤモンド社  2021/7)
■ホルヘ・ルイス・ボルヘス/アドルフォ・ビオイ=カサーレス(柳瀬尚紀訳)
 『ボルヘス怪奇譚集』(河出文庫 2018.4)

地図なぞり1

地図なぞり2

(『「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方』より)

「地図を読むためのキーワードは「地図感覚」です。聞きなれない言葉かもしれません。それも当然のことで、言いはじめたのは私です。人々が潜在的に持っている地理感覚や土地勘、経験を地図で引き出して読み解く感覚を、ここでは地図感覚と呼んでいます。
 地図感覚を身につけた人には、不動産や建築等の実務でよく地図を見ていた人もいれば、ただただ好きで地図をよく見ていた人までいますが、どうやってこの地図感覚を身につけたのでしょうか。この質問をしても、多くの人は「なんかよく地図を見ているうちに、何となく読めるように・・・・・・」とお茶を濁してしまします。おそらく無自覚にその感覚を養っているからでしょう。
 実は私もその一人で、地図を見てひとしきり話をしたあと「どうやって読み解いたの?」とたびたび聞かれることがありましや。それが重なるうちに、これはある種の技能なのだということに気づきましたが、知らず知らずに身に着けていたものだったのです。地図に出会った最初の頃は地図で家の周辺の様子を眺めたり、目的地をみつけてその経路をさがすなど、いわゆる「普通の使い方」をしていましたが、そのうち未知の場所に興味が移り、見る範囲が広がっていきました。
 そして実際にどこかに出かけたあとは、場所の違いと、その違いが地図上でどう描き分けわれているかを見比べるようになったのです。それらをくり返すうちに、「地図における法則性」が何となく見えてくるようになりました。やがて、この法則性に慣れてくると、地図上の模様から、その場所の風景や状況のあたりがつけられるようになってきました。」
「私の主な仕事は、地理的な情報をつかみやすい形で伝えることです。文章、記事を書くこともあれば、デザイン、ワークショップ、講義、講演で伝えることもあります。現在、まさに地図感覚で仕事をしているようなものですが、そうした場で地図感覚そのものの話をすると反響が大きく、「地図の見方が変わった」「楽しめるようになった」という反応をいただきます。そこで、地図に抵抗感がある人でも読みながら楽しく地図感覚を身につけられる方法を紹介できればと思い、本書を執筆することにしました。

 ・縮尺が書かれていない地図でも、距離感が大体がつかめる
 ・道路の模様かたその土地の新旧や風景が見えてくる
 ・主要な施設の大きさや分布を見ると、都市の発展過程や集客力、街の賑わいが読み解ける

 地図感覚は、こういった読み解きを可能にします。もちろんそこには実用的な利点もありますが、なにより見る人の日常や経験を感覚的に映したり、重ねたり、都市の全貌やその動きを俯瞰することに新鮮な楽しさがある、ということも伝えられればと思っています。」
「地図を感覚的に読めるようになったとき、なじみのある地域の地図だけでなく、馴染みのない地域の地図を見ても、その地の日常や風景が浮かび、そこに自分が住んだら、という想像をすることができるようになります。それは今生きている日常に役立つとともに、ときに実用性をもたない空想の楽しみをも提供してくれるのです。」

《『日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり』より》

「本書はこれまでありそうでなかった、日本全国にある魅力的な地形を1冊にまとめ、これをなぞろうという本である。
 地形の選択は有名かどうかということよりも、なぞって楽しい場所を選んである。
 三陸海岸、五島列島、野付半島など日本にはペンでなぞりたくなる海岸線がたくさんある。
 入り組んだリアス海岸、砂が堆積してできた野付半島の形など、見ているだけでぞくぞくする。自然にできたとは思えない、でも、意図してこの形は思いつかない。
 ぞくぞくするのは複雑な地形だけじゃない。たとえばサロマ湖の海のつながる小さな湖口も、なぞってみると愛おしくかわいらしいし、倶多楽湖の滑らかな丸さもおもしろい。
 それは海岸線にかぎらない。
 瀬戸内海の小島を避けて進む航路なぞりはスリリングでなぞりがいがあるし、蛇行を繰り返した川が徐々に穏やかになって海へ出て行くさまをなぞるのも感慨深くおすすめだ。
 全国にあるこうした線をなぞることで、日本を身体で感じることができる。そして線をなぞるだけで、空想のなかで旅に出ることができるのだ。」

地図感覚1

地図感覚2

《『日本地図をなぞって楽しむ 地図なぞり』〜「もくじ」》

■海と陸の境界線「海岸線をたどる」
三陸海岸/伊勢志摩/佐賀~長崎県
■内と外の二面性「半島を行く」
渡島半島/渥美・知多半島/能登半島/伊豆半島/野付半島/紀伊半島
■移動のロマン「海峡をわたる」
津軽海峡/関門海峡/宗谷海峡/鳴門海峡/対馬海峡
■寄り添い生きる「川を下る」
最上川/北上川/木曽三川/石狩川/淀川/ 利根川・江戸川・荒川・多摩川
■辺境への入り口「湾をのぞむ」
若狭湾/鹿児島湾/東京湾/大阪湾
■謎解きの楽しさ「等高線のストーリー」
富士山/武甲山/いろは坂
■岬をめぐって「台風の進路」
台風9号(1969)/台風18号(2017)/台風9号(2010)
■あの日に帰ろう「教科書的」
排他的経済水域(EEZ)/逆さ地図/海流と気温/分水嶺/プレートとフォッサマグナ
■自然と人工の美「湖という奇跡」
琵琶湖/霞ヶ浦/サロマ湖/八郎潟/風蓮湖/浜名湖/阿寒湖/十和田湖/猪苗代湖
■リアスを楽しむ「ダムを訪ねて」
黒部ダム/満濃池ダム/早明浦ダム
■一度は行きたい「名所探訪」
五稜郭/江戸城/大阪城/猿ヶ森砂丘/中田島砂丘/鳥取砂丘/大仙陵古墳/野毛大塚古墳/西谷古墳群(墳墓群)
■時を刻む大地「自然と造形」
鹿島灘ヘッドランド/西之島/松川浦/天橋立/三方五湖/佐田岬半島/洞爺湖・内浦湾/倶多楽湖/潮岬/広島(三角州)
■遥かな島の物語「離島のロマン」
瀬戸内しまなみ海道/伊豆諸島/八丈島/佐渡島/小豆島/種子島・屋久島/奄美群島・沖縄県/隠岐諸島/五島列島/天草諸島
■移動への渇望「陸路・航路」
小笠原航路/トカラ列島航路/大阪釜山航路/東海道新幹線/リニア中央新幹線/東名高速道路/新東名高速道路/中央自動車道

(『ボルヘス怪奇譚集』〜「学問の厳密さ」より)

「・・・・・・その帝国では地図作成法の技術が完璧の域に達したので、ひとつの州の地図がひとつの市の大きさとなり、帝国全体の地図はひとつの州全体の大きさを占めた。時のたつうちに、こうした膨大な地図でも不満となってきて、地図作成法の学派がこぞってつくりあげた帝国の地図は、帝国そのものと同じ大きさになり、細部ひとつひとつにいたるまで帝国と一致するにいたった。地図作成にそれほど身を入れなくなったのちの世代は、この膨張した地図が無用だと考え、不敬にも、それを太陽と冬のきびしさにさらしてしまった。西部の砂漠地帯にはこの地図の残骸が断片的に残っており、そこに動物たちや乞食たちが住んでいる。これ以外、国中には地図作成法のいかなる痕跡も残されていない。
 スアレス・ミランダ『周到な男たちの旅』第四書十四章(レリダ、一六五八)」

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