近藤滋 『いきもののカタチ 続/波紋と螺旋とフィボナッチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則』
☆mediopos-2526 2021.10.16
いきもののデザインは
見れば見るほど不思議に満ちている
子どものころから
とくに虫や魚のかたちには興味津々で
年を経るにつれその不思議感覚が
幾何学や数学や言葉へ
時空や意識へ
そして存在そのものへと
広がってきてはいるが
それらへの不思議感覚はいまでも深まるばかりだ
社会や政治や経済のなかの
人間関係や力関係のなかにも
それなりの不思議はあるにはあるが
それらについて理解できたとしても
そこには「わかる」感動よりも
「わかる」悲しさや
絶望ばかりが見つかることが多く
むしろ苦手感覚のほうが深まってゆく
やはり『いきもののカタチ』についての不思議が
部分的にせよ「わかる」というのは
なににも代えがたい感動がある
本書では10章にわたって
そうした不思議へのアプローチが
熱をこめて語られている
引用で紹介した
メガネモチノウオの皮膚の模様の不思議は
著者が40年ほどまえに
テレビCMでその迷路模様を見たのが
動物の模様に興味をもったきっかけだったという
メガネモチノウオの顔には
1匹1匹異なる迷路模様がある
そして模様は成長の過程で徐々に変化する
魚が大きくなるにつれ模様は徐々に折れ曲がり
分岐ができて複雑な迷路パターンに変化していく
生物には縞・斑点・網目・ヒョウ柄など
さまざまな皮膚模様パターンがあるが
それはコンピュータをつくったチューリングが発表した
生物の体の形ができる原理についての仮説
「生物の体の中で、化学反応の活性化因子と抑制因子の
せめぎ合いが化学反応の〝波〟を生み出し、
それが、生物の形や模様を作る」
からつくられた理論にもとづいて
コンピュータ・シミュレーションをすれば
自動的に再現できてしまう
それをわかりやすく説明するために
著者は細胞のふるまいを
オセロのルールに読み替えて解説している
オセロには「相手の石を、自分の石で挟むとひっくり返せる」
というルールがあって
ゲームが進むと模様っぽいパターンができていくが
色素細胞のほうにも
そのように色が入れ替わるルールがあるのだという
その簡単な説明は以下の引用で
詳しくは本書を参照してもらえればと思うが
そのように
「生物現象の背後にある法則や仕組み」が「わかる」と
たしかにこれまでとは世界が違って見えてくるようになる
生物現象だけではなく
意識や思考や感情や意志などをはじめ
人間にとって大切なさまざまな現象にも
おそらくその背後には「法則や仕組み」があるはずだ
それを「わかる」ためには
さまざまな営為が必要とはなるのだが
そのひとつでも「わかる」と
それまでの「迷路」は「迷路」ではなくなり
それこそ世界は違って見えてくる
■近藤滋
『いきもののカタチ 続/
波紋と螺旋とフィボナッチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則
(学研プラス 2021/9)
(「はじめに」より)
「自然の驚異を実感とともに味わう、別の方法があるのをご存じでしょうか。対象は、動物園やペットショップ、さらにはスーパーの鮮魚売り場でも出会えるような「普通」の生物。身近な生物の、ごく当たり前と思っているような特徴の中にも、考えてみれば「不思議」なことがたくさんあり、しかもその謎は、論理的に考えれば「スッキリ」解けることがあります。そして、わかったときの感動は、「見る」だけの時よりも、ずっと大きいはず。なぜなら、「わかる」は体験だから。ひとたび、生物現象の背後にある法則や仕組みが「わかる」と、「不思議」が「当たり前」になり、大げさに言えば、以前とは世界が違って見えるようになるのです。」
(「9 細胞たちがオセロで遊び、皮膚の模様が現れる」より)
「黄色と黒の2種類の色素細胞が、皮膚の中でせめぎ合う。周囲にいる細胞の組み合わせが勝ち負けを決め、その結果、浮かび上がるのが波のパターン。でも、その勝ち負けのルール、なんだかボードゲームのオセロに似ているような気が……・」
「皮膚模様に関する面白い問題は、進化に関するものだけではない。例えば「模様が動く」ことをご存じだろうか?」
「メガネモチノウオというサンゴ礁に棲む大型のベラの仲間(…)の顔に、見事な迷路模様がある。(…)この迷路は1匹1匹、異なるのだ。全体として「迷路模様」であること、つまり、一定の幅のある帯が折れ曲がったり分岐しているという点では共通しているが、帯の方向や分岐の位置はばらばらなのである。
いろいろな大きさの個体の模様を比較すると、さらに驚きの事実がわかる。模様は成長の過程で徐々に変化しているのである。魚がまだ小さいときには、模様は単純なシマシマであり、折れ曲がりや分岐はほとんどない。しかし、魚が大きくなると、模様は徐々に折れ曲がり、分岐ができて、どんどん複雑な迷路パターンに変化していく。古い模様が消えて、新しい模様に変わるのではないのである。つまり、この迷路模様は生きており、成長するに従って、迷路の特徴を維持したまま変化し続けるのだ。いったいどんな仕組みがあれば、こんなことが可能なのだろう?」
「1952年に、天才数学者でコンピュータ科学の生みの親でもあるアラン・チューリングが、生物の体の形ができる原理についての、驚くべき仮説を発表した。内容は、「生物の体の中で、化学反応の活性化因子と抑制因子のせめぎ合いが化学反応の〝波〟を生み出し、それが、生物の形や模様を作る」、というものである。」
「この波の理論は、特に生物の模様パターンの研究に関しては、絶大な威力を発揮する。この理論を使ってコンピュータ・シミュレーションをすれば、生物に存在するほぼすべての皮膚模様パターン(縞、斑点、網目、ヒョウ柄、などなど)を作れるだけでなく、雑種の模様を予測したり、成長に伴う模様変化を予測することまでできる。先ほどのメガネモチノウオの模様変化も、模様を作る場を拡大するだけで、自動的に再現できてしまうのだ。」
「模様のでき方の大まかなイメージを摑んでいただくために、細胞の挙動をオセロのルールに読み替えた解説から始めたい。」
「なぜここでオセロが出てくるかというと、2種類の色の石で、盤面の領域を奪い合うというオセロの特徴は、魚の皮膚模様と共通点が多いからである。
(…)ゼブラフィッシュの皮膚の模様は、黒と黄色の2種類の色素細胞の配列からできていることがわかる。しかも、色素細胞の大きさもほぼ一定(…)で、皮膚の表面に隙間なく敷き詰められている。」
「ご存じのように、オセロには「相手の石を、自分の石で挟むとひっくり返せる」というルールがある。その結果として、ゲームが進むと模様っぽいパターンができていくのであるが、実験で調べたところによると、色素細胞のほうにも、色が入れ替わるルールがあるようなのだ。
例えば、黒い色素細胞が、黄色い色素細胞に取り込まれたような配置があると、黒い細胞は死んでしまい、その位置には黄色い細胞が出現する。また、その逆も同じ(…)。」
「色素細胞の入れ替わりルールはもう1つある。2種類の色素細胞は、近接していると反発し合う(殺し合う?)にもかかわらず、黒細胞が生存を続けるには、ある程度の距離に、黄色細胞が存在することが必要なのである。」
「次に、実験でわかった2つの「色素細胞のルール」を少し単純化して、オセロのルールに変換してみる。まず、6方格子の枠を描いて、それぞれのオセロの石を1枚ずつ置く。色素細胞のルール①は、(…)「まわりを4つ以上敵方の石にとり囲まれたらひっくり返す」としよう。
色素細胞のルール②は、「同じ色の石の集団があったときには、距離1マス以内がすべて同じ色という位置にある石は、ひっくり返す」とする。
色素細胞のルールが簡単なので、それをオセロのルールに変換するのも、このようにカンタンなのである。で、あとはこのルールに従って、ひたすらオセロの石をひっくり返せばよいのだが、それには最低でも1,000枚くらいは必要(…)。」
「作業期間は約3日。その気が遠くなるような作業の結果、(…)最初、ただ石をぶちまけて、格子状に敷き詰めたときには、特にパターンをつくっているようには見えなかったが、1回、2回とひっくり返す作業を続け、4パターン目には、ヘビのような模様がはっきりとした輪郭を持ってできあがってきた。
こんな簡単な操作で、模様はできてしまうのである。」
「模様のシグナルは、2種類の長さの違う突起(黄色細胞の突起:短い、黒細胞の時:長い)によって伝えられていることが、わかった(…)」
「このシグナルネットワークの動作をコンピュータでシミュレーションすると、いろいろな模様ができるのだ。」