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山本 健人『すばらしい人体』/福井 栄一『解體珍書』/アーノルド ミンデル『シャーマンズボディ/』

☆mediopos-2569  2021.11.28

科学的にだけ解明されようとする人体には
なにかが欠けている

人体を科学的に理解しようとするとき
山本健人『すばらしい人体』は
楽しく読める啓蒙本としては優れているが
(だからベストセラーになっているのだろうが)

科学的には語るだけでは
人体は生体機械のようになってしまう
そこには文化の歴史がない
文化は科学の付録ではなく
生きるうえで必要な知恵なのだ

人は物質としての「人体」だけでできているのだろうか
そこからすべては生み出されているのだろうか
「自然界で普遍的に起こりうる化学反応の連鎖」だけであって
「化学や物理の方則によって説明できる」というならば
「考える」ことも「愛する」ことも「希望をもつ」ことも
すべて科学的・物理的なものに還元されてしまうことになる

しかし「サイエンス」への信仰者は
信仰であるがゆえに大真面目にそして真摯に
しかも善意から大真面目に
「科学的に説明」できること以外のものを
むしろ見えない闇のなかに葬り去っている

「軆」には文化誌がある
それぞれの部位をあらわす言葉があり
その語源や諺
その言葉を使った慣用句
そして語られてきた怪しい物語がある

それらは直接役に立つようなものではないが
むしろそうした「カラダのフシギなモノガタリ」から
「軆」の見えない姿も学ぶことができる
その意味で福井栄一『解體珍書』は
医学から葬り去られたものを世界に取り戻してくれる
「軆」の物語・歴史もまた「軆」の大事な世界だからだ

プロセス指向心理学のミンデルは
「ドリーミング・ボディ」について示唆しているが
実際のところ「人体」は「化学反応の連鎖」だけでできてはいない
いろんな「ボディ」の次元があって
それらが絡み合い働きあってできている

「ドリームボディ(シャーマンズボディ)」は
人間の存在の深層で
「夢」と「身体症状」(病い)を結びつけているボディで
その視点からボディをみていくと
身体症状(病い)に隠れた意味を見出すことができる

しかも私たちはじぶんだけに閉じた
ボディだけをもっているわけではない
とくにシャーマンズボディにおいては
じぶんの身体だけではなく
周囲の世界あるいは環境とも関係したものが
ボディとしてとらえらえている

私たちは「理路整然と「科学的に説明可能」」な存在だろうか
「化学反応の連鎖」だけでできた存在なのだろうか
その前提に立って(それ以外の要素は存在しないと見る)
現代はいままさに医療による人間管理が進行中だが
人間は物質的なものを超えた存在であり
それが管理できないものだということが忘却されつつある

「すばらしい人体」は
もっとひらかれた存在なのではないか
夢(ドリーム)を失った私たちは
夢みることさえできなくなってしまう
ましてやそれを超えたものを見出す可能性を奪われてしまう

■山本 健人
 『すばらしい人体/あなたの体をめぐる知的冒険』
 (ダイヤモンド社  2021/9)
■ 福井 栄一『解體珍書—カラダのフシギなモノガタリ』
 (工作舎 2021/10)
■アーノルド ミンデル(青木聡訳・藤見幸雄監訳・解説)
 『シャーマンズボディ/
  心身の健康・人間関係・コミュニティを変容させる新しいシャーマニズム』
 (コスモスライブラリー  2001/8)
■アーノルド ミンデル(藤見幸雄訳)
 『ドリームボディ―自己(セルフ)を明らかにする身体』
 (誠信書房 2002/4)

(「山本 健人『すばらしい人体』より)

「私は医師として医学を学び、人体の構造・機能の美しさに心を奪われてきた。一方で、このすばらしいしくみを損なわせる、「病気」という存在の憎らしさも実感してきた。病気の成り立ちを理解し、病気によって失われた能力を取り戻すのも、医学の役割である。
 これまで医学は、多くの病気に潜む謎を解き明かし、膨大な数の治療手段を生み出してきた。」
「流行する病の原因を特定し、それに合う薬を投与する、という一連のプロセスは、現在当然のものとして受け入れられている。だが、この当たり前の営みが「当たり前」になったのは。長い人類の歴史においてごく「最近」のことなのだ。
 その後、医学はさらに長足の進歩を遂げてきた。」

「人体は本当によくできていて、美しく、神秘的だ。
 だが、これらの現象は、自然界で普遍的に起こりうる化学反応の連鎖によるものだ。
 何か特別な、目に見えない超自然的な力を信じたくなるほどよくできたしくみが、実は化学や物理の方則によって説明できる。医学という学問は、長い年月をかけてこのことを解き明かし、サイエンスの一角を担ってきた。。
 人体は、自然界に無数にある有機物と、それほど大きく違わない。
(・・・)
 私が医学に魅せられたのは、一見渾沌とした人体と病気のシステムが、理路整然と「科学的に説明可能」であることを知ったからである。」

(福井 栄一『解體珍書』より)

「人体にまつわる怪談・奇譚・珍談を、古典文学から集めて現代語訳。
妖しくて愉しい身体の不思議をときあかします。

いちばん身近で、いちばん不可解。
なかなか本人の思い通りにならないのが、五臓六腑と身体髪膚。
そこが厄介、そこが愛しい。
マジカルでミステリーな身体旅行で心気充実、無病息災、日々平安。
頭のてっぺんから爪の先まで珍談奇譚がよりどりみどり。

[目次より]
髪の色を変えられた男
額を割って出てきたもの
鼻の穴騒動
骸骨が教えてくれたこと
肩のことで笑われた男
肝のありか
腰のほくろが決め手なのに…
尻を蹴られた盗人
踵はどこへ行ったのか
爪にこもった想い
脹脛(ふくらはぎ)の威力
翼が生えた僧]

(アーノルド・ミンデル『シャーマンズボディ』より)

「先住民のヒーラーたちの教えによれば、人生の質は、夢や周囲の世界と結びついた身体の感覚によって極まってくる。私はそういった身体(感覚)をシャーマンズボディ(訳注:ミンデルは夢と共時的関係にある身体を「夢身体(ドリームボディ)」と命名したが、夢に加えて周囲の世界あるいは環境と一体となった身体をシャーマンズボディと考えている)と呼ぶことにする。世界各地の先住民文化の呪術師たちや秘教的な諸伝統によると、シャーマンズボディとの結びつきが、健康、精神的な成長、良好な人間関係、コミュニティ感覚の鍵となる。
 シャーマンズボディ(またはドリーミングボディ)とは、普通ではない特別な体験や変性意識状態を意味する。それは身体症状や動作に向かう衝動、夢や周囲の世界からのメッセージといったシグナルを通じて、日常的な自覚に浮上する。」
「ドリーミングボディとつながることは、身体的な健康を保ち、世界の本質に関する洞察を得るための鍵となる。」

「ドリーミング・ボディは私たちが抱える日常的な問題、たとえば人間関係の問題、家族やグループ間の紛争、子どもや成人の抱える問題、愛の破局、中年期の鬱状態、老後の問題、倫理体験などの背景に隠れている。そして、誰もがいつかは死ぬ日を迎える。
 運命によって急性あるいは慢性の疾患、学問あるいはビジネスの失敗、性的な悩み、狂気、自殺願望、あるいは不倫などの問題を抱えたとしても、そうした苦悩を反転させる「ドリーミング・ボディを生きる」という新しいパターンが背景に潜んでいる。私たちは直面する難問によって日常生活を中断せざるを得ないが、そのときこそ、潜在的な可能性、戦士の精神、そして死に目覚めることができる。それまで身につけていたパーソナリティに別れを告げ、心のある道を見いだすことができるのである。」

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