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ルドルフ・シュタイナー『神秘劇Ⅰ』/『神秘劇Ⅲ.境域の守護霊』『神秘劇Ⅳ.魂の目覚め』(香川裕子)/上松佑二『光の思想家』/ミヒャエル・デーブス『神秘劇への導入』/ペーター・ゼルク『ルドルフ・シュタイナーの神秘劇の中の秘教的共同体』

☆mediopos3572(2024.8.30)

ルドルフ・シュタイナーの四つの「神秘劇」は
一九一〇年から一九一三年にかけて書かれている
副題は「薔薇十字神秘劇」

アントロポゾフィーは一四世紀の霊的指導者
クリスチャン・ローゼンクロイツによる
「薔薇十字運動」の流れの中にあるといわれるが

「神秘劇」では
紀元前一四世紀の第三文化期のエジプトの秘儀にはじまり
ゴルゴタの秘儀を経て
現代人にとって最重要課題である
「意識魂」の発展に深く関わる人類の精神的発展が

画家のヨハネス・トマジウス
他の人物より霊的認識の進んでいるマリア
歴史哲学教授のカペジウス
自然科学者ストラーダといった人物が

何千年というカルマのプロセスを経て
魂の発展を遂げながら秘儀参入の道を歩む
「生きた現実の体験」として描かれている

シュタイナーの「最も本来的な使命」は
「輪廻転生とカルマの法則の認識することを
中央ヨーロッパの文明にもたらし、
そこから20世紀以降の世界にもたらす」ことだったというが

「神秘劇」は「人の生について霊学が言わなければならないことを
感覚化すべき」課題にこたえたものだといえる

「輪廻転生とカルマ」を
劇として見えるものにするということである

私たちにとって「意識魂」の発展が重要なのは
「意識魂のおかげで人は自立する、
つまり自分を世界から切り離すこと」で
運命が「「個人的」に体験されるもの」になるからであり

それによって「自立の力を自分自身に向け、
あたかも他人と対峙するように自分自身と対峙」することで
世界は「内面的な経験として自らを語るように」なり
「世界への関係」を深めることができる

また神秘劇は「アントロポゾフィー運動と「キリスト衝動」の
歴史的な作用から派生」したもので
「近代の始めに形成された薔薇十字運動であるテンプル騎士団の結社と、
アントロポゾフィー協会と近しい関係にある
ベネディクトゥスを囲む共同体をテーマ」にしている

主に「中央ヨーロッパ」を背景にした
「輪廻転生とカルマの法則」の秘儀的展開として描かれていて
「自我」のありようの異なっている日本において
日本語の言霊とはかけ離れた「神秘劇」が
「生きた現実の体験」として受け取られるのは難しいだろうが

「意識魂」の発展という現代的テーマとして
みずからのそして世界との関係における「カルマ」を
位置づけることは西欧に比べむしろ容易なのではないかと思われる

さて私事になるが
人智学出版社刊の『神秘劇Ⅰ』には
「Ⅰ.認識の関門」と「Ⅱ.魂の試練」が収められているが
『神秘劇Ⅱ』(「Ⅲ.境域の守護霊」「Ⅳ.魂の目覚め」)は
未完のままになっていた

そんななか十年ほど前になるが故香川裕子氏から
「Ⅲ.境域の守護霊」「Ⅳ.魂の目覚め」の邦訳資料や
その他の「神秘劇」についての資料を送っていただき
その全体を少しずつ知ることができるようになった

とはいえそこから「神秘劇」がどういうものかを
少しばかりイメージできるようになったのは
ようやく最近になってからのこと
最初に『神秘劇Ⅰ』を手にしてから三〇年以上にもなる

遅々として理解は進まないままだが
ふとおもいついて「神秘劇」について
少しばかり触れておきたいと思いとりあげてみることにした

■ルドルフ・シュタイナー『神秘劇Ⅰ』(人智学出版社 1982/8)
 *「神秘劇Ⅰ.認識の関門」「神秘劇Ⅱ.魂の試練」
■ルドルフ・シュタイナー『神秘劇Ⅲ.境域の守護霊』『神秘劇Ⅳ.魂の目覚め』
 (香川裕子氏による翻訳・作成資料 2010/1,2010/4)
■上松佑二『光の思想家』(国書刊行会 2022/10)〜「第8章神秘劇」
■ミヒャエル・デーブス(香川裕子訳)
 『人生の危機と劇的緊張 ルドルフ・シュタイナーの神秘劇への導入』
 (ヤーデ・イニシアティヴ 2015/4)
■ペーター・ゼルク(香川裕子訳)『ルドルフ・シュタイナーの神秘劇の中の秘教的共同体』
 (ヤーデ・イニシアティヴ 2016/9)

**(上松佑二『光の思想家』(国書刊行会 2022/10)〜「第8章神秘劇」より)

*「ルドルフ・シュタイナーが四つの神秘劇を書いたのは一九一〇年から一九一三年にかけてのことであった。この神秘劇は「バラ十字神秘劇」という副題をもっている。それはクリスチャン・ローゼンクロイツという人物に基づいたローゼンクロイツァー(「バラ十次会」)神秘劇であることを意味している。クリスチャン・ローゼンクロイツは一四世紀の知られざる霊的指導者(・・・)。アントロポゾフィーはこの流れの中にあり、シュタイナーはクリスチャン・ローゼンクロイツを意識魂の時代に相応しい現代と未来の優れた霊的指導者とみている。」

・ヨハネス・トマジウス

*「四つの神秘劇の中には同一の登場人物が繰り返し現れてくる。その一人がヨハネス・トマジウスという画家であり、芸術家である。(・・・)

 この神秘劇の登場人物は、それぞれが個人の自我の発展の中で同時に人類の精神的発展に関わっている。人は誰もが自らの魂の発展を通して歩んでゆく道をもち、その意味では、誰もが主人公のヨハネス・トマジウスでありうる。」

・マリア

「マリアはヨハネスと深い関係をもち、相互に惹かれ合っている。マリアと知り合うまでにヨハネスにはもう一人の女性がいた。ヨハネスはしかしマリアに惹かれ、精神的修行に入ることによって、もう一人の女性と別れる。そのためのその女性は苦しんで他界する。ヨハネスは良心の呵責を感じ、それはヨハネスに「魂の試練」をもたらす。まず「伝授の門(認識の関門)」に入ってゆく、精神の修行において、苦しみが生まれる。

 マリアは霊的認識の段階では、登場人物の誰よりも進歩している。マリアはキリストに貫かれた魂である。自分がヨハネスを助けようとすると、芸術家としてのヨハネスの自立性をそこなうことになる。ヨハネスがマリアの意見を聞いて作品を作るようになるからである。二人は愛し合っているが、お互いの発展のためんは別れなければならない。マリアはまた、自分の家の前に捨てられていた子供を育てるが、その捨子が自分になつかないことを嘆く。それは過去生からの因縁によるものと導師ベネディクトゥスに教えられる。」

・カペジウス

*「カペジウスは歴史哲学教授として人間の「思考の質」を問う。「死んだ思考」ではなく、萌芽として発展してゆく「生きた思考」を求める。カペジウスはしかし、「新しい思考」に入ってゆけない。」

・ストラーダ

*「ストラーダは自然科学者であるが、幼少の頃修道院で育てられた。修道士による直前に自然科学に目覚め、自然科学者になる。彼は自然科学的方法であらゆるものを見る。輪廻転生も論理的な思考によって原因と結果の因果律と考えた。(・・・)誰もが自分の原因である輪廻転生を論理として受け入れざるをえない。」

「ヨハネスとマリア、カペジウスとストラーダが第一神秘劇から第四神秘劇まで繰り返し登場しては、転生の糸を紡いでいく。」

・ベネディクトゥス/フェリックス・バルデ/フェリチア婦人

*「それにベネディクトゥスというバラ十次会の精神的指導者がいて、それぞれの人物が機器を迎えるたびに霊的指導を与える。」

「フェリックス・バルデとフェリチアがこれに加わる。シュタイナーが一八七九年に出会った薬草集めのコグツキーに由来する人物である。彼は独特な自然哲学をもっていて、自然からの霊感を大切にする人物である。」

・テオドーラ

*「テオドーラは、第一神秘劇に出てくる女性の見者で、キリストのエーテル的顕現を体験し、それについて語る時、皆がそれに感動する。ストラーダは、正反対の立場にいるが、心の奥では大きな衝撃を受け、第三神秘劇では、テオドーラと結婚する。」

*******

*「現代の多くの課題が至る所でぶつかり合い、和を結ぶことがないのは、過去のさまざまなカルマの結びつきは混乱しているからである。誰もが第一神秘劇の「伝授の門(認識の関門)」に入ってゆき、霊的修行に向かう。マリアとヨハネスは早い時期に精神の眼が開け、ある段階に達する。それによって過去生が浮かび上がり、「魂の試練」(第二神秘劇)を迎える。」

*「それぞれの人物が何千年というカルマのプロセスを経て今日に至っている。ヨハネス、マリア、カペジウス、ストラーダは、現代のどこにでもいる人間であり、それぞれが魂の発展を遂げながら、自我による秘儀参入の道を歩んでいることを四つの神秘劇は語っている。」

*「転生劇はシュタイナーにとって単なる理論ではなく、生きた現実の体験であった。その現実を論文、講演、彫刻、絵画、演劇等、あらゆる手段によって当時の人々に伝えようとした。

 ギリシャ悲劇においては、神々から生まれながら、神々から離れた人間の悲劇が劇化され、Ex deo nascimur(神より生まれ)、シェイクスピアにおいては、神々の背景が暗くなり、闇となり、In Chrisro morimue(キリストに死す)が劇化されたのに対し、シュタイナーにおいては、光と愛の段階からPer spiritum sanctum reviviscimus(聖霊によって蘇る)ことが転生を通して歩む人間の自我の発展として劇化されたのである。」

**(ミヒャエル・デーブス『人生の危機と劇的緊張』〜普遍アントロポゾシー協会理事・ゲーテアヌム社会部門代表パウル・マッカイ「序文」より)

*「ルドルフ・シュタイナーは、今日の人間は意識魂の時代を生きていると言っています。意識魂のおかげで人は自立する、つまり自分を世界から切り離すことができます。そのようにして、運命は「個人的」に体験されるものになります。さらに意識魂によって深い次元のカギも開かれます。ルドルフ・シュタイナーがその著書『神智学』の中で意識魂を「魂の中の魂」と呼んでいるのは決して意味のないことではありません。意識魂が人間に、人生の本質的な価値と関係を結び、それを自分のものにする可能性を与えてくれるのです。そうなると人は、自立の力を自分自身に向け、あたかも他人と対峙するように自分自身と対峙し始めます。そしてそれがうまくいくと、世界との関係が変わって来ます。世界は内面的な経験として自らを語るようになります。世界への関係は深まります。」」

「自我と世界の間に、ある種の緊張の場、あるいは(・・・)個人的なものと非個人的なものとの間の相克が生じるのです。

 個人的なものとして体験された運命から人間は、彼が人生で自分の課題として感じているものと関係を築くことができます。この主の関係が生じると、人間の中のイニシアティヴの力と責任感が要求されます。シュタイナーの神秘劇はそのことを証しています。」

**(ペーター・ゼルク『ルドルフ・シュタイナーの神秘劇の中の秘教的共同体』
    〜「第1章《この霊の認識への奉仕の中で意志されていること》神秘劇の意図」より)

1-1.舞台で見えるようになったカルマ

*「ルドルフ・シュタイナーは1910年から1913年にかけて神秘劇を書き、演出しました。シュタイナーは神秘劇を、アントロポゾフィー運動とアントロポゾフィー協会の発展の歴史における一つの時間枠の中に据えましたが、それは特殊な目標に会わせて行われたことでした。「カルマによって私たちに要求されたことを舞台で上演すること」が必然だったからです。神秘劇はルドルフ・シュタイナーの人生史と仕事史の中に錨をおろし、また彼自身によってもそのように整理されています(・・・)。それと同時に神秘劇はアントロポゾフィー的共同体の発展と、一つの人間関係が自己を認識し、その共同体の目標を見出すことに本質的な貢献を成し遂げました。」

1-2.個的になった人間の発展の法則

*「神秘劇は人間の発展と自己教育、霊的修行とそこにおける危険、そこに働く諸力と威力を扱っています。ルドルフ・シュタイナーは「認識劇」のことを語り、それが(・・・)自らの魂の「動き」と「導き」の意味において「非常に、非常に正確に」捉えられ、受け入れられなければならない、と示唆しています。」

*「ルドルフ・シュタイナーが演出を手がけた諸景における各々の登場人物は「劇的」に発展して行きます。劇中、その人自体は高潔で善意の人であるにもかかわらず、修行の道の上では数々のこんなんが降りかかって来ることが明らかになります。また、それらの困難に場所を与えることで、人間の個が発展することに敵対する存在達の有様と力も目に見えるようにされます。20世紀初頭、その二番目の十年期の始まりの時期に、ルドルフ・シュタイナーは現在と未来への脅威に対する事柄を舞台に乗せたのです。それには、間違った霊性、歪んだ霊性、霊的欺瞞の様々な形も含まれていました。

 神秘劇をシュタイナーは、人間の超感覚的体験が徐々に増えていく時代に設定しましたが、それらは個別の欲望や憧憬、個人的な思惑や意志衝動と混ざり合うことが必然でした。また本当の真実の欠けた部分的なイニシエーションの形も提示しました。それは、そういったことに担い手達が完全に目覚めておらず、道徳的に欠陥があり、他の諸力に身を捧げたから起きたのです。

 現実の劇作品においては、修行と自己実現、必然性、そして超感覚的世界(・・・)への危険をはらむ道などが扱われます。そこではまた共同体の存続を脅かす危険、個々の存在を解体する危険も表現されます。(・・・)

 けれどもそれと同時にルドルフ・シュタイナーは助けが来る可能性も記述します。それは内面への道の途上で見出され得る、霊性の教師と共同体による援助です。また人類の発展に同伴し、それに関心を持っている宇宙的諸力は助けてくれます。一人の人間の「秘儀参入」は彼と彼を取り巻く人々のみに関わるのではありません。それは、地球への結びつきの強すぎる状態からの解放が一歩、また一歩と成功することですから、宇宙的な出来事なのです。」

1-3.輪廻転生劇としての神秘劇

*「ルドルフ・シュタイナーの神秘劇は、人間のこの発展の実践として、輪廻転生劇でしたし、今もそうあり続けています。シュタイナーによれば神秘劇は、「人の生について霊学が言わなければならないことを感覚化すべき」なのです。」

「輪廻転生とカルマの法則の認識することを中央ヨーロッパの文明にもたらし、そこから20世紀以降の世界にもたらすのが、ルドルフ・シュタイナーの最重要課題、彼の「最も本来的な使命」でした。」

1-4.秘教的キリスト教とのつながり

*「ルドルフ・シュタイナーが舞台上で輪廻転生とカルマ、人間の個が運命に苦しみ、運命を形成する諸力を表現した方法は、同時に秘教的キリスト教の内的な実質に属しています。と言うより、それと一体になっています。しかし「霊の認識に奉仕する中で、ここ(神秘劇)で意図されていること」をシュタイナーは暗示の域にとどめました。なぜならルドルフ・シュタイナーは、芸術作品はその特殊な内容と形式を通して、それ自体として作用することを希望していたからです。それでもこの作用の意図は、疑いなく、彼が繰り返し「キリスト衝動」の働きとして人間意識と文化の発展史の中で記述した諸力の次元と結びついています。アントロポゾフィーはキリストの諸力が作用するように処方されており、シュタイナーによれば、キリストの諸力に道を準備する意志を持っているのです。」

1-5.現代にも妥当する神秘劇の意義

*「20世紀からは、カルマ的な振り返りに対する憧れと能力が自然な魂の力になり、それがとりもなおさず未来に向かってのカルマ的な関わりを強めます。つまり、自分の行為のカルマ的帰結についての意識が生じるようになるのです。「人がある行為をした瞬間に、その行為のカルマ的均衡がどうなるのかについての予感、それどころかある明確な像や感覚を持つ時代が始まります。」

 それと共に新しい社会的能力の可能性、つまり「人間の道徳性への強烈な衝動」が生じます。」

1-6.人の運命を扱う際のシュタイナーの意図

*「神秘劇は、アントロポゾフィー運動と「キリスト衝動」の歴史的な作用から派生しているので、キリスト教を特別な方法で担った秘教的な共同体を扱っています。それで、近代の始めに形成された薔薇十字運動であるテンプル騎士団の結社と、アントロポゾフィー協会と近しい関係にあるベネディクトゥスを囲む共同体をテーマにしているのです。」

1-7.劇中の霊的共同体の歴史的背景

*「劇中の共同体において形成される自己認識は、他者の運命に目覚めることをも含みます。またそれらの運命の、現代においては少なくとも見えつつある歴史的背景にも目覚めなければなりません。」

「劇中の人物達は世界史の中の決定的な瞬間に組み込まれています。それは個人の運命と時代の運命が交差する瞬間です。時代の運命とは、それ自体が「キリスト衝動」の発展の流れの中に立っていて、それを促進させるか阻むかの、いずれかの立場を取るということです。」

1-8.20世紀を規定する古代エジプト時代の受肉

*「劇における「スピリチュアルでリアルな」行為の源泉は、ルドルフ・シュタイナーによれば、第三文化期のエジプトの秘儀の在り方の中に、つまり紀元前14世紀にあります。彼がアントロポゾフィー全般についての講演の中で繰り返し述べたのは、この文化期の巡りはいかに重要であり、特に現代における諸関係を理解するためにエジプトが重要であることでした。エジプト文化期は今の第五文化期と「鏡像」関係にあり、そのこおはカルマ的観点にも当てはまるのです。」

*「神秘劇はエジプトの秘儀の危機とゴルゴタの秘儀に向かう意識魂の歴史における大変革を描いています。」

*資料:神秘劇1−4のサマリー(作成:香川裕子)

https://r5.quicca.com/~steiner/novalisnova/steiner/mysteriendramen/mysteriendramen-summary.pdf

*資料:神秘劇の登場人物(作成:香川裕子)

https://r5.quicca.com/~steiner/novalisnova/steiner/mysteriendramen/mysteriendramen-Charaktere.pdf


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