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握力低下によってADLにどのような影響が起こるのか?

本日も「臨床BATON」にお越しいただきありがとうございます!
335日目を担当します、ミッキーです。よろしくお願いします。
BA5の影響が広がっていますね。1か月前には思いもしませんでした。

BA5とは 👇

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000967358.pdf

皆様の勤務先は大丈夫ですか?
皆様と皆様のご家族、患者様・利用者様に影響が出ないことを祈っております。


◇はじめに

久しぶりにOTらしい投稿をしていきたいと思います💦

今回は握力低下によるADLへの影響について考えていきます。

高齢者では握力低下など筋力低下が将来その方のQOLに大きな影響を与えるというのは皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。

僕の勤務先でも要支援のデイケア利用者様に1か月ごとに握力等の評価を行っています(その他開眼片脚立位・TUG測定もあり)。
その時、僕は多くを考えずに
前回と数値がそんなに変わってないですね、維持できていますよ。」とか
今月は数値が上がりましたね!成果が出ていますね!」とか
言っていました。

体幹・下肢の筋力が落ちると寝返り・起き上がり・立ち上がり・立位保持といった基本動作に、歩行能力に影響が出てしまうことは理解がしやすいと思います。

しかしなぜ握力を測定するのか、握力が低下するとADL、IADLにどんな影響があるのかあまり理解できていませんでした。

そこで今回は
握力とは
握力測定はなぜ行うのか
なぜ握力が重要なのか、
握力低下によってADL(日常生活)にどんな影響があるのか
について考えていきます。

◇握力とは、年代別平均値について

まずは「握力」の定義についてお伝えしていきます。

握力(あくりょく)とは、主に物を握るときの手の力のことである。
 現在では、主に以下の4つに分類される。
1.クラッシュ力(ものを握りつぶす力)
2.ピンチ力(物をつまむ力)
3.ホールド力(握ったものを保持する力)
4.ものを開く力
 
握力のうち1.のクラッシュ力は握力計を使って測ることができる。
2.のピンチ力を測定する、ピンチ力計も販売されている。
本格的に握力を鍛えるには、特定の部位の筋力を強化しようと思ったら逆方向の力も強くするというウエイトトレーニングの原則にのっとり、握る力同様に、4.の拮抗筋=ものを開く力を鍛えることが望ましい。ものを開く力というのは実際には役に立たない場合がほとんどではあるが、筋力のバランスをとる結果、怪我の防止にもつながるという利点がある。しかし、筋力のバランスを取ることは極めて難しく、大変なことである。

握力,Wikipedia,2022年8月2日

握力は,男女ともに青少年期以後も緩やかに向上を続け30歳代でピークレベルに達し, 他のテスト項目に比べピークに達する年代が遅い。

調査結果の概要,令和2年度体力・運動能力調査報告書について,スポーツ庁,2022年8月7日,https://www.mext.go.jp/sports/content/20210927-spt_kensport01-000018161_3.pdf

ただし今回の記事では握力についてクラッシュ力(ものを握りつぶす力)を表すものとしてお伝えしていきます。

ご了承ください。

◇なぜ握力が重要か

握力はサルコペニア(加齢に伴う筋力減少)やフレイル(虚弱)*詳細下記の評価基準にも採用されています。

フレイル:
【加齢に伴う症候群(老年症候群)として多臓器にわたる生理的機能低下やホメオスタシス(恒常性)低下、身体活動性、健康状態を維持するためのエネルギー予備脳の欠乏を基盤として種々のストレスに対して身体機能障害や健康障害を起こしやすい状態】

葛谷雅文:老年医学におけるSarcopenia&Frailtyの重要性.日老医誌 46 : 279―285, 2009.

Rantanen Tらは「握力は全身の筋力と強い相関を認め,筋力を反映する良好な指標である」といっています。
このことから、握力は全身の筋力を反映する指標の1つとして認められていることがわかります。

それに加え、握力測定は握力計があれば、測定が可能です。
他の筋力指標と比べて測定が簡便で費用もほとんどかからないことから重要な評価指標となっています
そのためサルコペニアやフレイルの評価基準にも採用されているのです。

また、

中年期の握力から,その人の25年後の立ち上がり動作やセルフケア能力などの身体機能を予測できるとされる。

Rantanen T, Guralnik JM, Foley D, et al.: Midlife hand grip strength as a predictor of old age disability. JAMA, 1999, 281 ( 6 ): 558-560.

握力が弱い者は握力が強い者よりも能力低下を引き起こすリスクが 2〜3 倍も高く,握力から死亡率をも予測できることが示された。

Rantanen T : Muscle strength, disability and mortality. Scand J Med Sci Sports, 2003, 13(1):3-8.
Ling CH, Taekema D, de Craen AJ, et al.: Handgrip strength and mortality in the oldest old population : the Leiden 85-plus study. CMAJ, 2010, 182(5):429-435.

握力の低下は日常生活動作(activities of daily living : ADL)や認知機能の低下と関わりがあることが確認されている

Taekema DG, Gussekloo J, Maier AB, et al.: Handgrip strength as a predictor of functional, psychological and social health. A prospective population-based study among the oldest old. Age Ageing, 2010, 39 (3):331-337

ということからも握力を測定することで将来の身体機能や、死亡率の予測、ADLの低下や認知機能の低下をも示唆することができるとされています。

◇握力低下するとADLにどんな影響があるのか?

では、握力の低下はADLにどのような影響を及ぼすのでしょうか。

新開は
基本的ADL低下を防止する上で高齢者の目標とすべき体力水準を提案した。握力 では男性で25kg,女性で15 kg以上,最大歩行速度では男性で95.1 m/min,女性で91.8 m /min以上あれば自立した生活を送ることができると指摘している。

本研究では要支援の握力は16.2 kg,要介護での握力は12.5 kg 以下であった。ML (mobility limitation : 移動制限能力)と介護度の評価基準は異なるが,どちらも悪化するとADL障害,総死亡などの険因子と関連する。これらのことから,握力が20 kg を下回る と要介護になることが推察された

宮原洋八,地域高齢者の要介護度と筋力との関連,理学療法さが,第3巻1号,2017年2月,1-5

加えて、

男性では,握力によって下肢パフォーマンス(以下lower extremity performance:LEP)テストと同等に移動能力の制限(以下mobility limitation:ML)を識別することが可能である.一方,女性では握力がML に対して一定の識別力を有しているものの,LEPS の識別力との間に著差があり,身体的虚弱段階を評価するためには握力とLEPテストを併用していく必要性が示唆された.

清野 諭,金 美芝,藪下典子・他:地域高齢者の握力による移動能力制限の識別.体力科学 60,2011,259-268.

*ここでのLEPテストとはタンデムバランス、5回いす立ち上がり、ステップテスト、TUG(timed up and go)を指す

清野諭,藪下典子,金美芝,根本みゆき,松尾知明,深作貴子,奥野純子,大藏倫博,田中喜代次.特定高齢者の体力を把握するためのテストバッテリ,日本公衆衛生雑誌, 56: 724-736, 2009

と、あります。

以上を総合して考えると
・握力20㎏以下でADLへの影響が出始める
・握力15㎏以下で歩行速度も男性で95.1 m/min,女性で91.8 m /min以下となると自立した生活を送ることが難しくなる
と考えられます。

◇まとめ

ここまで握力低下とADLへの影響について考えてきました。
周知のことかもしれませんがあえて申し上げますと、「握力低下」という1点だけではADLへの影響が確実に出るとはいえません。
下肢パフォーマンスの低下による歩行速度への影響、移動への障害によってもADLへの影響は大きくなります。
それでも握力は「全身の筋力と強い相関を認め,筋力を反映する良好な指標である」という点は間違いなさそうです。
僕は握力低下を良好な指標の一つと考え、開眼片脚立位、TUG、バランス、ステップといった下肢機能と組み合わせて考えるとADLへの影響がどの程度かを評価するのに役立ってくると感じました。

皆様もそのように考えて握力検査を実施してみて下さい!

以上で今回のブログを終わります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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次回は8月11日(木)の更新、yuccoさんによる「慢性期の失語症はどのように改善するのか!?」です。
では臨床BATONどうぞ!

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