有機農業は難しいしお金にならないからやめたほうがいい?マジで言ってんの?
つい先日、新規就農に向けて行政機関に相談に行った人からこんな話を聞きました。
「有機農業は難しいしお金にならないからやめたほうがいい」
そう言われたそうです。あー僕が新規就農するときと同じだー15年経ってもなにも変わってないんだなぁ。。。と悲しくなりました。
同様の話をいろんな方から聞きます。数か月前に用事があり就農相談窓口の担当者と話をする機会がありましたが、やっぱり有機農業を希望する人がきたらストップをかけると言ってました。うんざりします。
なんでこんなことになってるんでしょうか。せっかく農業に興味があって相談に来ている人を、勝手な親心でたしなめるのはやめてもらえませんかね?企業の面接官のごとく有機農業フィルタをかけて落とそうとするのはやめてもらえませんかね?もがき苦しみながらも成長しようとしている有機農業が、こんなところで潰されるのは見ていられません。
ということで苛立ちをおさえられない文章になってますが、なぜ就農相談窓口では有機農業が毛嫌いされているのか、そこに相談に行く就農希望者はどうやってその関門を突破すればいいのか、このあたりをもう少し冷静になって書いていきます。
有機農業が毛嫌いされている理由①有機農業では稼げない
就農相談に行ったときにまず言われるのがこれですね。有機農業では稼げないからやめておきなさい、と。完全に親心。完全に勘違い。稼げるかどうかなんて有機農業かどうかと関係ないですよ。
有機農業でもちゃんと稼げる人はいるし、慣行農業でも稼げない人はいます。あくまでもその人の能力次第です。有機農業では稼げないと言っているのは、どのデータを見て言ってるんでしょうか。慣行農業では稼げているというデータと比較して言っているんでしょうか。あるならそのデータ、見せていただきたいものです。
本音は「農業では稼げない、だからやめておきなさい」のような気がしてなりません。有機農業ダメと言っておけば分かりやすく止められるからそうしているだけ。これならデータありますよ。農業は稼げないという残念なデータが。でも何度も言いますが人によります、ばらつきがあります。稼げる人もいれば稼げない人もいる、それだけのことです。就農相談に来た人がもしかしたら稼げる側になるかもしれないのに、ちょっと相談を受けただけで「有機農業はダメ、はいさよなら」は勘弁してほしいですよ。
有機農業が毛嫌いされている理由②有機農業は難しい
これもよく言われます。無農薬で作物を育てるのは難しいからやめておきないさ、と。まあこれは確かにそうです。僕も有機農業者ですから実感あります。まずは慣行農業で一人前に作れるようになってから、それから有機農業に挑戦してみてはどうかという意見、これもわかります。慣行農業のほうが簡単だなんて言うつもりはまったくありませんが、コントロールできない要素が多くなってしまうのが有機農業なので生産が不安定になってしまうデメリットは確実にあります。それは知っておくべきだと思います。
とはいえ「難しいからやめておきなさい」と言っちゃうのはどうかなと。挑戦したっていいじゃないですか。やらせてあげましょうよ。慣行農業だって僕からみれば難しそうですよ。どっちもどっち。難しさのポイントが違うだけで、慣行だろうが有機だろうが農家は事業者として難しいことに挑戦し続けなきゃいけないんですよ。
行政機関の、公務員ポジションで安全なところから「難しいからやめておきなさい」は説得力がありません。農家は事業者、自営業者。サラリーマンとは違います。将来に約束されたものがなくても、その道が途中で途切れるかもしれないと分かっていても、農家は前に進んでいくんです。そういうチャレンジャーを安全地帯から引き留めようとしないでほしいですね。
有機農業が否定されてしまう原因
なぜこんなことになっているんでしょうか。行政担当窓口に有機農業否定派がいるのはなぜなんでしょうか。その理由を3点にまとめてみました。
①指導力不足
就農相談窓口の担当者、だけではなく農業改良普及員のような指導者が、そもそも有機農業を知らないことが多いです。慣行農業は教えられるけど有機農業はちょっと・・・というパターンです。
知らないんだから教えられません。教えられないから有機農業希望者を受け入れられないわけです。全国を見渡せばしっかりとした栽培技術をもった有機農業者はたくさんいますよ。しっかりと利益を残している有機農業者もたくさんいますよ。そういう方のところへ学びに行ったり、有機農業に関する書籍を読んだりすれば、もともと農業の高い基礎知識を持っているんだから指導できるレベルにすぐなれると思うんですけどね。
②多様性を認めない
新規就農を希望する人の多くが有機農業をやりたいと言います。農業全体の1%にも満たない有機農業に多くの人が魅力を感じてやりたいと思っているわけです。それは多くの場合、ちゃんと稼げるからではありません。収益という指標でみれば慣行農業にも可能性があることくらいは知っています(たぶん)。
そこを最重要視して有機農業を目指してるわけじゃなく、収入以外にも魅力を感じているからこそ有機農業という選択をしているわけで。農業の魅力は多様なんですよ。農業参入の理由は多様なんですよ。
それを、稼げる農業者だけを育てよう、受け入れようとするからミスマッチが起きてしまうわけで、新規就農はもっと多様性を認めるべきじゃないかと思います。たとえば副業での農業、半農半Xなど。なかなか認めてくれないですよね。
どうも平地の効率的な大規模農業ばかりを見ている気がします。そういう農業をやりたい人だけを受け入れようとしている気がします。都市型農業や山間地域の農業には効率化や大規模化は当てはめにくいですし、そういう地域にはまた違った農業のカタチがあります。いろんな農業のカタチがあって、いろんな農家がいる。そういう多様性が豊かな農業をつくっていくと思うんですが、前例主義大好き行政としてはなかなか受け入れにくいのかもしれません。
③勝手な責任感と親心
とりあえずやってみなよ、とは言えない行政側の事情は理解できます。下手に受け入れて失敗してしまったら、仲介した責任を追及される可能性があるからです。確実に成功しそうな人だけを受け入れて、この人はちょっとどうなんだろう?大丈夫かな?という人は「農業は大変だよー稼げないよー」と言って受け入れない。たしかにこれだと失敗は減ります。成功しそうな就農希望者だけが農家になれるわけですから。実績としてよさそうに見えます。
ですが、産業の成長には新陳代謝が欠かせません。どんどん挑戦者を受けいれて、失敗する者もいるけど大きく成功する者も生まれる。そういう代謝がなければ成長しません。代謝がなければ、細胞が入れ替わらずに老化が進んでしまいます。
2022年現在、農業界は強制的に新陳代謝が起きています。これまで農業を支えてきた世代が65歳を超え、70歳を超え、ここからの10年で100万人近い農業者が引退していきます。これはチャンスでしかありません。古くなった細胞が自然に剥がれ落ちていく状況。そして、新しい細胞が生まれなければ、生命維持できるか分からない状況。こんな今だからこそ、新しい細胞をどんどん作っていくべきだと思います。
受け入れたら100%生き残らせる。就農した人はみな成功させる。その意気込みは素晴らしいと思いますが、あり得ない話です。成功も失敗もあることを承知でどんどん就農者を受け入れていってほしいですが、まあ行政という立場では難しいかもしれませんね。
新規就農者はどうしたらいいか
では新規就農希望者はどんなスタンスで就農相談すればいいんでしょうか。有機農業を口にしても拒否されないためにはどうしたらいいんでしょうか。
これは簡単です。目的と手段を間違えないこと。これに尽きます。
有機農業はあくまでも手段です。作物を育てて売り、収入を得る。そのための手段として有機農業があるということ。こういう顧客へこんな農産物を売っていきたい、そのためには有機農産物のほうが買ってもらいやすい、売りやすい。だから有機農業を選ぶ。そんな流れです。
僕は有機農業をやりたいんです!と言ってしまうと、有機農業が目的のように聞こえてしまいます。それでは受け入れてもらえません。育てた農産物を売りたい人がいる、その人は有機農産物を欲しがっている、だから難しいけれど有機農業に挑戦したいんだ、と。そのためにこういう農家で研修をしてきて、こんな知識や経験を得た。販路も開拓を進めている、と。そんな計画を紙に落とし込んで説明できれば、頭の固い就農相談窓口でも受け入れてくれると思いますよ。
目的と手段を間違えないこと。ほんとこれだけです。
有機農業はまだはじまったばかり
国際的なSDGsの流れ、農林水産省の「みどりの食料システム戦略」。流れは来ています。日本の有機農業はようやくよちよち歩きを始めたところです。走ることもままなりませんし、いつ転ぶか分からないくらい不安定な状況。でも確実にゆっくりと歩いています。そんな有機農業に興味があればぜひ一歩を踏み出してみてください。その際には「目的と手段を間違えないこと」をお忘れなく。
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