【序章】人生を変えたソウルでの出会い #3
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2015年10月、その日の朝はさわやかな秋晴れでした。韓国の伝統的な家屋が建ち並ぶ北村という街で、ついにWWOOF KOREAの元スタッフだった日本人男性に会える時がやって来たのです。
彼の名は福山耕太さん。自宅を訪れると、満面の笑顔で出迎えてくれました。ダイニングテーブルの上に絵の具やクレパスを広げ、絵を描いていた女性は、耕太さんのパートナーの沙知さん。彼女はイラストレーターとして個展の準備を進めながら、弘大の大学院で油絵を学んでいる学生でもありました。テーブルの周りには、ソウルの街から消えつつある昔ながらのお風呂屋さんやよろず屋さんなどを描いた、沙知さんの絵が飾られていました。
前夜にFacebookで友達になり、「食、農、芸術、韓国というキーワードは全部僕とドンピシャでびっくりしました。これはお会いしない訳にはいかなさそうですね!」とメッセージをくれていた耕太さんは、その夏、数年間勤めたWWOOF KOREAを退職。中国で1か月間、ウーファーとして農家さんを手伝い、ソウルに戻ってきたばかりということでした。
話している途中、数日前まで耕太さんの家に民泊(Airbnb)していたというフランス人親子がやって来ました。その後すぐ、耕太さんの友人で「将来は農夫になりたい」という韓国人大学生も訪ねてきたので、家の中は日本語、英語、韓国語、フランス語が飛び交う状況に。みんなで緑茶を飲みながら、父と娘の2人で韓国全土を旅しているというフランス人親子の話に耳を傾け、楽しいひと時を過ごしました。
農夫になることを夢見る大学生は、私が語学留学先に選んだ延世大学の学生さんでした。日本でいう早稲田や慶応のような存在である私立大学の学生さんが、目をキラキラさせて「農夫になりたいんです」と話してくれたので、「大学の友達の中で、農業に関心を持っている人は多いですか?」と尋ねると、「僕の周りにはほとんどいません」と答えてくれました。彼は年明けから1年間、ウーファーとして台湾と日本で農業を学ぶ計画を立てており、その後本当に実現させていました。
滞在わずか1時間の訪問でしたが、2週間前に訪れた京都で、塩見さんや農家民宿の方から「連絡とってみたら?」と教えていただいた日本人男性に、こうしてソウルで会えるなんて…。このご縁を大切にしたいと思い、帰国後も時々、耕太さんとは「食、農、芸術、韓国」に関する話題をシェアし合いました。ドキュメンタリー映画『自然農が教えてくれたこと(FINAL STRAW)』や書籍『里山資本主義』など、彼が勧めてくれたものはできる限り目を通し、私もピンときた記事などがあればお知らせする、という風に。
そして、出会いから1年2か月後、2016年暮れのある日。突然「お久しぶりです!もし良かったら今度の奈良ツアー参加しませんか?」とお誘いのメッセージが届きました。スローフード協会の方を中心に、食や農に関心がある韓国のみなさんを募って、奈良の農家さんや農家レストランなどを訪ねる3泊4日の旅を企画したというのです。催行予定は2017年1月下旬でした。
ちょうどその時、携わっていた仕事が12月末ですべて終了することになっていたので、日程的には問題なし。耕太さんと沙知さん以外、参加者は皆韓国の方なので、自分の語学力で乗りきれるのか?そこが少し心配でしたが、いつになく熱い言葉で「minaさんに紹介できたらいいなあと思うすごくいい方たちの参加が決まっているし、参加者の皆さんもminaさんのような方と交流できるのをとっても喜ぶと思います」と言われたら、断る理由がありません。
誘われて数分後、「耕太さん、ありがとう!猛プッシュ。私も参加させてくださーい!」と返信しました。この決断がとても良かった。奈良ツアーに参加できたおかげで、私は再び「食、農、芸術、韓国」というテーマを追い続け、このまま進んでもいいのだと大きな勇気を得ることになるのです。
韓国人23名、日本人3名。計26名で過ごした奈良での4日間。訪れた先で知った奈良の食、農、人の魅力はもちろんですが、韓国のみなさんと過ごした濃密な時間の中で、発見したことがたくさんあります。これはぜひ記録に残したいし、みなさんとシェアしたい。
そこには「私が知らない韓国」がたくさんありました。もちろんすべて、良い意味で!
▲エッセイ『韓国で農業体験 〜有機農家さんと暮らして〜』公開中
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