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平昌(ピョンチャン)で試食会 #6

このエッセイは、2017年、約4か月にわたり韓国の有機農家さん3軒で農業体験取材を行い、現地から発信していたものです。これから少しずつnoteに転載していきます(一部加筆、修正あり)。

 2017/05/18

 15日(月)の午後、トマトさん、ジミンさん、ベイビーと一緒に2018年冬季オリンピックの開催地、江原道の平昌ピョンチャンへ向かった。

 訪れたのは「multi-studio for the arts & nature 감자꽃스튜디오(ジャガイモの花スタジオ)」。1938年創立、99年に廃校になった学校をリノベーションした複合文化施設で、調理室や録音室、鑑賞室、木工室などが備えられていた。

▲スタジオの前で。江原道の若手農家さんたちと一緒に

 6月4日(日)、トマトさんはここで大きなイベントを行う予定だ。その名も「풀밭위의 식사(草原の上の食事)」。

 当日は、寧越ヨンウォルにあるトマトさんの農園「그래도팜(クレドファーム)」と、平昌の若手兄妹が営むベーカリー「브레드 메밀(ブレッドメミル)」を見学した後、감자꽃스튜디오(ジャガイモの花スタジオ)の屋外で旬のトマト料理を味わう。

 さらに、今年1月のスロージャパンツアー in 奈良に参加していた釜山在住の「食経験デザイナー」と、江原道の若手農家さんたちが一緒になって、食経験ワークショップを行うそうだ。

▲イベントの主催はソウル特別市。主管はスローフード文化院。先着35名の予定だったが、現在50人近く希望者が集まり、キャンセル待ちの状況

 今回はイベントで提供する料理の試食を行うため、トマトさん、パン屋さんの他、江原道の若手農家さんたちが集まった。

 平日の朝、ご飯を食べた後、トマトさんの家族と一緒にKBSのドキュメンタリー番組「인간극장(人間劇場)」を見ているのだが、今回の試食会ではその番組の撮影も行われていた。「芸能人かアナウンサーの方かな?」と思って見ていた麗しい女性農家さんが、番組の主人公だった。

 彼女はトマトさんの友人で、韓国ドラマ『冬のソナタ』のロケ地としても知られる江原道の春川チュンチョン在住。両親と共にエゴマや豆を育てている。オリジナルブランドを立ち上げエゴマ油を生産し、SNSを利用して販売しているという。

▲KBSのカメラマンが密着取材中の様子。ありのままの日常を撮るために、両親や夫と暮らしている彼女の家に泊まり込みで撮影を続けているそうだ

 先日、トマトさん夫婦と一緒に訪れた京畿道・安城アンソンの農協内には、彼女のヒストリーが展示されていた。余談だが、この農協の隣にあった安城ファームランドは韓国最大級の畜産体験型牧場で、ドラマ『馬医』のロケ地でもあったようだ(Wikipedia参照)。

▲彼女の紹介は左から2番目。「青春農夫ソン・ジュヒ」、「運命のように出会った農業は人生の希望だった」、「3年前公務員の準備をやめ、負傷した母を助けるために農業を始めた」と書いてあった

 料理はまだ試作段階なので、全部は掲載できないが、ここではひと皿だけ紹介したい。トマトさんのパートナー、ジミンさんが作ったトマトとセリの和え物。酢、コチュジャン、唐辛子粉、ニンニク、ゴマ、砂糖で和えている。トマトさんの家で何度か食卓にのぼった一品だが、トマトの甘さがひきたって、箸も止まらぬおいしさなのだ。当日はこの他、8種前後のトマト料理が登場する予定だ。

▲トマトとセリの和え物

 ベーカリー「브레드 메밀(ブレッドメミル)」の女性は、トマト酵母を起こして焼いたパンを持ってきてくれた。この店は地域の農産物、特にそば粉(메밀)を多く用いてパンやお菓子を作っているのが特徴だ。

▲一口食べると、ほんのりトマトの香りがした

 パン職人の女性が、スタジオ内を簡単に案内してくれた。彼女が「秋に日本へ行く予定です」と言うので「パン屋さんを見に行くんですか?」と尋ねると、「はい」とにっこり。「日本のパン屋さんはどの店に入ってもおいしいです」と話してくれた。

▲1階の様子。この日は1階で試食会と、地域の女性たちの会合、2階ではミュージシャンの録音が行われていた

 2015年7月には、自然映画祭が開かれたそうだ。上映作品の中には、日本映画『リトル・フォレスト夏・秋』の名もあった。橋本愛さん演じる主人公が、岩手県奥州市の大自然の中で自給自足の生活を営む姿を描いた作品なのだが、今回韓国に来て、この映画を見たという人に何人も出会った。『リトル・フォレスト夏・秋』は、イム・スンレ監督により韓国でリメイクされることが決まっていて、今年の1月からすでに撮影が始まっている。

【追記】リメイク作品は、2018年に『리틀 포레스트 (リトルフォレスト 春夏秋冬)』というタイトルで公開された。

▲映画祭のポスター。スタジオの2階に映画が上映できる部屋があるそうだ

 この日はほかにも忘れがたい出来事があった。午前中、今年4月に初の絵本『할아버지,할아버지!(おじいさん、おじいさん!)』を出版したばかりという、絵本作家の선미화(ソン・ミファ)さんがトマトさんの家にやってきたのだ。「この作家さんに、トマト農園と僕たち家族の絵を描いてもらおうと思ってるんです」とトマトさん。平昌のベーカリー「브레드 메밀(ブレッドメミル)」を描いた彼女の作品を見て、ぜひお願いしたいと思ったそうだ。

▲ミファさんは、今年4月に出版してすぐ、イタリアで開かれた児童書専門の見本市「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア(ボローニャ国際児童図書展)」に出展する機会を得たそうだ
▲トマトさんのベイビーも絵本を気に入った様子

【追記】
 絵本作家の선미화(ソン・ミファ)さんは、エッセイストとしても活動されていたようで、2023年には『あなたを応援する誰か(당신을 응원하는 누군가)』という本が日本で翻訳出版されています。詳細はWEBサイト「好書好日」の下記インタビューをご覧ください。

 もう一つ、この日の夜の話を。19時頃だっただろうか、アボジお父さんのお兄さんの家で先祖供養の祭祀(チェサ)が行われた。トマトさんの話によると、チェサは故人の命日や誕生日、正月など年に何度も行われるという。

 トマトさんの両親はチェサに参加するため外出し、トマトさん夫婦とベイビー、そして私は家で留守番することになった。夕食はチキン(치킨)&ビール(맥주)。韓国ではこの組み合わせを「チメッ(치맥)」と呼んでいる。「チキンは深夜に食べる人が多いんです。夜にドラマを見ていると食事のシーンが出てくるでしょ?見ていたら食べたくなって『チメッしよう』と出前を頼む人が増えるんですよ」とジミンさん。

▲「ミナさんはニンニクが好きだから」とニンニクチキンを注文してくれた。そのほか、甘辛いヤンニョムチキンとノーマルな味のものも

 22時頃、チェサから両親が帰ってくると、今度は小さな宴会が始まった。チェサ料理の残り物をつまみに、私がお土産として持ってきた日本酒で乾杯。なんとこの日はアボジとオモニお母さんの結婚35周年の日だった。

▲兵庫県明石市の酒造会社「茨木酒造」の日本酒、来楽らいらくで乾杯。この後、茨木酒造の甘酒もみんなで味見した

 先日参加したソウルのマルシェで、トマトさんちのトマトを使ってシフォンケーキを焼き、販売していた店があったそうだ。そのケーキも試食。トマトはペーストとドライトマトにして生地に練り込んであった。

▲甘すぎず香ばしいシフォンケーキ。トマトの風味がしっかり味わえた。バターも牛乳も使っていない

 日本酒を飲み終えた後、アボジが冬虫夏草とうちゅうかそう(동충하초)のお酒を飲ませてくれた。昆虫等の体に寄生して育つキノコの一種らしい。飲むと体がカッと熱くなった。

 日本酒も好きだけれど、これくらいパンチの効いた味の方が最近の私にはしっくりくる。「おいしいです」と言うと、アボジは満足気な顔をしてニッコリと笑った。

▲冬虫夏草酒。見た目はとってもグロテスク!

▲エッセイ『韓国で農業体験 〜有機農家さんと暮らして〜』 順次公開中

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