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運動失調『上肢の評価/治療』

お疲れ様です。セラピストのはらリハです。

本日は…
失調症状の上肢の評価、治療のポイント』について解説していきます。

ぜひ、日々の臨床に繋げてください。

はじめに

 運動失調における原因は様々ですが、今回は「小脳、脳幹」に障害を持った対象者に限定しながら説明します。

小脳疾患では…

☑︎ 筋活動の調節と運動を制御する機能は低下
☑︎ 大脳皮質は残存(随意運動や感覚機能)

が特徴的です。

 主症状である運動失調に対して、大脳皮質の機能が保たれていることで、ある程度は自分の意思で動かすことが可能ですが、様々な問題が発生します。

 特に、運動の切り替えが困難で、主動作筋と拮抗筋の同時収縮を強めることや、体幹の動揺を随意的に止めようと四肢近位部である「肩甲帯、腰背部〜股関節」の緊張を高めることが多いです。

 そのため、支持面や対象物からの情報を基に末梢部からの協調した運動連鎖が困難になります。

協調性から考える運動失調とは??

そもそも、運動失調とはなんでしょうか??
運動の協調性を失うことで運動失調と呼びますが、よくわかりませんよね。

運動と協調性を分けて考えてみましょう。

ここで言う「運動」と「協調性」とは…

☑︎ 運動(筋肉が収縮することで関節が動くこと)
☑︎ 協調性(筋肉が収縮するタイミング/組み合わせ/出力を決めること)

という意味を持っています。

これを踏まえると、運動失調とは…

筋肉を収縮するタイミングや組み合わせ」が合わず、「スムーズな動きを失うことで歩くときにフラフラしたり、バランスを取りにくくなる」と言われています。

神経生理学的解釈

 課題遂行時の意図や手順、末梢部の巧緻動作などに大脳皮質系(外側皮質脊髄路など)の活動が求められ、皮質下系(橋網様体脊髄路、前庭脊髄路など)は課題のバックグラウンドとなるバランス活動を絶えず保障しているが、失調症状を伴う対象者はこれらの関係が崩れることが少なくないです。

 また、末梢部からの通常意識にのぼらない固有感覚情報などを基盤に脊髄小脳路などが働き、姿勢保持に対するフィードバックシステムが上手く使えなないことも特徴の1つです。

具体的に評価、治療を進めていくうえでは…

☑︎ 失調症状はどこに起こっているのか?
☑︎ どんな時に症状が助長されるのか?
☑︎ どこを介助、誘導すれば症状が軽減されるのか?

ということを評価したうえでアプローチを行うことが大切です。

運動課題における小脳の機能

 姿勢調節を協調的にコントロールする

 過去に体験してきた感覚、運動経験を基板にフィードフォワードのプランニングを認知的にではなく、自動的に行う

 内在的な描写、概念(小脳における内部モデル

 意識にのばらない固有感覚(体性感覚)のフィードバック調節

 リアルタイムに起こっている動きと環境に対して、姿勢、運動を適切に微調節し、適応させる(tryerrorを繰り返し、エラーを修正させる)

 眼球運動のタイミング(前庭動眼反射)

 基底核の働きを促す(運動の準備と実行/運動の終止/運動のシークエンス)

※ フィードフォワードと内部モデルの詳しい内容については以下のリンク

※ 運動のシークエンスとは…運動の連続性

運動課題における脳幹の機能

 運動課題に対して体幹や四肢近位部の姿勢toneをほぼ無意識に調節し続けること(体幹の持続的な姿勢toneを保障)。

 先行随伴性姿勢調節(予測的姿勢制御)として、四肢末梢部の動きに協調しながら姿勢を調節する。

 前庭システムと協調して働く(より抗重力位の活動において)

運動失調に伴う動揺と同時収縮による代償固定

 前述した小脳の機能を考えたとき「体幹や四肢近位部の姿勢toneをほぼ無意識に調節し続けること」「協調性が乏しくなること」で姿勢の不安定性が助長させます。

 また、リアルタイムに起こっている姿勢の不安定性に対して微調節を行いますが、過去の感覚-運動経験とのギャップが生じるために修正が困難になります。

 この姿勢の不安定性を修正するために「末梢部の出力を高めること」「四肢近位部の同時収縮を強めて体幹の動揺を意識的に止めようとすること」で、逆にバランスを崩れやすくなる傾向にあります。

 このバランスの崩れに対して、さらに出力を強めて修正しようとするために、より代償固定が強まっていると考えられます。

 この様な状態では、バランスの安定性限界をより狭小化してしまうことになり、安定を得られるために探索するという活動が困難となってしまい、結果的に転倒のリスクが大きくなってしまいます。

 臨床場面では、失調症状に伴う同様と同時収縮による代償では、肩甲帯と上肢を使うことで対象物に合わせて知覚探索活動が遠しくなることや頭頸部の代償固定を強めることで前庭動眼反射が減弱し、手と目の協調性が乏しくなることが少なくありません。

 言い換えると、手と目をバランス制御にも使えなくなってしまう傾向があります。

運動失調の評価ポイント

 姿勢は安定しているのか?

 どのようなレベルでのバランス制御が可能か?
→ 定常的バランス制御?予測的バランス制御?反応的バランス制御?

 運動失調はどこに起こっているのか?
→ 体幹、四肢、両方、どんな時?

 どこが最も強く代償しており、動かないのか?
→ どのようなバランス戦略と取っているのか?

 行為に対してどの様な問題が起こるのか?

 自動的な運動は可能か?
末梢部の随意性は?
→ 求心性情報に基づいて運動遂行が可能か?

 認知的な問題はないか?
→ 自分が今、何をしているかが分かっているのか?

 眼球運動はどうか?
→ 眼球運動のタイミングは?
→ 手の動きと眼球運動の協調関係は?

運動失調の治療ポイント

治療の原則として、以下6つを配慮する必要があります。

 姿勢コントロールを絶えず意識しながら、体幹の抗重力的活動と選択的運動を促通すると同時に、胸郭に対する肩甲帯のアライメントに配慮すること

 先行随伴性姿勢調節を意識し、上肢の誘導を行う前に体幹の抗重力的活動に着目すること

 末梢部からの求心性情報に配慮しながら、対象物や支持面に対する反応的バランスを評価し、手指、手関節から肘関節、肩関節へと多関節運動連鎖が波及しているかに着目すること

 相反神経支配関係を考慮すること(主動作筋と拮抗筋、左側と右側、中枢部と末梢部など)

 鉛直方向への伸展と身体参照枠(個々の脊柱が空間的に時間的に順序性を持って伸展しているか?また、四肢を手がかりに参照して身体軸を作れるか?)

 末梢部である手の構え(知覚探索するための末梢部のプロパティが整っているか?)

終わりに

 失調症状を伴う対象者は、中枢部である体幹や四肢近位部の不安定性や動揺を生じることが少なくないが、末梢部である手関節、手指、足部などから入っている情報も異質なものとなっていることが多いです。

 全体的な反応(中枢部と末梢部の相互関係など)をみていくと同時に対象者がバランスを保つために「体性感覚情報、視覚情報、前庭覚をマッチングさせるための手がかりをセラピストがいかに保障できるか?」「感覚-運動経験を間学習させることができるか?」が回復への鍵になります。

 また、バランスを保持するために意識的に止めるのではなく、バランスを保つために動きながら自身が安定するポイントを探るといった関わりが重要です。

 徒手的誘導を行う際には、持続的な安定性を得るために慎重にてからの刺激を荷重していくことや、その刺激の強弱、タイミング、運動の方向性なども考慮することが大切です。

 また動くための手がかりとなる安定性を適時に選択していく必要があり、時には徒手誘導を外していき、対象者自身がバランスを保つことにも挑戦し、自己身体における気づきを促すことも重要です。

 失調症状を伴う対象者に対して関わる際、セラピストは運動課題に対する姿勢制御を保障するための黒子のような存在となる場合もあれば、末梢部からの体性感覚情報を得やすくするための準備や末梢部そのものの使い方に着目させ、感覚-運動経験の再学習を積み重ねていくことを意識しなければならない場合もあります。

 対象者が過度に動き過ぎているのであれば、少し姿勢を準備しながら待つことや動き出してからのバランス活動を持続的に保障しなければならない場合もあります。

 目の前にいる対象者に対してセラピストは常に対象者の動きを予測できているかが大切です。

 そのためには、運動の開始と終わりに着目することや、雑な課題を分解して評価するなどの工夫が必要です。

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