「海の見える理髪店」を友だちに紹介するなら
先日の神様からひと言に続き、荻原浩さんの本を読みました。こちらは6つの短編の小説集です。
コメディタッチのお話というよりは家族をテーマにした、読後しんみりするようなお話が多かった印象です。短編集ってどういう風に紹介するのが良いのか分からないのですが私なりに伝えられることを伝えていこうと思います。
1つ目は、「海の見える理髪店」です。アマゾンの購入ページにて「主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。僕はある想いを胸に、予約をいれて海辺の店を訪れるが…」とある通り、「僕」が遠路はるばる噂の理髪店に行って店主とやりとりするお話です。大半のページが店主の一人語りのような内容で埋められています。そして施術が終盤に入ると、店主がいちげんさんの「僕」の予約を受けた理由が明らかになり・・・というお話です。なお、「僕」の人物像や背景などは説明がありません。ないからこそラストにそうだったの!と感動を覚えるのですが・・・。
2つ目は、「いつか来た道」です。このお話は若いころに母親と関係がうまくいかず家を出た娘が16年ぶりに弟に促されて実家を訪問するという内容です。実家といっても、父は既に亡く、母親が一人で暮らしているため事実上母親を訪ねることになります。家を出た理由が母親への複雑な感情であり、それは解消されていない中での帰省ですので、モヤモヤしながら実家を訪ねる娘の杏子。母親は杏子の想像以上に年をとっていて衝撃を受けて、杏子は何を思うのか、といったところです。
3つ目は、「遠くから来た手紙」です。鈍感タイプの旦那への鬱憤がたまった主人公祥子がキレて実家に帰って、今ある幸せを確認するというお話です。ざっくり言うと。なんだけど、個人的には何だか旦那に甘すぎないか?などと思ってしまったり・・・
4つ目は「空は今日もスカイ」です。ちょっと悲しいお話ですね。(注:誰も死にません。本の中では。)親や身内に恵まれない子供たちの一晩の冒険です。自分が子供を持ってびっくりしたのが、フィクションでもノンフィクションでも、子供が不幸になる内容のニュースや小説を読むと、出産前と比べて胸の痛み方が全然違う。胸が締め付けられますよね。小説の中の子供たちとはいえ、幸せになって欲しいと思いました。
5つ目は「時のない時計」です。時計修理を行う店主が、修理依頼をしに来たまあちょっと複雑な思いをかかえた主人公に、ひたすら店内の時計にまつわる思いを語りまくるというお話です。ちょっと悲しめ。
6つ目は「成人式」です。あることがきっかけで人生を楽しむことのできない夫婦が、一つの目標を立てた途端に水を得た魚のように生き生きと毎日を過ごす・・・というお話です。人って希望や予定があることで、つらいものから救われていくのだなと改めて実感しました。
どのお話もちょいしんみり。でも誰にでも隣り合わせでありそうな現実味がありました。
あと、本文には全然関係ないのですが、戦争をリアルで知っている登場人物が多い。やはり執筆された時代でしょうか。今だったら戦争をきちんと覚えている方はほとんど80代以上ですよね・・・
ぜひ読んでみてね。