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評伝 若泉敬:極私的読後感(22)

1972年の沖縄返還に密使として尽力された国際政治学者、若泉敬の評伝。
具体的な事績よりも、この2020年の今にも通じる若泉敬の透徹した視点には驚かされる。

「吉田路線」がそのままの形で続くならば、やがて日本人の独立心は崩れ去り、したがって「吉田路線」は有効でなくなる。他方、サンフランシスコ講和条約と日米安保条約との組み合わせが「吉田路線」の基礎であったとすれば、その「宿題」として残された領土返還や共産主義下の中国との関係といった問題への答えは、「吉田路線」自体からは出てこない。(p.36)

ここに指摘されている「(ソ連=ロシアからの北方領土の)領土返還」、そして「(台湾ではなく)共産主義下の中国」という問題は、まさに今、我が国が抱えている”厄介事”であり、それを解決する為には「吉田路線」を発展的解消して、新たな友誼関係を、サンフランシシコ講和条約の締結国やアメリカと取結び直さねばならず、それにはまさに、日本の「再軍備」であるとか「集団的安全保障」という概念を、国民と共有し、かつ合意を形成する必要があるということだ。

そして若泉は、こうも言う。

日本には増大した国力に応じた国際的責任が求められているのに、現行(1972年当時)の日米安保体制はむしろそれを果たせない日本を前提にしており、なおかつ、日米安保を基軸とする以外の安全保障はなかなか実際的ではなかった。しかも、人々はその状態に馴れつつあるように見えた。(p.225)

この大いなる矛盾を、我々は「法の解釈や運用」で回避し、その歪みから生じる危険を、海外に派遣された自衛官や、文民、警察官等に押し付けながら時間を稼ぎ、そうやって稼いだ時間を、国会でのイデオロギー論争に延々と費やして何とも思わない立法府や、それぞれの政党支持者たち・・・。

若泉の残した言葉や警句は、今も虚しく空を漂っている。

若泉の著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」も、是非手にとって欲しい。少なくとも、沖縄を語るのであれば・・・。


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