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映画について書いたもの

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映画評や映画文化にまつわる文章。
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2022年10月の記事一覧

アフター・ヤン(監督:コゴナダ/2021年)

AIロボット、アンドロイド、サイボーグ……どのような表現でも良いけれども、画面に立つ、あるいは、横たわる俳優をそう名指してしまえば、もう体から光を発したり、怪力を示す必要はない。「未来」という言葉が必ずしも喜ばしくも輝かしくも感じられなくなった今日、SF映画がSFたる意味は「現在とは別の世界線を示す」ことであると言える。 ほんの少し違和感を与えるような素振りを加えれば、私たちはすんなりとSF的設定を受け入れる。ロボットのヤンは、ほんの少しだけ肌や表情が滑らかすぎる演出がほど

まなざしの解像度

河北新報夕刊「まちかどエッセー」に2021年7月から隔週で8回にわたり書いたもの。「河北新報オンライン」が会員制になったというのでここに再録する。 この連載で自らに課したルールに逆らって書いた一篇。まったくの言葉足らずだが、それでもこういうことが書かれているのが新聞というものだろうと思って担当者にお願いしたら快く載せてくれた。 (初出:河北新報夕刊「まちかどエッセー」2021年10月11日) 前々回とりあげた映画『ドライブ・マイ・カー』(監督:濱口竜介)について、手話ので

私たちには暗闇が足りない

河北新報夕刊「まちかどエッセー」に2021年7月から隔週で8回にわたり書いたもの。「河北新報オンライン」が会員制になったというのでここに再録する。 このときの山形国際ドキュメンタリー映画祭で、私が観た作品は結局2本だけだった。古くさい人間なのかもしれない。 (初出:河北新報夕刊「まちかどエッセー」2021年9月15日) 2年に一度、例年ならば世界中からの作家や観客でにぎわう山形国際ドキュメンタリー映画祭が今年はオンライン開催となった(10月7日〜14日)。オンラインの映画

ファストから少し離れて

河北新報夕刊「まちかどエッセー」に2021年7月から隔週で8回にわたり書いたもの。「河北新報オンライン」が会員制になったというのでここに再録する。 この後、偶然にも「ファスト映画」によって有罪判決が出るのは仙台地方裁判所である。 (初出:河北新報夕刊「まちかどエッセー」2021年8月23日) 「読書百遍、意自ずから通ず」。難しい文章も繰り返し読めば自然と理解できるという意味だが、近頃はそんなことを諭す人は少ないどころか、名著も100分くらいで解説するほうが重宝される時代で

オリンピックと記録映画

河北新報夕刊「まちかどエッセー」に2021年7月から隔週で8回にわたり書いたもの。「河北新報オンライン」が会員制になったというのでここに再録する。 もちろん執筆時には『東京2020オリンピック』は観ていない。 (初出:河北新報夕刊「まちかどエッセー」2021年8月2日) すぐれたSFは未来の現実を先取りする。宮城出身の漫画家・映画監督の大友克洋が30年以上前に映画『AKIRA』(1998年)でそれを活写した、いわば想像力に先取りされていた東京オリンピック2020。スポーツ

『言語の向こうにあるもの』(監督:ニシノマドカ/2019年)

1990年代半ばに地方の国立大学に入学し、そこで語学の授業をとった身としては、正直なところ実際に見る前までさほど期待していなかった。フランスはパリの大学とはいえ「外国語としてのフランス語講座」なるものがそれほど魅力的なドキュメンタリー映画になるとは思えなかったからだ。 しかし、その予想は大きく外れる。まず、この授業がおそらく多くの日本人が想像する「語学の授業」からかけ離れたものであったから。それがこの映画の魅力の何割かであることは間違いないだろう。二人の教師(ニコールとフェ