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つくるの実況(1)

 丹波のグリエゴさん(以下Ⅰさん)が、現在「恋人つなぎ」というタイトルで小説執筆中である。高校生同士の恋愛物語で、Ⅰさんが去年から書き始めて、はや一年くらい経つようだが、この小説に私が関わったのは最近になってからで、もう今年の6月になっていた。なので、はじめとさいご以外の大筋は書かれている状況であったが、それでもⅠさんは書ききれないでいて悩んでいた。それどころか、Ⅰさんの執筆を手伝ってくれていたサポーターたちが、次々と介護の現場から離れていくなどもあって、もう少しで完成するかもしれない小説は、しばらく放置されていたようで迷走していて、日の目をみるかどうかの瀬戸際に立たされていた。

 そういうこともあまり知らなかった私は、介護人が足らなくなるので大変だというⅠさんからのSOSきっかけで、Ⅰさんの家に定期的に通うことになった。Ⅰさんと私の間での共通認識は多いが、その一つが「人を助けることができるよりも、人に助けてと言えることを尊重」するようなところがある。簡単にいうと、お節介焼きなのである。こういうⅠさんとの共感は、面白いものが多いので、今後も折に触れて紹介したい。私は介護の無資格者ではあるが、かつての障害者の自立生活運動がそうあったように、無資格者であっても人の介護ができないわけではなく、その素人介護行為の連帯が核となった地域の自治やコミュニティーがあったような出来事に、私の関心はあった。それでも、私の介護技術は全く大したものではないので、ちょうど執筆中の小説の介護ならやり易いだろうというような所で、今に至っている。

 Iさんの家へはいつもは日中に訪れることが多いが、先日は2度目の泊りでの執筆介護であった。夜中の10時前にⅠさん家に着いて、このnoteの下書き共有リンクができることを確認してから、夜中の3時以降まで、飲まず食わずでほとんど小説には直接関係のない話しをしていた。Ⅰさんから聞く話しはどれも興味深いもので、一つ一つがこのnoteの記事にして記録できたらいい内容ではあるが、一夜の事でも分散したら10以上の記事になりそうなもので、まあこれもいずれ折に触れて紹介していこう。深夜3時を回って私は寝たが、Ⅰさんはそれからも書く気になったようで、小説冒頭部分を書き加えるため4時になってもピッピというiPadからの断続的な音は漏れ聞こえていた。朝6時過ぎに起きてもまだIさんは書いていて、いつ寝たかも分からないが筆が進んだようであった。

 写真にあるようにIさんは右手の中指で、緑のボタンを押すことによって、iPadに文字を入力していく。iPad画面上に縦と横の線が交互に表れては画面を横断するように移行して、縦と横の線をそれぞれにプロットしては、クロスしたところをタイプしたりクリックすることができる。ちょうどUFOキャッチャーのボタン操作のように文字や選択肢を拾っていくわけだが、縦の線と横の線がスクロールする速度も一定以上速くすることもできなければ、一文字一文字打つのにとても時間はかかる。クリックのジェスチャーも一つしかできないので、工夫はあってコピペなんかの操作もできなくはないが簡単ではない。書き加えていくならまだ時間を積み重ねていくようではあるが、修正や編集となったら途方に暮れてしまうのではないかと思う。なので、Iさんが声に出したようなことを書き加えたり、消したりしていく私のような代筆者が必要にもなるのだろうが、ここ最近は私が家に訪れた時でもIさんは、一人このiPadで文章を書き進めることが多くなった。

 早朝6時過ぎにIさんと話しながら、調子がいいと言って書き出した冒頭の由貴(小説の主人公の一人、もう一人が創)が創に言ったセリフに大笑いをしてしまった。このセリフが出てきただけでも、今回の執筆介護に意味はあったと感じられて、それも今回良かったことの一つである。さて、一回の実況があまり長くなるのもなんなので、今回はもう一つだけ書き加えておく。Iさんが執筆する際にこのiPadよりも大事にしているのが、Iさんが自分で選曲した音楽リストである。曲の順番もIさんがこだわりぬいた楽曲が、執筆している間も、私と話している間もずっとBOSEのBluetoothスピーカーから流れている。聴いているのか書いているのか、聞いているのか聴いているのか、音楽を聴くという能動的な行為が、Iさんのベットの上でのあらゆる行為に編み込まれていくようである。Iさんはこの音楽や曲を作ってくれた人たちのために小説を書いているとも話している。私にはその内容までは分からないところだが、右手中指の繊細な動きを通じて、Iさんは音楽に応答するようにして書いている。


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