【特撮家族・第五話】「高見沢埋蔵金顛末」
大阪城ホール公演を終えて、某ホテルの広間にアルフィーのメンバーやスタッフが集まった。やっと再開した有観客ライブの後だけに、打ち上げが余計に待ち遠しい。
まだ走れる体力はあるぞとアピールするように高見沢が挨拶を始める。
「日本武道館、大阪城ホール、みんなお疲れ!スタッフもよくこの日まで我慢してくれた。来年の春ツアーも決定だし、新しいアルバムも出せるし。ありがとう以外にないよ。桜井は正月返上でレコーディングだけど。」
桜井「お前も坂崎も残ってるだろ。ってかスタッフ正月休みで居ねえから出来ないって。」
乾杯前なのにすでに出来上がってそうな桜井が笑い、続けて言う。
「いやー、これで落ち着いて高見沢の小説読めるね。ライブ前に発売になったから急いで目を通したけどまだちゃんと読んでなかったから。」
そして、どうせこいつは読まないだろうと思いつつ「坂崎も読めよ。」と言ってみた。
坂崎「ごめん。フォーク村とかディア・ビートルズとかオンライン書写展とか忙しくて。」
しかしそこは気づかいの坂崎、上手く切り返す。
「俺、自分のギターしか見てなかったから気付かなかったけど、高見沢の御神木ギター、勾玉、剣、鏡の3種ともファンに直接見てもらえたんだっけ?高見沢意外と神社とか大事にするからやっぱり神様と縁があって守られてるんだよ。日本武道館の近くに靖国神社あるし、大阪城には大阪城豊國神社あるしね。」
「その割には金遣いがさあ。なんとかコインにまで手を出しちゃって。俺のギャラなんて高見沢よりずっと低いもん。」桜井が突っ込む。
「いやいや、高見沢と俺は直ぐギター買っちゃうから。お金は桜井のほうがため込んでるよ。」坂崎が煎餅の袋を開けながらフォローする。
「まあ、高見沢は人騙して金借りたりサラ金やったりしないから安心だよな。」酔いも手伝って、愚痴っているのか誉めているのか、自分でも分からなくなってるような桜井だったが、急に真顔で言い出した。
「お前、昔、節税対策にって税理士に勧められて、都内にビル買わなかったか?あれまだ所有してんの?コロナ禍で土地の価格下がったりしてたから気を付けないと。」
そう言えば?といった表情で高見沢はマネージャーの棚瀬を呼んだ。
「棚瀬ー。俺のビルどうなってんの?」
櫻井も坂崎も他のスタッフも笑いを堪えていた。誰も「不動産なんて大きな買い物、普通もっと意識するよな」などと高見沢に直接言う勇気はなかった。
棚瀬は、やれやれまたかと思いつつ、平静を装っては高見沢に言った。「とっくの昔に売り払ったかと。詳しくは事務所に戻らないとわかりませんが。」
高見沢は数秒考え込んでから、当たり前のように呟いた。
「そっかあ、思い出した。ビル売った金は全部使っちゃったんだ俺。実際のゴジラの撮影で使われた超レアなセットがどうしても欲しくて、それがビル1棟と同じ値段だって言うんで使っちゃったんだよね。棚瀬、あのセットどうしたっけ?」
「えーーーーーーーっ!」
ドッカーンという爆発音と共に画面が揺れる昭和のコントのように、その場に居た全員は声を合わせた。それはまるで世界中の空に響き渡るくらいの叫び声でもあった。
※最後の5行は髙見澤俊彦・著「特撮家族」(「オール讀物」2022年1月号掲載)より一部を引用の上改変
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