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贈り物は風に吹かれて 坂崎幸之助67歳誕生日記念小説


第1章 誕生日の朝

67回目の生誕祭。
朝からInstagramには読みきれない程のお祝いメッセージが書き込まれ、Twitterには坂崎を描いたイラストや賛辞の言葉が列をなしている。

坂崎は、アル中たちの自由奔放な愛情表現にやや面食らいながらも、嬉しそうな表情で出掛ける準備を始めた。

コロナの影響で自粛されていた某神社の骨董市が、久々に開催されるからだ。


第2章 骨董市のギター

車を駐車場に停めて歩き始めると、桜並木を暖かな日差しが包んでいる。大丈夫だよ、コロナ後とアルフィーの未来はこんな風に綺麗だよと言っているかのように。

その春の空気は、聴こえてきたギターの音色で、拍子が変わり、転調する。

ボブ・ディランのFor Ever Young だよね。誰が弾いてるんだろう?上手いな、ディラン本人みたいだ。

太陽から伸びた光の糸に導かれるように、坂崎はその音色の前までたどり着いた。

70代くらいの外国人男性が木にもたれ掛かって、随分使い古したギターを弾いている。
歌っている声までボブ・ディランそっくりだ。

その男は、演奏していた手を止めて、じっと坂崎を見つめた。そして、坂崎の鼻先にぶつかりそうな勢いで、弾いていたギターを付き出した。

日本語は出来そうになく、通訳らしき人もいない。何か骨董品を売っている様子もない。
ただ、そのギターの為だけに、そこにいるような感じだ。

坂崎は、日本語で通じるかなと戸惑いつつ、「買うかどうか分からないよ。自慢じゃないけどギターなら200本以上あるんだから」と言ってみた。

男は話が通じてないのか強情なのか、やはり坂崎に渡そうとする態度を変えない。

坂崎は、やれやれといった感じでギターを受け取ったが、それがどんな物か、すぐに気づいた。
Martin 00-21。
まさにForever Young の1973年から1974年頃に ボブ・ディランが使っていたギターと同じじゃないか?
今時、こんなところでお目にかかるとは。

少々驚きつつ、そのギターを縦に横に裏からも、いろいろな角度から確認した。

古いのにネックも反ってないし、丁寧にリペアされているのだろう。

坂崎はもう一度その男の顔を見た。怖いくらいにボブ・ディランに似ている。まさか、本人じゃ?
いや、まだ世界中のコロナが終息仕切っていないのに、日本にいるはずがない。

ディラン似の男は、いつまで決めかねているんだといった表情で、坂崎の手から一度渡したギターを取り上げ、今度はBlowin' in The Wind を弾き始め、しかし曲のさわりだけで止めてしまった。

今度はやや穏やかな動作で、ギターを坂崎に渡そうとする。坂崎が受け取ると、男は、続きを歌えと指示するように目配せした。

ギターを抱え歌い出した坂崎に合わせて、ディラン似は手を叩き声を合わせた。
出会ったばかりなのに、不思議と二人の声は馴染む。

この男の正体について、もはや坂崎には確信しかなかった。
桜の花びらが踊り、世界最高のセッションが骨董市の片隅で開催されたのだ。

坂崎は、あまりの気持ちよさに、もう1曲一緒に歌おうとその男に言おうとしたが、既にボブ・ディラン似の外国人は居なかった。

そのギターだけが残った。
具志堅用高が井上尚哉にチャンピオン・ベルトを譲り渡したかのように。

狐に摘ままれたような可笑しさと言い得ぬ感慨深さのまま、坂崎は所属事務所のプロジェクト・スリーへ車を走らせた。
ハンドルを握る手に、数分前のギターの感触がまだ残っている。

信号待ちの間に後部座席にめをやった。
譲り受けたギターは、窓から入り込む陽射しを受けて、黄金の妖精たちが踊るようにキラキラしていた。

高見沢と桜井に見せたら何て言うかな。


第3章 少し不思議なメール

到着すると、出迎えたスタッフが声をかけてきた。
「坂崎さんに、海外から英文でメールが来てたので翻訳しておきました。返信するなら英訳しないといけないので、早めに教えてください。」

手渡された翻訳は、読みやすいようにやや大きめのフォントで印刷されていた。


親愛なるMr.サカザキ
先程は、強引に古ぼけたギターを受け取らせたことを、お許しいただきたい。

あなたとTHE ALFEE の活動は、かねがね伺っている。
あなたのラジオ番組で私の特集を組んで、解説してくれたことも聞いている。

私がBlowin' in The Windを歌ってきたように、あなたは、日本で平和を願って歌われた音楽を紹介し、それを知らない若い世代にも歌う機会を与えてきた。

勝手ながら、あなたの活動は私と似ているように思えた。だから、感謝を伝える方法はないかと考えたのだ。

さて、Mr.サカザキ。あなたは、ミュージシャンが、リスペクトする他のミュージシャンに、大切なギターを贈ることをご存知だろうか。

ほんの短い時間だったが、特別な魔法を使って、あなたの67回目誕生日に贈り物をさせていただいた。

ギターコレクションの1つに加えて下されば幸いである。

B. Dylan

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これは「坂崎村長お誕生日おめでとうアルバム企画」に参加した作品に、更に書き足したものです。

(書き足したのは「信号待ち~言うかな。」)

小説や映画の苦手な坂崎幸之助さんが読みやすいように場面設定や登場人物はシンプルにしました。

なぜこの内容かというと、私の中で、坂崎さんがURCレコードや高田渡さんなどを同時の世相を風刺したフォークを紹介していることが、Blowin' in The Wind を歌うボブ・ディランとイメージが重なっていたからです。

坂崎さんご本人がお読みになると思うと、かえって嫌われたらどうしようとドキドキしていたのですが、2021年4月9日金曜日のK's Transmission の最後に、この小説に登場させた Blowin' in The Wind がかかったので、「ちゃんと読みましたよ」とお返事下さったようで、嬉しかったです。

あらためて、THE ALFEE のお三方が末長くお元気で活動できることを願って止みません。

最後まで、お読みくださりありがとうございます。

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