突然掛かってきた電話

1年半前、かつて片思いをしていたS子から突然電話が来た。
S子は俺が以前に勤めていた会社に、アルバイトとして居た子だ。
俺はS子が好きだった。
性格的には難があったが、見た目が完全にタイプだったから。
ある日、S子と飲みに行くことになった。
時間は深夜0時過ぎ。
居酒屋で他愛もない話をして、2時間ほどで店を出た。
その時は既に夜中の2時を過ぎていたから、当然電車はない。
そしてその居酒屋は俺の家の近くだった。
だからS子は必然的に俺の家に泊まることとなった。
S子は何も拒否はしなかった。
部屋の中では二人でパソコンを見ていた。
色々と調べごとをしたりして時間を潰した。
4時頃になってそろそろ寝ようということになった。
俺は一人暮らしだから、当然布団は一つ。
S子は躊躇なくその布団に入った。
だから俺は受け入れられたと思った。
S子に覆い被さった。
でもS子は俺を拒否した。
そしてそのまま朝方にS子は帰って行った。
それから6年後、突然、俺のLINEにS子から電話が入ったのだ。
俺は突然のことに動揺して出られなかった。
そして何か用があればメッセージを送ってくるだろうと期待していた。
でも何も来なかった。
その頃、S子は既に結婚して子供もいた。(風の噂で既に離婚をしたと聞いた)
もしかしたらあの時の電話は子供のいたずらかもしれない。
俺はそう思った。
S子本人が掛けていたら、メッセージぐらい送ってくるだろう。
でもそれがないということは、子供が誤って掛けてしまったに違いない。
そしてその出来事から月日が経った時、久しぶりにS子のLINEのサムネを見た。
赤ちゃんの画像だった。
俺は直感した。
多分、S子は再婚して新たな命を授かったのだろうと。
そして1年半前の電話は、俺にその事を報告しようとしたのかもしれないと思った。
結局は縁がなく終わった二人だけれども、S子は心のどこかで俺のことを気に掛けていて、だから電話をくれたのだと、勝手にそう思ったのだ。
S子はつっけんどんな性格だったが、実は心の奥底には愛がある女性だった。
ただ愛情表現が不器用なだけなのだ。
S子は言っていた。
「私、性格がダメなんだよね。」と。
それは自身の不器用さを、遠回りに詫びた言葉だったのかもしれない。
俺はあの電話に出れば良かったと後悔している。
今もLINEで連絡はいくらでも出来るが、しかしそれはすべきじゃない。
相手には十中八九、家庭があるだろうし、そもそもあの電話だって本当に子供のいたずらかもしれない。
正直、S子本人からの電話じゃないかと期待していた。
心が踊った。
必要とされていると思った。
俺は哀しい。
S子が好きだったから。
でもその後に連絡がない事を、俺は喜んでもいる。
それはS子の人生が上手くいっている証拠だからだ。
寂しいけれど、あの時に終わった事はそれで良かったのかもしれない。
縁が無かったんだ。
そもそもS子は何とも思っていないかもしれない。
俺のことなんか忘れているかもしれない。
でもS子が上手くやっているのだったらそれでいいんだ。
今度もし電話が掛かってきたら素直に出よう。
そして近況を聞こう。
「どうだい?上手くいってるかい?」
「うん!上手くいってるよ!」
俺は心から手放しでS子を祝福する。
幸せで良かったと。

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エアーマン
ごめんなさいね〜サポートなんかしていただいちゃって〜。恐縮だわぁ〜。