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【メインストーリー】はじめての恋 蓮二編

蓮二は、家の奥にある書斎で本を広げていた。

とはいえ、勉強する気などさらさらなく、ただ親の目を避けるための口実だった。

静かな部屋で窓を開け放ち、心地よい風がカーテンを揺らしている。

「相変わらず退屈な集まりだな。」

ペンを指で回しながら、蓮二は溜め息をついた。
碧が外で何やら誰かと話している声が遠くから聞こえてくる。

「今日はまた誰を連れてきたんだか。」

そう思いながら椅子にもたれかかり、天井を見上げた。
しばらくそうしていると、静かなノックの音がドアを叩いた。

「どうぞ。」
蓮二が返すと、扉がゆっくり開いた。


そこに現れたのは、彼が見たことのない少女だった。

「はじめまして、蓮二さん。」

彼女はふわりと微笑み、まるで光が差し込んだような雰囲気をまとっていた。

艶やかな黒髪と深いルビー色の瞳が印象的で、蓮二は思わず目を奪われた。

「…なんで俺の名前知ってるんだ?」

蓮二は目を丸くして問いかけた。
自分の名前を初対面で知っているというのは、少し奇妙に思えたのだ。

彼女は軽く頭を下げ、恥ずかしそうに答えた。

「さっき、碧さんから聞きました。」

「…あいつ余計なことを。」
蓮二は小さく舌打ちをしながら、軽く肩をすくめた。

「で、お前は誰だ?」

蓮二は腕を組み、少し挑発的な表情で彼女を見つめた。

「麗奈といいます。」

彼女は丁寧に名乗り、微かに頬を染めた。
その仕草がどこか新鮮で、蓮二は思わず笑みを浮かべた。

「麗奈、か。まあ、座れば?」

彼は書斎の一角にあるソファを指差した。
麗奈は「ありがとうございます」と言いながら、そっと座った。

「碧とは外で話してたのか?」
蓮二は無造作に質問を投げかける。

「はい。お庭がとても綺麗で、お花のことを少し教えていただきました。」
麗奈の答えに、蓮二は少し鼻で笑った。

「へえ、あいつがそんな話を。意外だな。普段は無口で面倒くさがりなのに。」

蓮二は椅子を回しながら、彼女を観察するように視線を向けた。

「でも、お前も大した度胸だな。俺のところに直接来るなんて。」

彼の言葉に、麗奈は少し戸惑ったように笑みを浮かべた。

「偶然通りかかっただけなんです。でも、お邪魔でしたか?」

「いや、別に。」

蓮二は視線を窓に移し、風に揺れるカーテンを眺めながら続けた。

「まあ、つまらないと思ってたけど、お前がいるなら悪くないかもな。」

彼の言葉に、麗奈は控えめに微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、蓮二は心の中に不思議な感情が湧き上がるのを感じた。

「これからは思ったより退屈しないかもな?」

蓮二は冗談めかした口調で言いながら、内心で彼女という存在に強く惹かれ始めていた。

はじめての恋 蓮二編 終わり


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