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『5000回の呪縛』: 短編小説
高校2年生の陽菜は、授業中もスマホを机の下で確認する。TikTokのフォロワー数は4,999人。
「あと1人...」
3ヶ月前から投稿を始めた陽菜は、学校でも、食事中でも、入浴中でさえTikTokを開いていた。現実世界での存在感は薄れる一方だったが、オンラインでの人気は日々上昇していた。
画面を覗き込む陽菜の目は充血し、指は震えている。
午後11時59分、陽菜は5000人目のフォロワーを待ちわびていた。スマホの通知音が鳴り、ついにその瞬間が訪れる。
しかし、歓喜の代わりに恐怖が陽菜を襲う。
5000人目のフォロワーのプロフィール動画には、陽菜の日常が映っていた。授業中、友達と話す様子、家族との団欒...すべて陽菜が見失っていた日常の一コマだった。
「5000回、君は現実を見逃した。目を覚ませ。」というコメントが添えられている。
その瞬間、陽菜のスマホ画面が激しく明滅し始め、5000もの自分の顔が次々と現れては消えていく。
陽菜は悟る。自分がSNSに奪われた時間と引き換えに、本当の自分を5000回も見失っていたことを。
翌朝、陽菜は久しぶりに友達と一緒に登校した。スマホはカバンの中。
友達と話しながら歩く陽菜。しかし、その目は時折カバンに向けられる。
我慢できず、陽菜はカバンからスマホを取り出した。
スマホの画面には今までないほどの通知が。コメント欄には称賛の声が次々と届いている。
「ちょっとだけ…」とつぶやきながら、陽菜はTikTokを開く。
次の瞬間、画面の中で、陽菜の笑顔が不自然に歪む。フォロワー数は増え続け、現実世界はますます遠ざかっていく。
気づけば、陽菜は友達を置いて歩みを止めていた。
人々はその新しい動画を見て、「リアル」だと称賛していた。
陽菜の指は、もう一つの動画を撮影しようと動き始めていた。