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[1] 雷鳴 聞いて驚け。 私の拍手はスペイン仕込みだ。 山手線のホームは帰宅を急ぐ人々でごった返していた。大学を卒業して数年ぶりに出くわした友人は、昔とおんなじ顔で花帆にニッと笑いかけて言った。 拍手だ?突然、なにを言ってるんだ、この人は?と花帆は早瀬健太の顔をじっと見つめ返した。どうやら本気で言ってるらしい。 いいでしょう、やってやろうじゃないの、と花帆は心の中で胸を張る。先日、会社の先輩に招待され、フラメンコ教室の発表会を観に行ったばかりだ。いつもきれいめ系フ
このジャンケンに勝ちたい。 祈る思いで、握った右手を左の手のひらで包み込んだ。 目の前では久嶋さんが両手を組んで腕をくるりと回転させ、手の中をのぞいている。なにを出せば勝てるのかを探っているのだろう。 彼女も勝ちたいのだ。 あの言葉を言う権利を獲得するために。 「くっしーには似合わないじゃん、あきらめろよー」 クラスメイトの男子が久嶋さんをからかう。 「うるさいよ、そこー!」 久嶋さんが男子を指差していつも通り適当にかわすと、教室全体から笑い声があがった。 誰とでも
『タイムリープ忘年会』 作:元樹伸 第一話 忘年会の誘い 年の暮れになって、久しぶりに高校時代の友人から電話があった。年末に部活OBの忘年会があるという。平成元年の今年は、成人したばかりの後輩たちも参加してくれるらしい。 「つまりは松田も来るってことだ」 幹事を務める同期の真関くんが、電話口で含みのある言い方をした。 「へぇ」 動揺していることを勘ぐられたくなくて、気に留めないそぶりで相槌を打ってみせた。けれど僕の気持ちはすでに過去へとタイムスリップしてい
私の住む町の神社にはちょっと変わったおみくじがあった。 それは神主さんの手作りのおみくじで四字熟語が書いてある。たいていは「病気平癒」や「七転八起」などの当たり障りのないものだったが、時折「麻婆豆腐」やら「春眠眠眠」だのおかしなものが混ざっている。絶妙なゆるさが人気だった。 子供は一回50円。皆でおみくじを引きあって、誰が一番笑えるくじを引けるかを競いあって遊んでいた。 時折それは驚くほど現実を言い当てていることもある。 不思議で温かい、小さな町の小さな神社だからこ