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#小説 記事まとめ

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2022年10月の記事一覧

ありふれた災厄 月村了衛

 新しくオープンしたシネコンの発券機は、購入番号を何度入力してもチケットを吐き出してはくれなかった。 「すいません、ちょっと」  背後を振り返った梶田義昭は、ロビーを横切ろうとしていた女性従業員に大声で呼びかけた。 「はい、どうなさいましたか」  九〇度に近い角度で進行方向を変え、小走りに寄ってきた従業員にスマホの画面を示す。 「オンラインでチケットを購入したんですけど、何度やってもダメなんです。QRコードはどうも好きじゃなくて」 「少々お待ち下さい」  スマホ

ショートショート009『ぴっぴつ箋』

一筆箋を買いに来た。 離れて暮らすばあちゃんから入学祝いをもらったら、オカンがお礼の手紙を書きなさいと言った。 今どき手紙なんて。 ばあちゃんだってスマホ使うんだから、お礼メールでいいのにさー。 オレはあんまり文章を書くのが得意じゃない。 電話も好きじゃない。 普通のレターセットだと、いっぱい書くところがあって文字を埋められそうにないから、一筆箋にしようと思う。 オレは、ばあちゃんが好きな果物の柄の一筆箋を手に取ろうとした。 すると、隣に「ぴっぴつ箋」というのがあった。

ショートショート小説 『ごちそうおばけ』

 学校から帰る途中で、おばけに呼ばれた。おばけは電信柱のかげに立って、僕を手招きしていた。どうしておばけだと判ったのかといえば、おばけが自分でおばけだと名乗ったからだ。たしかに顔がぼんやりとして、足も透きとおっていて、おばけっぽかった。 「こんにちは。お腹すいてない?」  と、前々からの友達みたいに気さくに訊ねられたから、 「うん、すいてる」  と、僕は素直に答えた。育ちざかりの僕は、すぐにお腹がすいてしまう。小学校の給食だけでは、そんなには持たない。 「じゃあ、ご

カッパの皿探し

あるところに、カッパとかえるとかめが住んでいました。 三匹はよく近くの川で泳いで遊んでいました。 今日は川の岸から岸まで競争しょうということになり、泳ぎの大会がはじまりました。カッパもかえるもかめもみんな泳ぎには自信があり、だれもが自分が一位になると思っていました。 よーい、どんで一斉に川に飛び込んで競争がはじまりました。 かめは水の中をもぐることは得意でしたがちょっとこうらがおもたいせいか、なかなかスピードがでません。 かえるは得意のジャンプでスタートはゆうゆう一番