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オーバーホールに出された高級腕時計を、職人は丁寧に分解していく。 机の上に敷いた白いフェルト布の上に、百を超える部品が並べられる。 ピンセットで丁寧に最後の部品を並べ終わったところで、職人は右目の拡大鏡を外しため息をついた。 歳のせいか長く集中して作業をすることが難しくなっていた。 それでも明日までには腕時計が完璧に動くように整備しなくてはいけない。 依頼主は、地元の名士なのだから。 少し休憩した後に、職人は腕時計に向き直った。 一つ一つの歯車や部品がすり減
都会の夜はどこか寂しく思える。 青白い空も、いつまでも一人点滅している看板も、遠くで揺らいでいる電波塔も。全部自分のもののようにも思え、また世界の果てのようにも感じる。白い息の行方を目で辿ると、薄明の空が僕の頭上に横たわっていた。――みんなの知らない夜の姿、それを見るために僕は人より早く目を覚ます。 「おはよう、じいちゃん」 「えっと、お前は……たかし?」 「そう、だね」 僕は目の前から歩いて来た、海老の如く腰の曲がった老人に声掛けた。朝靄が街を包み込んでいて、視界はフ